【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

ロナルド・ドーア『誰のための会社にするか』岩波新書

2012-08-30 00:16:39 | 経済/経営

        

             
 著者は「はじめに」で、本書の狙いを明確に述べている。すなわち、本書の問いは、企業、会社が誰のものかではなく、誰のための企業、会社にするかである、とのこと。

 企業、会社のあるべき姿などはなく、これらの組織のコーポレント・ガバナンスはそれぞれの歴史、文化によって形成されているので、それぞれの国ごとに共有されている「一般常識」の上に、国内のさまざまな集団の利害関係の葛藤、妥協が積み重ねられ、その答えを多様な利害関係や理想の均衡点で選んでいくのだと書かれている。

 コーポレント・ガバナンスをめぐる状況は、「グローバル(すなわち米国の)・スタンダードへの適用」とナショナリスティクな「日本的な良さの保存」という対立軸、また「株主の所有権絶対論」対「さまざまなステークホルダーに対する責任を持つ社会公器論」という対立軸によって整理できるようである。2つの次元の対立軸はこのようだが、いずれの次元でも前者は新古典派的、自由主義的経済学者の考え方、後者は新制度派、進化派、ポスト・ケインズ派など、総じて社会重視派のそれである。

 著者は、いずれについても後者の立場に理解を示し、その方向で問題を整理し、将来展望しているが、ある種の懸念をもっていて、それは日本では政府の政策発表や日経新聞の記事を読んでいると、ますます”正当派”の論調が蔓延しつつあることであり、「株主所有物企業」が一般形態になりつつあることだそうだ。

 今日の格差社会は実はこうした風潮の結果でもあるわけであるが、この本のいいところはそれに切歯扼腕することなく、ステークホルダー企業の逆転の可能性について問題提起していることである。

 文章はやや分りにくい箇所がある。

山口義行「山口義行の”ホント”の経済」スモールサン出版、2012年

2012-07-26 00:02:50 | 経済/経営

              

  当面する経済問題の本質をストレートに明るみに出し、まことに歯切れがよい。


  3部からなり、第1部「日本の"今”」では消費税、TPP、日本の財政に関する問題が、第2部「世界の"今”」ではギリシャ問題(EU問題)、アメリカ経済の現況が、第3部「中小企業の"未来”」では中小企業のあるべき姿が、それぞれ論じられている。巷に流布されている俗説のどこがいかに誤っているかをときほぐしながら、経済の”ホント”に迫っているので、山口教授の見解がある種の清涼感とともに、胸に落ちる。

  たとえば、消費税問題では、この税金を払わなければならないのが「事業者」であり、税率UPを消費者に転嫁することが難しい中小企業は大変な迷惑を被る、TPPは農業だけでなく医療制度、建築業界とも深くかかわる、またISD条項(相手国に投資した企業がそこで損害を受けた場合、世銀傘下の国際投資紛争センターに提訴できる)の存在を無視しえないこと、日本の財政が破綻直前にあるとしきりに喧伝されているが、事態を慎重にみるべきであるtこと、それより怖いのは経常収支赤字であること、ギリシャの財政危機は確かに深刻なのだが、デフォルトさせない仕組みはすでにできあがっていること、デフォルト説の背後で投機筋が国債の空売りで儲けようとのたくらみがること、現在のEUの危機で、構成各国の結束がとよまっていること、などが意外な事実が次々と示される。

  さいごの中小企業論では、著者がそのたちあげに関わったスモールサンに参加している企業の豊かな経験、工夫が紹介され、日本中に閉塞感を蔓延させている「市場の成熟化」論に対し、発想の転換を迫る経営実践の数々が未来展望の契機になると、箴言している。

   論述は対話形式で組まれ、インタビューにはスモールサン事務局の柳田のぞみさんがあたっている。各部末尾の「深読みQ&A]ではタイムリーな問題を文字通り根底から明らかにされていて勉強になる。

 著者からの献本。


佐々木聡他『日本の企業家群像』丸善、2001年

2012-06-30 00:08:58 | 経済/経営

             
 
