655)セファランチンの抗がん作用と脱毛予防効果

図:ツヅラフジ科の植物タマサキツヅラフジの根から抽出したアルカロイドのセファランチン (cepharanthine) には、白血球増多作用や口内炎予防、抗炎症、血管新生阻害、がん細胞の増殖抑制、細胞死(アポトーシス)誘導作用などがん治療に役立つ様々な薬効が報告されている。脱毛を防ぎ、育毛を促進する効果もある。抗がん剤治療に積極的に併用して有用と思われる。

655)セファランチンの抗がん作用と脱毛予防効果

【植物アルカロイドから薬効成分が多数見つかっている】
抗がん剤の分類の中に「植物アルカロイド」と言われるものがあります。アルカロイド(alkaloid)という言葉は「アルカリ様」という意味ですが、窒素原子を含み強い塩基性(アルカリ性)を示す有機化合物の総称です。
植物内でアミノ酸を原料に作られ、植物毒として存在しますが、強い生物活性を持つものが多く、医薬品の原料としても利用されている成分です。
モルヒネ、キニーネ、エフェドリン、アトロピンなど、医薬品として現在も利用されている植物アルカロイドは多数あります。
抗がん剤として使用されている植物アルカロイドとして、キョウチクトウ科ニチニチソウに含まれるビンクリスチンビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系、イチイ科植物由来のパクリタキセルドセタキセルのタキサン系、メギ科ポドフィルム由来のエトポシドテニポシドなどのポドフィロトキシン系などがあります。
イリノテカンは中国の喜樹という植物から見つかったカンプトテシンという植物アルカロイドをもとに改良された誘導体から開発されました。
ビンカアルカロイドは細胞分裂に重要な微小管の重合を阻害し、細胞分裂を停止させます。タキサン系は微小管の脱重合を阻害して細胞分裂を阻害します。エトポシドやイリノテカンはトポイソメラーゼの働きを阻害して細胞分裂を阻害します。(下図)

図:抗がん剤として使用されている植物アルカロイドとして、キョウチクトウ科ニチニチソウに含まれるビンクリスチンやビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系、イチイ科植物由来のパクリタキセルやドセタキセルのタキサン系、メギ科ポドフィルム由来のエトポシドやテニポシドなどのポドフィロトキシン系などがある。イリノテカンは中国の喜樹という植物から見つかったカンプトテシンという植物アルカロイドをもとに改良された誘導体から開発された。

【セファランチンはタマサキツヅラフジの根から抽出したアルカロイド】
セファランチン (cepharanthine) は、ツヅラフジ科の植物タマサキツヅラフジの根から抽出したアルカロイド、あるいはそれを含む医薬品です。
医薬品としては、日本の製薬メーカー化研生薬が製造販売しており、散剤、錠剤、注射剤の剤形があります。
医薬品としてのセファランチンには、セファランチンイソテトランドリンシクレアニンベルバミンが主な成分として含まれています。これらはビスコクラウリン型アルカロイド(biscoclaurine alkaloid)と言います。

図:タマサキツヅラフジから抽出したアルカロイドにはセファランチン(Cepharanthine)、イソテトランドリン(Isotetrandrine)、シクレアニン(Cycleanine)、ベルバミン(Berbamine)が主な成分として含まれている。

