【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

書店の役割は? 読者はどう変わったのか?

2010-02-13 00:15:15 | 読書/大学/教育
湯浅俊彦『書店論ノート-本・読者・書店を考える』新文化通信社、1990年

 本書は20年ほど前に出版されました。図書館でたまたま見つけました。本、書物、書積に対する価値観、それらをめぐる環境が激変するなかで、書店はどういう位置にあるのか、どうあるべきなのかについて問題提起がなされているいい本です。

 今となってはかなり古い本なので、読む価値があるかどうか迷いましたが、どうしてどうしてAmazonが幅をきかせている現在にも通用する内容です。あるいは、ここで提起されていることがらはもっと深刻になっているので、それらを考えるうえで避けてとおることのできない論点を確認するのに格好の本であるといえます。

 書店、読書をめぐる深刻な事態とは、一方にある「活字離れ」、書店にならぶ本は雑誌、コミック、文庫ばかり、店員にパート・アルバイトが増えている、労働条件の悪化、書店の倒産、新しい書店の登場、CVS(コンビニ)の台頭、書積の宅配便の増大などであり、他方にある「読書=高踏な行為」、「書積=文化財」といった旧態依然の価値観の固執です。

 著者は本書の最初で、書店のおかれている現状をおさえ、そのうえで「読者にとって書店とは何か」を考察しています。示唆に富む意見が開陳されていますが、そのうちのいくつかをあげると、POSシステムを前提とした経営合理化計画には賛意を示すことなく、選択買い・目的買いの読者の視点から書店を作りかえる思想を一貫させていること、書店は読者について鋭敏であるべきであり、本の一点一点が孤立して存在しているのではなく、著者やテーマの中で互いに関連しあっているという見えない関係性を的確にみぬかなければならないことなどです。

 強調されているのは、レジスター系としてのPOS、取り次ぎを結ぶ業界VANの通信系を組み合わせ、販売管理、受発注、書誌検索の合理化をはかる「書店SA(ストア・オートメーション)化構想」に対する危惧です。

 読書が人づくりにとってなぜよいことなのか(実はあまりきちんと解明されていない)、読書はいつも教養のためで、娯楽であってはならないのか(そんなことはない)、印刷物としての書積が流通していなかったときに知はそだたなかったのか(これもそうではない)など、読書に関する根源的な問いも随所にあります。

 第三部は困難な状況下でユニークな書店経営を行っている4人の書店人(小川道明氏[リブロ代表取締役y社長]、宍戸立夫氏[三月書房店長]、中西豊子氏[ウィメンズブックストア松香堂書店代表取締役]、菊地敬一氏[ブックハウス・ヴィレッジ・ヴァンガード代表])とのインタビューです。

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