 わが国で企業者史(アントルプルヌーリアル・ヒストリー)の研究が学会の共有財産になってから40年しかたっていないという(p.251)[本書が出版されたのは2001年、それから10年たっているので、ここは50年と読むべきであろう]。

  本書はその成果のひとつ。
・1章・岩崎弥太郎・弥之助と渋沢栄一(会社企業の成立)
・2章・長瀬冨郎と鈴木三郎助(2代目)(国産新製品の創製とマーケティング)
・3章・鮎川義介と豊田喜一郎(新事業群の形成)
・4章・小林一三と堤康三郎(都市型第三次産業の開拓者)
・5章・小平浪平と松下幸之助(技術思考型事業展開と市場指向型成長)
・6章・井深大,盛田照夫と本田宗一郎,藤沢武夫(戦後型企業家と高度成長)
・7章・中内功と鈴木敏文(経営戦略と流通革新)。

  日本の産業界を牽引した錚々たる企業人が並ぶ。

  学研から『実録創業者列伝-熱き信念と決断の軌跡』(2004年)という本が出ている。これを横に置きながら読んだ。


森本卓郎「日本経済50の大疑問」講談社、2002年

2012-06-21 00:31:50 | 経済/経営

            

  不良債権を抱え,財政は大赤字,構造改革の論議はかまびすしく,一向に出口が見えない日本経済の現状と行方を50のQ&A方式で解き明かしていく。


  物価下落と需要の縮小というデフレ経済の是正が喫緊の課題であるというのが主張の根源にある。ともかく景気を立てなおさないことには,財政も改善されない。このままでは国債の暴落の危険性と金利上昇の懸念があると警告している。

  外資のハゲタカ・ファンドに日本経済が蹂躙されかねないという危機感の強い表明がある。日銀の無能ぶりをひはんしているのも特徴である。この10年来の超長期の不況の真犯人は日銀であるとはっきり述べている(p.141)。

 日銀が本気でデフレを止めるという判断をしなければいけないと著者は声高に叫んでいる。


橘木俊詔『家計からみる日本経済』岩波新書、2004年

2012-06-14 20:56:51 | 経済/経営

                    

  「行き先を見失った日本経済」「家計からみた戦後の日本経済」「豊かさを実感しない家計の存在」「家計の経済危機」「社会保障制度改革と家計の対応策」。

  各章のタイトルは面白そうだが,内容にはそれほど目新しさを感じられない。従来,言われていたことが体系的に整理されているところが長所か?

  指摘されている、貧困家計の増加,失業者の増大,生活への不満,世代間の抗争,社会保障改革の不徹底(p.191)は,確かなことだ。

  著者による日本の所得格差拡大傾向の実証は「日本の経済格差」に,また税の投入による年金改革は「消費税15%による年金改革」に詳しく,その議論が再論されている。医療保険制度についても一本化が望ましいと述べられている。

  歯切れがよい文体に好感。


榊原英資『為替がわかれば世界がわかる』文春文庫、2005年

2012-05-19 00:29:02 | 経済/経営

             

  「為替がわかれば世界がわかる」という標題になっていますが、話の中心はやはり為替の世界の理解の仕方です。冒頭に「21世紀のよみかた」があり、この部分で確かに若干21世紀の展望が示されてはいますが(アジアの台頭)、これだけでは本書の内容は変わらないと思います。


  筆者は財務省国際金融局の局長をつとめた人であり、実際に市場介入の政策判断の現場にいたことがあるので、その豊かな経験を紹介しつつ、為替相場の成り立ち、そこでの資金の動き方を展望しています。

  ロバート・ルービンの「世の中たしかなものなど決して存在せず、すべての現象は確率論的なものである」いう哲学、ジョージ・ソロスの「開かれた社会」における人間の「誤謬性」という哲学を称賛しています。また、スティグリッツによるマクロ経済学批判の姿勢を支持し、市場を読む基本原則の理論化という点で彼が成した貢献を評価しています。

