【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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ロバート・ホワイティング/松井みどり訳『野茂英雄-日米の野球をどう変えたか』PHP新書

2012-02-23 00:05:26 | スポーツ/登山/将棋

              

 野茂英雄が日本の誇る大投手であることは疑いのない、誰でも認めるところです。メジャー・リーグという大舞台での日本選手の活躍に先鞭をつけただけでなく、立派な成績を残しました。


 本書で何度も触れられているように、野茂が周囲の反対を押し切り、「石もて追われる」ような状況を乗り越えてメジャーリーグに行くということがなければ、イチロー、松井の活躍はなかったし、WBAの開催、そこでの日本の優勝もなかったのです。

 本書は野茂英雄の近鉄バッファローズでの活躍、鈴木啓示監督との確執、メジャーに向かった経緯(ダン野村の戦略:「任意引退」)、ドジャース入団、ストライキ中のメジャーでの貢献、驚異のトルネード投法、両リーグでのノーヒッター(日本では、ノーヒット・ノーラン)の偉業(とくにホームランが量産されるクアーズフィールドでの達成[この球場があるパイクス・ピークは標高4302メートルで空気が薄く打者に断然有利] )などが客観的に叙述されています。

 ベースボールの領域での貢献のみならず、日米経済関係の当時のギクシャクした関係、軽視されていたアメリカでの日本のプロ野球の評価をくつがえしたことなど、広い視野から野茂英雄という人物を評価しているところが気持ちよいです。

 野茂英雄は、そういえば、無口で、愛想がない印象がないわけではありませんでした。アメリカ人は英語を話そうとしない彼にいら立ち、ときに人種差別のような侮辱を示した場面もあったようです。

 しかし、野茂の精神力は強靭でしたし、一端マウンドにあがれば降板は最初から考えることなく、ひたすら野球に専念したかっただけなのです。メジャーへの日本選手のパイオニア的存在、日米関係改善に果たした役割の大きさといったものは、後からついてきた評価で、野茂は野球以外のことで自分の役割を意識していたわけでないです。それがよかったのだと思います。

 本書は、日本のプロ野球の後進性(コミッショナーが放映権の売買や商品販売を統括するシステムがない、リーグ関連の土産物チェーンがない、収入を全チームで分かち合うシステムがない、など)の責任が「”帝国”支配にしがみつく読売」にあると指摘しています(p.270)。

 さらに日本のプロ野球の欠点の大半が真のフリーエージェント制を設けていないことに原因があるので、その改善が喫緊の課題であり、あわせて選手会を強くしなければならないと提言しています(pp.274-275)。

 野茂に続いた伊良部、吉井、長谷川、佐々木、松坂といった投手の評価についても、それぞれにかなりのページをさいています。また、最後の章ではメジャーの野球殿堂に入ることができるかどうかが、関係者の評価という形で紹介されています。


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