【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

ブルックリン横丁(A Tree Grows in Brooklyn)エリア・カザン監督、アメリカ、1945年

2018-01-05 19:55:49 | 映画



 20世紀初頭、ニューヨークの下町、ブルックリンに住むアイルランド系移民の貧し一家の生活と哀歓を描いた作品。ベティ・スミスの長編小説『ブルックリンに一本の木は育つ』(この映画の原題でもある)の映画化である。ノーラン家とその周辺の人たちとのなかに生まれたドラマを娘のフランシーの目で描いている。

 ノーラン家は、両親と姉妹の四人家族。決して大きくはない部屋に家族が肩をよせて暮らしていた。父のジョニー(ジェームス・ダン)、歌う給仕で人が良く、家庭でもいい父親であったが、酒飲みで、生活力にかけ、その日暮らしの給料取り。客からのチップが彼の大切な収入源といった生活をしていた。母のケイティ(ドロシー・マクガイア)はいい母親だが、生活のやりくりに疲れ気味で、余裕のない行動と表情で日々立ち働いていた。姉弟の名はフランシー(ペギー・アン・ガーナー)とニーリィ(テッド・ドナルドスン)、二人とも学校に通っていた。姉はしっかりもので勉強が読書も大好き、弟はその反対でわんぱくざかり。二人は、大変に仲がよかった。そして、くず拾いで生活を助けていた。叔母の結婚、フランシーの転校、クリスマス、父の死、妹の誕生、母と巡査との愛、このような出来事をとおして家族の愛と生活が綴られていく。

 叔母のシシイは、お調子もの。離婚を繰り返し三度目の結婚。そのような彼女に対して世間の風評は絶えなかった。ケイティは彼女をジョニーと同じような「人をまるめこむ天才」と煙たがった。挙句の果ては、子どもに悪い影響を与えると彼女を家から遠ざけようとした。子どもの服を買うのもままならないほどに苦しい生活をきりもりしているケイティには、お調子もののシシイが目障りでならなかったのだ。心がだんだん石になるほどに、ケイティは生活に疲れていた。

 フランシーとニーリィが通う学校は、知識を教えることだけに熱心で、子どもたちの心を育てようという観点がなかった。フランシーは、何となくそのことを感じて、学校がつまらなかった。ある日、彼女は父と散歩に出て、別の校区の学校に移りたいと父に話す。ケイティは反対したが、優しいジョニーはそれぐらいしかしてやれることはないといろいろな苦労の末、フランシーを転校させた。この新しい学校での彼女のマクドノー先生との出会いが、彼女の心を大きく成長させ、作家になりたいという希望を彼女にもたせた。クリスマスの日、フランシーは小さな嘘をついた。弟にパイをもちかってやりたかったのだが、そのことを先生に言い出せず、飢え死に寸前の不幸な子どもにあげたいのでパイが欲しいと嘘をついたのだ。彼女は即座に謝るが、先生はそのことが分かっていて、「想像力は自由な心が持つ貴重な宝。でも、使い方次第で危険にもなる。物語や音楽は想像力から生まれるの。真実を語るための嘘は、嘘でも物語になるの。実際に知っている現実に想像力を加えるの、ただの夢だけでは物語とはいえない、あなたにはその想像力がある」と言って逆に彼女を励ました。以来、フランシーは、本当に作家になろうと努力を始め、勉強にも身を入れるようになった。

 生活が厳しくなるなか、ケイティは新しい生命を感じた。妊娠だった。彼女は、心配の種がまた増えたといった様子で、率直に喜べず、ジョニーにもすぐ言いだせなかった。クリスマス・イブ、シシイ叔母さん夫妻を招いたささやかなパーティが終了したあと、ケイティはジョニーに妊娠を告げた。ジョニーは大喜び。だが、ケイティは生活を維持するためにはフランシーに学校をやめてもらわなければならないと思った。「もっと働くから」と言うジョニーに彼女は、「あてにならない」と突っぱねた。雪の降るなか、ジョニーは仕事を捜しに出掛けたが、そのまま行方が知れなくなった。後日、巡査が悲しい知らせを持って来た。ジョニーは職業安定所の前で、工夫の仕事を得るため長い間、順番を待っていて、肺病で倒れたのだった。卒業式の日、フランシーに父ジョニーからの花束とカードが届いた。彼が生前、手配していたのであった。妹が生まれた。名前はジョニーが好きだったアニーローリー。この約半年後、ケイティはマック巡査と結婚を前提とした、付き合いを約束した。巡査は以前から彼女に惹かれ、いろいろ世話をしていたが、フランシーもニーリィもこの約束を快く受け入れた。新しい出発の予感があってエンディング。   

 家族愛、とくに父と娘の愛情がすばらしい。ジョニーは生活力という面では全く頼りない人間であるが、彼のまわりでは笑いや歌がたえない。彼の人間的魅力を一番よく理解しているのは、フランシーである。転居先の屋根裏部屋におかれたピアノでジョニーがひきながら歌うスコットランド民謡は「アニーローリー」。娘が転校したいと言えば、苦心惨憺してそれを実現させてやるジョニー。妹が生まれることになって仕事を捜すうち職業安定所の前で倒れ、そのまま肺炎で帰らぬ人となったが、埋葬に集まって別れを哀しむ人の多さ。そのような父のことを忘れられずにフランシーは学校で作文に書き、次女の出産を前にベッドに横たわる母ケイティの前で読む、「父には人を笑わせ、愛される才があった。一緒に歩くと誇らしい気分になった。その才能を惜しみなく人に与えた、王のように」と。窓から見える木が切られて、「木が殺された」と言う娘にかつてジョニーは諭した。「木は殺せない。木は死なない。誰が植えたわけでもないのにセメントを破って生まれた。そんな力は誰にもおさえられない」と。最後の場面、フランシーとニーリィは、ジョニーの言ったとおり、しっかり大きく成長している木を感慨深げに眺めるのであった。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