  ヘッジ・ファンドの役割、情報の非対称性の容認、為替介入に必要なサプライズ、為替変動予測の限界などに関する著者の見解は傾聴に値します。

  5つの章(「第1章:為替市場は『美人投票』である」「第2章:為替取引は情報ゲームである」「第3章:為替の予測など当たるはずがない」「第4章:情報戦争で勝利する」「第5章:為替の背後に ing の世界が見える」)にキーワードが示され、これがいい指南役を果たしています。ReflexivityとFallibility(第1章)、イベント介入とロシア通貨危機(第2章)、プロジェクト・ファイナンスとワシントン・コンセンサス(第3章)、情報管理とフィジカル・コンタクト(第4章)、不胎化介入とグローバル資本主義(第5章)。

  コラム(「円・ドル相場の歴史をたどる」「古典派経済学と新古典派経済学」「アメリカが警戒するアジア共通通貨」「アジア通貨基金(AFM)構想」「Love Affair with Chinese economy?」)も面白いです。


スーザン・ジョージ/ファブリチオ・サベッリ/毛利良一訳『世界銀行は地球を救えるか』朝日新聞社、1996年

2012-03-30 00:09:30 | 経済/経営

             

  本書で解明されているのは、1944年にブレトンウッズで開催された国際会議で、IMFとともにその設立が決まった世界銀行が戦後世界で果たした役割です。

  47年から融資業務が始まり、当初はヨーロッパ諸国の戦後復興に融資していましたが48年に主として南半球の諸国に開発を目的とした融資がなされるようになりました。
  本書の全体構成は、冒頭に予備的知識が提供され、次いで1944年のブレトンウッズ会議の内容が紹介され(ケインズの描いた構想)、さらにロバート・マクナマラが長期にわたり総裁を務め、世銀の思想と行動原理を確立した経緯が分析されています。
  以降、「構造調整」の孕むドクトリンとその限界、世銀が借入国に極度の困難をもたらした経緯、「自由主義原理の戦士」といわれたラリー・サマーズの開発モデルの構成、1987年の機構改革(「世銀文化」と世紀末アジェンダの設定)、世銀コンディショナリティの影響力、NGOによる世銀標準業務指針と正統派経済学への問題提起、世銀の自己欺瞞的姿勢、世銀を牛耳っている支配者の特定、世銀のイメージと改革の可能性が順に論じられています。
  著者は経済機関を名乗っている世銀を厳格なドクトリンとヒエラルヒーによって支えられ、異なった考えを認めない一枚岩的組織であった中世の教会になぞらえて、分析を行っています。この点が特色です。

  「訳者あとがき」をたよりにしながら本書を通読して分ったことは、世銀が新古典派経済学の自由主義経済ドクトリンをバックボーンにし、開発優先のモデルを教条主義的に信奉し、これを第三世界および旧社会主義国に押し付けてきたこと、そのドクトリンに従わないならば開発のための借り入れを望む国々は無視されること、世銀は表向きには貧困の解消と環境保全を喫緊の重要課題に掲げているが、事態はそれと逆行する結果になっていること、旗幟とする人道主義は元利返済を強要する世銀の実際の行動と矛盾していること、などです。
  著者によって示されたこれらのひとつひとつの知見は、具体的事実の裏付けをともなって示されているので、一部叙述が難解であるにもかかわらず、説得力をもって読者に伝わってきます。
  重要な指摘は随所にありますが、いくつか代表的なもの参考までに列挙すると、ひとつは「持続可能性」という用語の欺瞞性で、経済成長がこの語と結び付けられると、それは終わることのない将来を約束するので、本来的に破壊的なプロセスが破壊的でないようになるという指摘であり(p.232)、世銀の開発モデルの基軸をなすのは「自然資本の価値はゼロ」という考え方である(p.231)などです。
  開発分野の人間は世銀の『世界開発報告』の統計から数字をよく引用するが、それらは信頼できない(p.248)、という指摘も記憶にとどめておくべきでしょう。


