【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

アインシュタインの貢献

2010-05-15 00:27:17 | 自然科学/数学

L.パイエンソン『若きアインシュタイン-相対論の出現』共立出版、1988年
             
若きアインシュタイン―相対論の出現
 ニュートン力学の理論をアウフへーべン(止揚)し、特殊相対性理論を構築したアインシュタイン(1879-1955)。

 従来、アインシュタインの天賦の才がこの理論の源と評する考え方が支配的でしたが、本書は彼が育った家庭環境、教育環境、学問環境の影響が大であったことを強調し、その考え方にそった叙述をしています。その意味では、新しい科学史論です。

 わたしは、当時の純粋数学の牙城であったゲッチンゲン大学の研究者、とくにミンコフスキー、ヒルベルトの立場とアインシュタインの考え方との相違に興味がありました。

 アインシュタインはもちろん充分な数学的素養をもっていましたが、ヒルベルトの一般相対論の公理的提示に違和感をもち、数学的形式は物理学にとって「物理学的推論」と呼ぶものに役立つ道具にすぎないこと、基本的な物理的法則は実験的現象との緊密な比較によって達せられると考えていたそうです(p.33)。しかし、当時の物理学界はヒルベルト流の純粋数学の審美性、無矛盾性、完全性の虜になっていたようで(p.120)、アインシュタインのこの考え方は科学界では異質でした。しかし、今となっては、アインシュタインの指摘はあたっていると思います。

 第1章 アインシュタインの教育-数学と自然法則-
 第2章 無謀な事業ーアインシュタイン商会と19世紀終わりのミュンヘンにおける電気事業
 第3章 独立独歩の人ーアインシュタインの世界観の社会的起源
 第4章 ヘルマン・ミンコフスキーとアインシュタインの特殊相対性理論
 第5章 数学の支配下の物理学ー1905年のゲッティンゲン電子論ゼミナール  
  第6章 後期ヴィルヘルム期における相対論ー数学と物理学との予定調和へのアピール
 第7章 数学、教育、そして物理的実在へのゲッティンゲン的アプローチ、1890-1914
 第8章 相対論における物理的意味ーマクス・プランクによる『物理学年報』の編集、1906年から1918年
 第9章 初期アインシュタインの共同的科学研究

 専門的な部分の叙述は難解、晦渋ですが、最後まで読みとおしました。