がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
187)がん治療に役立つ食材(11):梅(梅肉エキス)

図:梅の未熟果実(青梅)をすりおろし、布巾で絞った汁を弱火で混ぜながら煮詰めるとドロッとなり、黒っぽい水飴のような酸味の強い梅肉エキスができる。この梅肉エキスは様々な健康作用があり、がん治療においても有用な効能を持っている。
187)がん治療に役立つ食材(11):梅(梅肉エキス)
【梅は昔から薬として利用されてきた】
梅の木は中国が原産地で、今から1500年ほど前に中国から伝えられたと言われています。
太古の社会では、梅の実は薬として利用されていました。
飛鳥時代、中国に派遣された小野妹子が持ち帰ったと言われる鳥梅(うばい)は、青梅をワラか木の根の煙でいぶし焼きにし、天日に干して乾燥させたものです。出来上がるとカラスのように真っ黒になるので、鳥梅とかカラスウメと呼ばれるようになりました。
鳥梅は現在も漢方薬の薬剤として用いられ、下痢や吐き気止め、解熱、せき止めなどに活用されています。東洋医学の原典といわれる「神農本草経」には、鳥梅の効能として「肺の組織を引きしめ、腸の働きを活発にし、胃を元気つけ、虫を殺す」と記されています。
【梅肉エキスの抗がん作用】
梅肉エキス(梅肉膏ともいう)はバラ科のウメ(Prunus mume)の未成熟果実を加工したもので、江戸時代から伝わる日本独自の民間薬です。梅の実が若い間はリンゴ酸が多いのですが、熟度が増すにしたがってクエン酸の量が多くなります。梅肉エキスは、完熟直前に採取した青梅の実で作ります。
梅肉エキスは、生の青梅をすりおろし、布巾で絞った汁を加熱してゆっくりと煮詰めたものです。弱火で混ぜながら煮詰めるとドロッとなり、黒っぽい水飴のような酸味の強い梅肉エキスができます。
梅肉エキスは下痢や食中毒の特効薬として知られ、感冒や咳や咽頭炎などにも用いられます。殺菌効果の他に、血液浄化、体力増強、疲労回復などの効能も知られています。
このような昔から知られている梅肉エキスの効能は、がん患者さんの病状の改善にも利用できるものが多くあります。以下のような効果が期待できます
1. 梅肉エキスはエネルギー産生に必要なクエン酸が豊富
梅がすっぱいのは有機酸が豊富だからです。有機酸は果実や野菜にも含まれる酸味成分です。
有機酸には、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸などいろいろありますが、梅にも最も多く含まれる有機酸はクエン酸で、次いでリンゴ酸です。100グラム中の梅肉エキスの有機酸含有量を見ると、クエン酸47.5グラム、リンゴ酸14.2グラムといった具合です。
梅のクエン酸含有量はレモンやミカンなどと比べるとはるかに多く、特に梅肉エキスは約60%がクエン酸を中心とする有機酸です。
クエン酸は私たちが食べたものをエネルギーに変えるのを手助けする働きがあります。そのエネルギー産生の一連の流れをクエン酸サイクルと呼びます。クエン酸サイクルは別名、TCAサイクル、クレブス・サイクルとも呼ばれていて、これを発見したのはイギリスのクレブス博士は、1953年に「クエン酸サイクル理論」でノーベル賞を授与されています。
このクエン酸サイクルは複雑な生化学反応ですが、このサイクル(回路)が回らないと、細胞はエネルギー切れになってしまいます。クエン酸はこのクエン酸サイクルを活性化してエネルギーを効率良く産生する働きを持っています。
また一方、がん細胞はこのクエン酸サイクル(TCA回路)の働きが悪くなっていて、がん細胞のクエン酸サイクルを活性化するとがん細胞が死にやすくなることが知られています。
したがって、梅エキスによってがん細胞と正常細胞のクエン酸サイクルを活性化することは、体を元気にしてがん細胞を死滅させる効果が期待できます。
(第168話、第175話参照)
2. クエン酸などの有機酸はミネラルの吸収を良くする。
体の免疫力や抗酸化力や再生能力などは、亜鉛やカルシウムやセレンのような必須ミネラルが不足していると満足に行なうことができません。ミネラルは細胞の分裂や酵素反応に必須であるため、ミネラルが不足すると体の治癒力が低下することになるのです。
免疫力と密接に関連するミネラルに亜鉛があります。亜鉛は300種類もの酵素の働きに必要で、細胞の成長と分裂に重要なカギをにぎっているため、亜鉛が不足すると免疫細胞の産生と働きがうまくいかなくなります。
ミネラルは体に備わった抗酸化酵素の働きを高めるために重要な働きをしています。スーパーオキシドを過酸化水素に変えるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性にはマンガン、銅、亜鉛が必要です。過酸化水素を水と酸素に分解するカタラーゼには鉄が、グルタチオン・ペルオキシダーゼにはセレン(セレニウム)が必要です。
体の傷を治す力(創傷治癒力)、細胞の働きの大本である遺伝子の異常を絶えず監視しているDNA修復システム、組織の欠損を補う再生能力が全ての細胞・組織・臓器に備わっており、この自己修復・再生システムの働きによって、体の構成成分を一定にしかも正常な状態に保全することが可能になります。このような自己修復がスムーズに行われるためには、必須ミネラルの働きが重要です。細胞内外の酵素反応の多くに必須ミネラルが関わっているからです。さらに体の恒常性を維持する上で必要な神経やホルモンの働きにも、ミネラルは重要な役割を担っています。