戸堂康之『日本経済の底力-臥龍が目覚めるとき-』中公新書、2011年

2012-02-03 00:09:03 | 経済/経営

            
 東日本大震災後の復興をいかに行うかが問われています。本書はその展望を示すことを目的に書かれ、復興の可能性は十分にあることに確信をもって議論が進められています。意図はわかりますし、いま必要なの叡智をふりしぼってその実現をはかることです。


 しかし、内容を読むと、これでいいのかという感じは否めません。ひとことで言えば著者の提案は、現在の日本に必要なのは技術進歩であり、それを可能にする「グローバル化」と「産業集積」であり、震災前から日本経済は長く低迷していたのですが、震災に直面している現在は「グローバル化」と「産業集積」を一気に進める絶好のチャンス、「三人よれば文殊の知恵」の精神で、WIN-WINの関係を構築して難関を突破しましょう、ということのようです。

 疑問なのは、著者のTPPに対する認識が甘いこと、消費税増税の主張の根拠も「国民全員が公平に負担」できるから(p.153)という間違った理解で片づけていることもありますが、いろいろな意味で岐路にある日本経済の今後を従来通り、経済発展、生産性の向上、GDPの増大などにもとめ、そのためにはどうしたらよいかという視点しかないことです。いま必要なのは経済成長がよいことと考える姿勢をあたらめることです。著者にはそれがありません。

 わたしの意見を述べるのは別の機会として、公平化のために著者の主張をもう少し詳しくまとめると以下のとおりです。

 成長のカギは2点ある。ひとつは「グローバル化」、具体的にはTPPの推進、もうひとつは東北地方をはじめとする日本各地での高度な「産業集積」の創出である。
 経済成長に必要なのは技術進歩であり、それを実現するには制度の大転換が不可欠であり、制度の大転換は大震災のような非常時に可能である(このあたりの話は『ショック・ドクトリン』の臭いがする)。
 このように提案したうえで著者は本論に入っていく。グローバル化が重要なのは海外から技術やアイデアを学べるからである。日本には生産性が高いのにグローバル化に二の足をふんでいる企業(臥竜企業)が多い、底力がありながら能力を発揮できていないので、殻を打ち破らなければならないというわけである。
 TPPは格好のチャンスである。その貿易拡大効果は無視できない。喧伝されるように農業が破壊されたり、デフレが進むことも、日本のよさが失われることもない。
 次に「産業集積」だが震災前、東北はこの「産業集積」が弱かった。日本で「産業集積」が弱いのは、ひとつには公共投資が地方に手厚く配分され、集積を阻害した。もうひとつは起業が少ないことである。
 このような状態から脱却するには政府による「つながり」や「技術」を核とした政策介入が必要であり、具体的には「特区」の設置である。
 2001年から経済産業省が音頭をとって展開されている「産業クラスター計画」はそのモデルになりうる。地域の実情にあった「特区」がいまもとめられている。

 本書の内容はおおむね以上です。議論の素材としてならば活用できるかもしれません。


『工場見学首都圏2012年版』昭文社

2012-01-16 00:09:59 | 経済/経営

         

  社会見学、工場見学紹介の本はまだありました。近くの本屋にいくと、書棚で見つけました。頭の片隅にブログで社会見学、工場見学紹介の記事を書いたので、眼に入ってきたのでしょう。

 この本には首都圏の関連情報が満載です。見開きで「見学のスポット」「おみやげ」「見学の流れ」「データ」の他、予約をすべきかどうか、無料か有料か、製造工程を体験できるか、一人でも見学できるか、記念品はるかどうか、写真撮影は可能かどうか、駐車場の有無、などの情報が出ています。

 惹句にパンチがあります。「行けばワカる! 見ればハマる!」「ものづくりの現場は感動の連続です」などなど。

 分野別に紹介があります。たとえば・・・。

<食品工場>
・日常食品(日清オイリオグループ横浜磯子事業場、明治東海工場など)
・伝統食品(キッコーマンもの知り醤油館、赤城フーズ東前橋工場など)