タマサキ(玉咲)ツヅラフジは台湾の標高700mの山地に自生する雌雄異株のツル性の多年草で、古くから原住民により蛇咬傷時の民間薬として珍重されていました。生薬名は白薬子(ビャクヤクシ)と言います。
1914年に当時の台北帝国大学教授の早田文蔵博士が Stephania cepharantha Hayata の学名で発表し、1917年にタマサキツヅラフジと命名しました。
その後1934年に近藤平三郎博士(当時東京帝国大学教授)らによって、有効成分としてセファランチンなどのアルカロイドが分離されました。
セファランチンは結核菌の発育を阻止する効果が認められ、1942年に結核の治療及び予防の医薬品として承認されています。
現在では、保険適用の効能・効果として、内服剤(末 1%、錠 1mg)は放射線による白血球減少症円形脱毛症・粃糠性脱毛症が認められています。
注射剤は放射線による白血球減少症、円形脱毛症・粃糠性脱毛症、滲出性中耳カタル、まむし咬傷が保険適用されています。 
保険適用されていませんが、口内炎にも効果があります。
医薬部外品としては、白薬子抽出エキスは毛母細胞の増殖を促進する作用があることから、育毛剤にも使用されています。
さらに、最近の研究で、がん細胞の増殖を抑制する効果やアポトーシスを誘導する作用、血管新生阻害作用など、がん治療における有効性が報告されています。
副作用は極めて少なく(副作用の発生率は1%以下で、主な副作用は食欲不振や胃部不快感や発疹など)、しかも安価であるため、がんの補完・代替医療として、試してみる価値は高いと言えます。

【セファランチンは様々な機序で抗がん作用を示す】
セファランチンは様々な機序で抗がん作用を発揮します。セファランチンの抗がん作用として以下のような報告があります。

◉ がん組織の血管新生を阻害してがんの増殖を抑制する。

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)とインターロイキン-8(IL-8)は腫瘍組織の血管新生に関わっており、VEGFやIL-8の発現や活性を阻害することはがん組織の増殖抑制に効果があります。また、転写因子のNF-κBはVEGFやIL-8の発現を高めることが知られています。口腔がん(扁平上皮がん)細胞を使った実験で、セファランチンはNF-κBの活性を阻害し、VEGFとIL-8の発現を抑制して、血管新生を阻害することを、培養細胞を使った実験と移植腫瘍を使った動物実験で確かめられています。(Int J Oncol. 35:1025-35, 2009年.)

◉ セファランチンは転写因子のNF-κBの活性を阻害することによってがん細胞の増殖を抑える。

転写因子のNF-κBはがん細胞の増殖を促進し、細胞死を起こりにくくして抗がん剤に抵抗性にする作用があります。血管新生を促進する作用もあります。
胆管細胞がんの培養細胞株を使った実験で、セファランチンはがん細胞のNF-κBの活性を阻害し、アポトーシス(細胞死)を誘導する作用が報告されています。マウスに胆管細胞がん細胞を移植した実験では、セファランチンの投与は強い副作用を起こさずに、がん細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍を縮小させました。セファランチンは胆管細胞がんの治療に効果が期待できる可能性が示唆されています。(Cancer Sci,101:1590-5. 2010年)
がん細胞のNF-κB発生を阻害してがん細胞にアポトーシスを誘導する作用は、悪性リンパ腫でも報告されています。(Int J Cancer. 125:1464-72, 2009年.)

◉ 細胞周期を止めてアポトーシスを誘導する。

骨髄腫細胞を使った培養細胞での実験(in vitro)で、セファランチンは骨髄腫細胞の細胞周期を止めアポトーシスを誘導する作用が報告されています。この論文の中には、セファランチンの単独投与、あるいはステロイドとの併用で、著効を示した骨髄腫の臨床例も報告されています。(Int J Oncol, 33:807-814, 2008年)
○ がん細胞の抗がん剤耐性獲得に関与するP糖蛋白の働きを阻害して抗がん剤の効き目を高める。
P糖蛋白が高発現してドキソルビシンに耐性になっている肝細胞がんの細胞株を使った実験で、セファランチンを投与するとドキソルビシンの抗腫瘍効果が増強することが報告されています。肝臓がんの36%でP糖蛋白の高発現を認めているので、肝臓がんの抗がん剤治療にセファランチンの投与を併用すると、抗腫瘍効果を高めることができます。(Int J Oncol. 24:635-45. 2004年)


