「トヨタ生産方式」とは何か? 「トヨタ生産方式」がトヨタのあみだした独特の生産方式で「かんばん」方式として知られることはわかるのですが、もっと正確に説明しようとするとなかなかうまく説明できません。「かんばん」方式とは何なのか。アメリカのフォード方式とどこが違うのか。
本書は、その「トヨタ生産方式」の真髄を解説した文献です。
まとめると、トヨタ方式とは、戦後の日本の自動車工業に与えられた制約、多品種少量生産から生まれたもので、ムダを徹頭徹尾排除するための生産効率向上の方式です。
この方式の魂は2つ、ひとつは[ジャスト・イン・タイム]、もうひとつは[自働化]です。前者は一台の自動車を流れ作業で組み上げていく過程で、後工程から組み付けに必要な部品を、必要なときに必要なだけ前工程に引き取りに行き、前工程は引き取られた分だけつくり、それを生産ラインのわきに正確に到着する仕掛けのことです。
後者は自動化ではなく、「動」に人遍のついた自働化であるというのが味噌で、機械に人間の知識を付与すること、機械にビルトインされた良し悪しの判断装置のことです。
いわゆる「かんばん」方式の「かんばん」は、前者のジャスト・イン・タイム実現するための管理道具です。具体的には後行程が前工程に部品を引き取りにいくさいの「引き取り情報」または「運搬情報」を四角のビニール袋に入れた紙切れです。行程間の効率的な連携はこの情報としての「かんばん」によって保持されるわけです。
さらに、これをシステムとして機能させるためにさまざまな工夫がなされ、従来生産現場の常識をくつがえす試みが数々行われました。
それは一人の作業者が多数の行程を担当する「多行程持ち」であり、「流れ作業」をつくる「流し作業」を、「省力化」ではなく「小力化」を意識化することであり、標準作業(標準手持ち)を徹底することであり、指標として「稼働率」ではなく「可動率」を使うということ、といったものです。
著者はフォードシステムとの相違についてもふれ、この方式が少品種多量生産というアメリカ的市場特性にみあったものであるのに対し、トヨタ方式は多品種小量生産という現在の環境に適したものと考えています。ただし、フォードが追求した生産効率の構想はトヨタ方式へと転換される方向もありえたのが、1920年代のアメリカの自動車市場の変化がそれを許さない条件をつくったので、そういう流れにならなかっただけである、とのことのようです。
著者、大野耐一(明治45年~平成2年)はトヨタ方式のプロデューサーとのこと、1975年に出版された本書は2010年に107刷りを数えています。
その大野さんがトヨタ方式を述懐して「佐吉翁から喜一郎氏へ、さらに私どもの時代へ、企業の内外の大きな条件変化のなかで、トヨタ自身、自己発展を遂げてきた。このような経過を、弁証法的発展というのではないかと思う」と書いてるところがあり、「弁証法」という懐かしいタームの使い方が面白く受け取りました(p.168)。