<飲料工場>
・ビール(サントリー武蔵野ビール工場、アサヒビール茨城工場など)
・ワイン・ウィスキー(サントリー登美の丘ワイナリーなど)
・日本酒(吉野酒蔵、小澤酒造など)
・ソフトドリンク(サントリー天然水白州工場、雪印メグミルク野田工場など)

<乗物工場>
・自動車(日産自動車横浜工場など)
・航空機整備(日本航空機体整備工場など)

<ものづくり> (ファースト電子開発など)

<生活雑貨> (ライオン小田原工場など)

<印刷・製紙工場>
・印刷(朝日プリンテックス川崎工場など)
・製紙(日本製紙クレシア東京工場など)

<環境対策>
・エコロジー(クレア環境かながわ事業所、世田谷清掃工場など) 

<研究機関>
・サイエンス(国立環境研究所、筑波宇宙センターなど)


『全国工場見学ガイド-新幹線・飛行機からマヨネーズ・明太子まで-』双葉社

2012-01-14 00:09:39 | 経済/経営

           

 ときどき、社会見学に行きます。これまでに訪れたのは、住友軽金属柏工場、朝日新聞社、東京地方裁判所(裁判傍聴)、杉並区清掃工場、府中サッポロビール工場、東京都議会、国会議事堂、日本銀行、東京証券取引所、造幣局などです。書かれたものを読んでいてもイメージがわかないことがあり、やはり現場で見て感じると違います。「百聞は一見にしかず」です。

 そして、最近は、企業も積極的に社会見学のコースをくみ、ものづくりの実際を見てもらう企画をくんでいます。それらを紹介して一冊の本にまとめたのが、この本です。どのようなところが紹介されているかというと・・・

・新日本製鉄 君津製鉄所
・東京ガス 袖ヶ浦工場
・東京電力 横浜火力発電所
・王子製紙 富士工場
・ロッテ 浦和工場
・味の素 川崎工場
・花王 川崎工場
・大塚製薬 徳島板野工場
・ダスキン横浜中央工場
・キッコーマン 野田工場
・キューピー五霞工場

 まだまだあります。207か所載っています。

 次はどこへ行こうかと、この本で捜しました。「全日本空輸 機体メンテナンスセンター」に決め、HPから見学予約をしようとしたところ、希望の曜日が限定されていることもあり、ほとんど満席です。かろうじて連休明けに、希望の曜日で空いていた日があったので、予約を入れました。いまから愉しみです。


植田忠義『フランチャイズは地域を元気にできるか-誰も書かなかったその役割と課題』新日本出版社、2011年

2011-05-30 00:33:42 | 経済/経営

             フランチャイズは地域を元気にできるか

 わたしたちの生活と密接なところにあるコンビニ。全国で約50000店ほどあり、1日の利用客約3000万人、一店平均一日600人以上が利用しています。その売上高は少ない店でも20万円、多いところでは100万円にもなります。

 コンビニはフランチャイズ・チェーンという形式をとっています。フランチャイズ方式とは何か? それは「ある事業を開発した企業が、それをさらに広げるため、その事業の一定のノウハウを別の事業者に提供し、統一した看板を使って事業展開することを契約する」方式のことです。「その元になる企業がフランチャイズ本部(フランチャイザー)であり、その方針のもとに営業するのが加盟店(フランチャイジー)」です。

 本部があって、加盟店を募集し、両者が契約を結ぶのですが、店を開くための資本と労働力は加盟店もちになります。

 この方式はコンビニばかりでなく、ダスキン、吉野家など他にもたくさんありますが、本書はコンビニに絞ってその問題点と可能性を展望したものです。

 問題点としては、純利益が非常に少ないこと(年間一億の以上の加盟店オーナー夫婦の可処分所得が300-400万円)、本部と加盟店との関係で、両者は対等平等ではないこと(フランチャイズ契約は事実上、「本部の権利、加盟店の義務」を定めたものになっている)、加盟店から本部に支払う「上納金」であるロイヤルティがあり、これが加盟店の経営を逼迫させていること、などがあります。また、24時間営業が一般的になっていますが、加盟店オーナーは家族総動員でこれに対応しているケースがあり、生活破壊につながっていること。さらに、中途解約違約金の法外なありかた、ドミナント方式(集中出店方式)の矛盾が指摘されています。