クエン酸などの有機酸は必須ミネラルの吸収を高める作用があります。多くのミネラルは単独では腸からの吸収が悪いのですが、有機酸と結合すると小腸からの吸収が良くなるからです。また梅肉エキス自体がミネラルが豊富です。つまり、梅肉エキスに含まれるミネラルと、その吸収を良くするクエン酸などの有機酸の相乗効果によって、体の抵抗力や治癒力を高める効果を発揮するのです。
3. 梅肉はアルカリ性食品
ミネラル類には、酸性を示すミネラルとアルカリ性のミネラルがあります。どの食品が酸性食品で、どの食品がアルカリ性食品なのかは、食品を燃焼させて灰にした後に残ったミネラルによって判別できます。灰に酸性のものが多ければ酸性食品、アルカリ性のものが多ければアルカリ性食品というわけです。
梅肉エキスに含まれるミネラルはリンを除いて、圧倒的にアルカリ性のミネラルの方が多いのが特徴です。大変すっぱい梅肉エキスは酸性食品のように思われますが、実は強力なアルカリ性食品なのです。
人間が健康であるためには、常に血液を弱アルカリ性に保っておく必要があります。血液が酸性に傾くと、イライラや神経過敏の兆候が見られるようになり、抵抗力や治癒力も低下してきます。
主食である米をはじめ、酒、白砂糖、卵、魚、牛豚肉、鶏肉、バターなど、カロリーがあり、毎日たくさん食べている食品のほとんどが酸性食品だからです。したがって、強力なアルカリ性食品のすっぱい梅干や梅肉エキスをはじめ、野菜や海藻類などのアルカリ性食品をしっかりとることは、食生活のバランスを保つうえでたいへん大切です。
さらに、梅肉エキスに含まれるクエン酸は、クエン酸サイクルを活性化することによって乳酸の生成を抑えてくれるため、体が酸性に傾くのを防ぐ作用もあります。
つまり、梅肉エキスはアルカリ性食品の王様と言っても過言ではありません。
4.解毒機能を高める
梅は昔から「三毒を絶つ」といわれています。三毒とは、「食べ物の毒」、「血の毒」、「水の毒」です。先人は、鳥梅や梅干などを用いた結果、その「三毒を断つ」という効用を実感していたのです。
これは、梅肉エキスに含まれる有機酸などの成分による抗菌作用や、肝機能を高めることによって肝臓の解毒作用を助ける作用、血液や体液が酸性に傾くのを防ぐ作用などを意味していると思われます。
また、クエン酸は、栄養素を完全に燃焼させてエネルギーに替え、不要なものは炭酸ガスと水に分解して体外に排出してくれる動きがあり、さらに、梅肉エキスに豊富に含まれている有機酸が腸を刺激し、ぜん動運動を活発にし、排便をスムーズにすることも体の解毒機能を高めることになります。
抗がん剤による治療中や治療後では、死滅したがん細胞や正常細胞によって死細胞や老廃物が蓄積します。また、抗がん剤が完全に代謝されて排泄されるまでは抗がん剤の毒作用がしばらく残ります。このような体内に増えた毒性物質や老廃物の分解と排泄を促進し、血液をきれいな状態にするために、「血液浄化(cleansing)」や「解毒(detoxification)」を促進する梅エキスは有用です。_
5. 食欲を高める
食欲増進剤としても、梅は効果的な働きをもっています。
梅に豊富に含まれるクエン酸は爽やかな酸味ですから、食欲のないときでも、食をすすめる手助けをしてくれます。
酸味が味覚中枢を刺激して、唾液の分泌を促進します。唾液の分泌が良くなれば、当然、胃液の分泌も良くなる、という具合に、プラスの連鎖反応を起こします。
6.がん細胞を殺す作用のあるトリテルペノイドを多く含む
梅肉エキスに多く含まれる天然トリテルペノイドはがん細胞を殺す作用があり、抗がん作用が期待されています。実際に犬や人間の腫瘍に効果があった症例が報告されています。
7.感染症を予防する
梅肉エキスは、カゼなどの感染を予防するとともに、その強力な殺菌作用が食あたりを防ぎます。また、腸炎ビブリオ菌やサルモネラ菌といった食中毒菌だけでなく、コレラ菌、チフス菌、赤痢菌などの増殖もストップさせます。
8.ピロリ菌に体して強力な殺菌効果を発揮する
ピロリ菌は胃や十二指腸の潰瘍を引き起こす菌です。胃がんや胆道感染症などにも関係があります。
このピロリ菌の殺菌に、梅肉エキスが強力な効果を発揮することが報告されています。梅肉エキスの溶解濃度が0.15%以上ならピロリ菌の発育を阻止し、通常の服用濃度に当たる0.9%液だと5分以内に98~99%のピロリ菌を殺すということです。梅肉エキス溶液に含まれている主成分のクエン酸が、効果を発揮すると考えられています。
この濃度0.9%液というのは、1グラムの梅肉エキスをぬるま湯110ミリリットルに溶かした濃度に当たります。
9.肝機能を改善する
ウイルス性慢性肝炎や脂肪肝などによる肝機能障害に対して、梅エキスによる改善効果が報告されています。
梅エキスの抗がん成分を濃縮したサプリメントに「ミサトールデリシャス」があります。
梅肉エキスに多く含まれる天然トリテルペノイドはがん細胞を殺す作用があり、抗がん作用が期待されています。実際に犬や人間の腫瘍に縮小効果や延命効果があった症例が報告されています。 (ミサトールデリシャスについてはこちらへ)
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