◉ がん細胞の放射線感受性を高める。

頭頚部がんでは転写因子のNF-κBの活性が正常細胞と比べて極めて高くなっていることが知られています。NF-κBはがん細胞を死ににくくする作用があり、がん細胞が抗がん剤や放射線治療に抵抗性になる原因となっています。抗がん剤や放射線照射によってNF-κBが誘導され、さらに治療に抵抗性になることも報告されています。
ヌードマウスにヒト口腔扁平上皮がんを移植した実験系で、放射線照射の抗腫瘍効果をセファランチンが増強することが報告されています。その機序として、セファランチンはがん細胞のNF-κBの活性を阻害することによって放射線感受性を高めることが示唆されています。(Int J Oncol 31: 761-768, 2007年)
セファランチンは放射線治療の副作用を軽減する効果も報告されています。(放射線治療中であれば、セファランチンは保険で使用できます)

◉ 抗がん剤のTS-1と併用して抗腫瘍効果を高める。

ヒトの口腔扁平上皮がんを移植したヌードマウスにTS-1を投与する実験で、セファランチンを併用すると、抗腫瘍効果が高まり、副作用(体重減少)が予防できることが報告されています。(Anticancer Res. 29: 1263-70, 2009)
その他、活性化したマクロファージの一酸化窒素合成酵素の活性を阻害して炎症を軽減する作用、発がん過程を促進する発がんプロモーター作用を抑制する作用、温熱療法の効果を高める作用、インターフェロンの抗腫瘍効果を増強する作用、フリーラジカル消去作用、抗ウイルス作用なども報告されています。


【セファランチンはコレステロール輸送を阻害して血管新生を阻害する】
セファランチンの抗がん作用のメカニズムに関する研究は最近でも報告があります。以下のような論文があります。

Pharmacological blockade of cholesterol trafficking by cepharanthine in endothelial cells suppresses angiogenesis and tumor growth.(内皮細胞におけるセファランチンによるコレステロール輸送の薬理学的遮断は血管新生および腫瘍増殖を抑制する。)Cancer Lett. 2017 Nov 28;409:91-103.

【要旨】
コレステロールは内皮細胞における膜タンパク質機能およびシグナル伝達の重要な制御物質であり、したがって血管新生阻害剤の新たな標的となっている。本研究では、血管内皮細胞内の細胞内コレステロール分布を検出する表現型スクリーニングを使用し、コレステロール輸送阻害剤として13の既存薬を同定した。
抗炎症剤およびがん治療用途に承認された薬であるセファランチンは、コレステロール輸送と血管新生の関連を検討するメカニズム研究のために有用であることがわかった。
セファランチンは、ニーマンピック病タイプC1(NPC1)タンパク質への結合およびリソソームpHを上昇させる機序により、血管内皮細胞における遊離コレステロールおよび低密度リポタンパク質のエンドリソソーム内輸送を阻害した。
コレステロール輸送の遮断は、リソソームからのmTORのコレステロール依存性解離を引き起こし、mTORの下流のシグナル伝達の阻害をもたらした。セファランチンは、コレステロール依存的に、血管内皮細胞およびゼブラフィッシュにおける血管新生を阻害した。
さらに、マウスに移植した肺がんと乳がんの異種移植腫瘍の実験モデルにおいて、セファランチンは血管新生を阻害することによってインビボで腫瘍増殖を抑制し、標準化学療法シスプラチンの抗腫瘍活性を増強した
まとめると、これらの結果は、コレステロール輸送が血管新生阻害のための実行可能な薬物標的であり、そしてセファランチンのような既存の薬物の中で同定された阻害剤が潜在的な血管新生阻害剤あるいは抗がん剤になり得る可能性を支持する。

ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)は、先天的な遺伝子の変異によって引き起こされる酵素の異常によって、本来分解されるはずの不溶性の代謝物が細胞内に蓄積する先天性代謝異常症です。原因遺伝子によって幾つかのタイプがありますが、ニーマン・ピック病C型は脂肪輸送の欠陥によって、細胞内にコレステロールが蓄積し、小児期に運動失調やその他の神経症状を生じる病気です。
ニーマン・ピックC型の発症に関与するNPC遺伝子は細胞内コレステロール輸送に関係する遺伝子で、セファランチンはNPC遺伝子産物を阻害してコレステロールの細胞内輸送を阻害することによって、血管新生を阻害するというメカニズムです。
細胞内のコレステロール輸送の阻害ががん治療に重要なターゲットになっています。コレステロールは細胞膜の重要な構成成分の一つだからです。コレステロールは脂質ラフト(lipid rafts)を構成し、細胞膜の透過性と流動性に重要な役割を担っています。
細胞構造に関与するだけでなく、コレステロールは様々なステロイドホルモンの合成材料になります。
さらに、細胞内シグナル伝達にも関与しています。
最近の研究によって、血管新生において重要な役割を担っていることが明らかになっています。
血管内皮細胞のシグナル伝達系においてコレステロールが重要な役割を担っており、コレステロール輸送を阻害する薬剤が血管新生阻害剤となる可能性が指摘されています
コレステロールは血管新生を亢進します。
HMG-CoA還元酵素を阻害するスタチンが血管新生を阻害することが報告されています。
細胞内のコレステロールレベルが細胞の増殖を促進し、血管新生を亢進します。したがって、細胞内のコレステロールレベルを低下させると、がん細胞の増殖を抑制することができます。
したがって、コレステロールの合成を阻害するスタチンデルタ・トコトリエノール、細胞内のコレステロール輸送を阻害するセファランチンはがん細胞の増殖抑制に有効です。
乳がんの治療に使う抗エストロゲン剤のタモキシフェンが、細胞内コレステロール輸送を阻害して血管新生阻害作用を示すことが報告されています。
コレステロールの消化管からの吸収を阻害するEzetimibe (Zetia)が血管新生を阻害することも報告されています。

【セファランチンの脱毛予防効果】
セファランチンは放射線による白血球減少症の他に、円形脱毛症・粃糠性脱毛症に対して保険適用が認められています。
医薬部外品としては、白薬子抽出エキスは毛母細胞の増殖を促進する作用があることから、育毛剤にも使用されています。
脱毛や薄毛は様々な原因によって発生します。したがって、全ての脱毛に効果が出るわけではないのですが、セファランチンはある程度確実な脱毛予防と育毛効果があるようです。
多くの人は年齢とともに髪の毛が薄くなります。頭皮の血液循環が悪くなったり、毛根の活力が低下するからです。したがって、このような老化による薄毛には、頭皮の血液循環を良くして毛根の活性を高めることが重要になります。
セファランチンには炎症反応やアレルギー反応を抑制する効果、頭皮の血管を拡張して血流を良くする効果などによって脱毛を抑制することが報告されています。さらに、毛髪数および毛直径を増加させる効果があり、毛成長速度を増加させて、毛成長を促進する効果が報告されています。
私自身、3〜4年くらい前から脱毛が多くなり、髪の毛が明らかに薄くなりました。
育毛効果が証明されているというミノキシジルの内服やミノキシジルの入った育毛剤(リアップ)、育毛効果が報告されているデルタ・トコトリエノールの内服など、考えられるあらゆる方法を2年間ほど試しましたが、あまり効果は実感しないままでした。そこで、4ヶ月ほど前からセファランチンを1日6mg程度の服用を開始すると、明らかに脱毛が減少し、髪の毛が明らかに増えました。(下の写真参照) 

図:3〜4年くらい前から少しづつ髪の毛が薄くなり、64歳の頃にはかなり薄毛になった。いろんな育毛剤を使用したが効果は得られなかった。4ヶ月前からセファランチンを服用すると薄毛が明らかに改善した。 

抗腫瘍効果の増強と副作用(白血球減少、脱毛)の予防に、セファランチンを抗がん剤治療に併用することは有効だと思います。
セファランチンは放射線治療中の白血球減少と円形脱毛症・粃糠性脱毛症では保険適用が認められています。抗がん剤治療との併用は保険適用はできません。
しかし、安価な薬なので、自費診療で購入して併用する根拠と価値はあります。
私自身がその育毛効果に驚いたので、セファランチンを紹介した次第です。ただし、脱毛や薄毛の原因は多様で、セファランチンが効かない場合も多くあります。

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 654)アンジオ... 656)抗生物質... »