 著者は、ロイヤルティには逓減制を、24時間営業にはその選択権を加盟店にもたせるべきこと、中途解約違約金についてはFC契約条項からのその削除を提案しています。

 他にもコンビニで働くパート、アルバイトの厳しい労働条件にも触れられています(著者は時給1000円を提唱)。

 以上のように多くの問題点の指摘がありますが、かといって著者はコンビニに否定的であるのではなく、その公正な取引ルールを定めたフランチャイズ法(仮称)の制定をもとめつつ、地域経済活性化への役割を評価し、地域への定着、住民との連携の可能性を追求しています。

 全国FC加盟店協会[会員数約1000人]の結成は(1998年4月)はその可能性の担い手になるはずで、著者はそこの事務局長です。

 補論に「東北地方太平洋沖震災とコンビニ・フランチャイズ」があります。


岩田規久男『金融危機の経済学』東洋経済新報社、2009年

2011-02-23 00:05:33 | 経済/経営
                    
 著者は、本書を書いた目的を次のように説明しています。2008年9月以降に起きた世界金融危機が二度と起こらないように願って、①サブプライム・ローン問題の本質は何だったのか、②それはなぜ世界危機を引き起こしたのか、③世界金融危機が起こるまでと起きた後の各国(とくにアメリカ)の対策のどこにどのような問題があったのか、この経験からどのような金融危機防止策をとるべきか、について書くと(「はじめに」)。

 この課題の解決の道筋を示すために、著者はまず2000年代に入って信用力の低い人々向けのサブプライム・ローンがなぜ急増したのかを解説し(この部分はよく言われていることが書かれています)、続いてこのことが2007年以降の金融危機の引き金になった原因が、2000年頃からの証券化にともなう信用リスク移転取引市場に大きな変化が起きていたことにあったと述べています(債務担保証券市場とクレジット・デフォルト・スワップ[CDS]市場が急拡大したこと)。

 さらに、このことが世界的金融危機にいたってしまったのは、①サブプライム・ローンが住宅価格の上昇を前提としたローンであったこと、②このローンが複雑すぎて、投資家が適正な価格を見出す情報をもたなかったこと、③金融機関と投資家のレバレッジ比率(資産÷自己資本)が高すぎ、かつ短期資金への依存度が高かったこと、④ローンな関連の証券化商品が世界中の投資家によって購入されたこと、そして⑤大金融機関の破綻があったからなのだそうです。

 換言すれば、サブプライム・ローンの延滞率が2割弱程度に上昇しただけで、その関連市場がパニック状態になったのは、第一に、このローンは住宅価格が下落すると、債務不履行が急増する特徴をもったものだったこと。第二に、このローンの関連証券の構造が複雑で、投資家にはその中身を知る手掛かりがなかったこと、第三に多くの投資家のレバレッジ比率が著しく高く、くわえて短期資金で満期が長期のサブプライム・ローン関連証券に投資していたため、後者の価格下落によって投資家が資金繰りが苦しくなり、結果的に流動性危機におちいったからに他なりません。

 著者は後半部分で、望ましい金融危機の緊急対策を次の5点にまとめています。①流動性対策:中央銀行による流動性の大量供給、②預金保険制度による対応(破綻銀行を救済する銀行への資金援助と預金保護の引き上げまたは全額保護、③不良資産を優良資産から分離し、専門機関が処理、④銀行の国有化、⑤銀行への資金注入(p.171)。

 今回の危機は言ってみれば、非金融機関(投資銀行、ヘッジファンドなど)発の金融危機でした。それゆえ、従来型の銀行中心の金融安定化・危機対策では到底対応できず、体系的な金融規制と金融監視とともに資産価格の安定化政策の提唱、具体的には資産成長率に連動させた自己資本比率の規制などの選択が必要だったのです。ベア・スターンズの破綻からリーマン・ブラザーズの破綻を経て、AIGの破綻にいたる間の、アメリカ政府とFRBの対応の迷走ぶりと対応の遅れは、銀行中心の金融安定化政策に拘泥し、非銀行金融機関を巻き込んだ新たな次元の危機への対策を打てなかったためと言っていいようです。

福島清彦『持続可能な経済発展-ヨーロッパからの発想-』税務経理教会、2005年

2011-02-22 00:05:10 | 経済/経営
          
 半世紀ほど前から構想されたヨーロッパ統合。それはEU(欧州統合)として実現しましたが、この歩みは2000年以降、「持続可能な発展(Sustainable Development)」という思想の樹立(アメリカ型の成長至上主義との決別)という形で現在も進行中です。

 本書はこの「持続可能な発展」という思想の内容、その具体化である持続可能な発展戦略がもつ現代的を意義を紹介した本です。

 持続可能な発展戦略は3つの柱をもっています。それらは、環境、福祉、競争力です。これに発展途上国の発展の支援という視点がくわわるそうです。

 EUの環境・エネルギー政策については、2005年3月のグリーンペーパーにもとづいて解説されています。白書に掲げられている優先政策は以下の6点です。(1)電力とガスについて欧州域内供給網の完成、(2)加盟国の結束で、供給の安全を保証する域内エネルギー市場、(3)エネルギー源の多様化、効率化、(4)気候変動を防止する統合された取り組み、(5)エネルギー分野での技術革新促進、(6)首尾一貫した対外エネルギー政策。

 福祉政策では、各国が歴史的に作ってきた固有の精度を尊重しつながらも、それらを公開しあい、学ぶべきものを取り入れることを推奨する「開放的調整政策」がとられているようです。福祉政策と労働市場の在り方に関しては、市場の弾力性の確保と失業時の安全の保証の両立が志向され、それは「弾力的安全性(flexicurity)」という造語に象徴されています。

 最後の競争力強化政策に関しては、2000年3月に採択されたリスボン戦略が重要です(基本目標:雇用、人的資本、研究開発、サービスの市場統合、行政改革)。それぞれの目標には、数値も公表があります。この戦略は、内容的に達成が困難と認められたのため、2005年に見直しがなされ、新リスボン戦略としてまとめられました。その内容は、教育によって労働力の質を高め、若年の長期的無業者、失業者に対して、労働の習慣を身につけさせることにポイントがあるそうです。

 EUのいまを知るには、好著です。著者からいただいた本で、少々、遅くなりましたが読了しました。

平川克美『反戦略的ビジネスのすすめ』洋泉社、2004年

2011-01-29 00:07:27 | 経済/経営
              
                  
             
 「ビジネス」とは一体何なのか? 著者がこの本で試みているのは、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の改革、すなわち「ビジネス・プロセスを『収益』や『売上』の手段という地位から引き上げて、ビジネス・プロセスそれ自体に『価値』を見出」すことです。

 ビジネスそのものが立ち上がってくる起源的な場所である「欲望」「交換」「贈与」「共同幻想」にこだわりつつ議論が展開されています。それが著者のねらうところでした。

 したがって、ビジネスを「戦略」とい視点からとらえる考え方は最初から排除されています。この事情は、著者の言葉によれば「ビジネスを勝つか負けるかといった闘争の原理で語ることがいかにつまらない信憑によっているのか、それがいかに不毛なことであるかということを解き明かしながら、それとはまったく異なる考え方を・・・提示したいと思」うのであり、「ひとことでいってしまえば、お客さんと向き合って、喜んでもらえるという交換の基本を忘れないようにしようよ、ビジネスのすべての課題は、ビジネスの主体がお客さんと何をどのようにして交換したか、その結果、主体の側に何が残り、お客さんの側に何がのこったのかということのなかにあるはず」だということになるのだそうです。

 この延長で、アメリカ発のグローバリズム、市場原理主義、それをまに受けた日本の産業政策は、否定的にとらえられています。要素還元的思考の脱却、キーワードとしてのオーバーアチーブ、インビジブル・アセット、「一回半ひねりのコミュニケーション(個人の欲望は必ず「商品」を媒介として、迂回的に実現するほかはないというビジネスの構造を形容する言葉)など、ビジネスを考える問題提起はいたるところに露出しています。議論するには格好の素材がころがっています。

 構成は以下のとおりです
序章:わたしがビジネスを戦争のアナロジーで語らない理由
第1章:ビジネスと言葉づかい~戦略論を見直すために~
第2章:ビジネスと面白がる精神~会社とは何か~
第3章:見えない資産としての組織~組織とは何か~
第4章:プロセスからの発想~仕事におけるゴール、プロセスとは何か~
第5章:モチベーションの構造~人が働く本当の理由~
第6章:一回半ひねりのコミュニケーション~なぜ、なぜ働くのかと問うのか~
第7章:それは何に対して支払われたのか~評価とは何か~
第8章:攻略しない方法~新しいビジネスの哲学として~
・内田樹君とのビジネスをめぐるダイアローグ


平川克美『会社という病』NTT出版、2003年

2011-01-14 00:20:29 | 経済/経営

          
 株式会社について哲学的に考察した本です。

 著者はビジネス関係の問題を考えるさいに、ビジネスに関する理論書、啓蒙書、実用書はほとんど役だたず、役にたったのは哲学書、思想書だったと言っています。そして歴史家、網野善彦と経済学者の岩井克人の思想には教えられるところが多かったと述懐しています。

 全体は6章からなり、第一章「経済的人間-大きくなりすぎた経済の力」から第四章「因果論-結果は原因の中にすでに胚胎し、原因は結果が作り出す」までが株式会社について論じている部分で、第五章は梅田望男著『ウェッブ進化論』を、第六章は藤原正彦著『国家の品格』をとりあげて論評を加え、文明批評を行っています。

 著者のいう「株式会社の病」とは、ひとことで言えば「人間の欲望」のことです(p.46)。あるいは株主が関心を持つのは会社の価値ではなく、株の時価総額であり、実は株式会社はのぞんでいるのもそれであり、株主と会社の共犯関係が「病」だと言っています(p.147)。株式会社は会社の永遠の形態でも、最良の形態でもありません。それは歴史の産物であり、乱熟した資本主義におけるひとつの形態にすぎないのです。

 所有と経営を分離することによって株式会社は、財やサービスの生産という迂回路を省略して利潤(配当)を得ることができるようになりました。そして株式が取り引きされる証券市場が形成され、莫大な利益をえる可能性の場が生まれました(もちろんリスクも大きいのですが)。

 しかし、株式会社はもともと反社会的存在であり、1720年には英国議会が株式会社を不法として禁じたこともあったことがあるほどです。そういった事例をひきながら、著者は会社というものはどういうものなのか、現在社会に進行するさまざまな企業不祥事がなぜ繰り返されるのか、この問題に回答をあたえるためには経営者、株主個人の問題としてではなく、会社シズテムの問題(会社の存在論)について考える方法論が必要であると考えたようです。

 株式会社について論じながら、話題はときに政治、教育、宗教にまで及んでいます。株式会社の問題は単純に経済と労働のロジックだけでは解けないからです。この姿勢には共感がもてました。

 日本の社会が高度成長以降、大きく変わってしまったこと、互酬的共同体が崩壊し、金が金を生む時代に突入するにいたったこと、著者が感情を抑えた文章のなかから時折発する怒りは、欲望が社会を駆動し、そのことが肯定的こ評価される狂った社会、日本に向けられているようです。