702)ビタミンDはCOVID-19の感染と重症化を予防する

図:体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-dehydrocholesterol)は皮膚で紫外線(HV-B)照射を受けてビタミンD3(Cholecalciferol)へ変換される(①)。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取される(②)。ビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシラーゼ(25-hydroxylase)によって25(OH)ビタミンD3(Calcidiol)に変換され(③)、さらに腎臓で、1α-ヒドロキシラーゼ(1-alpha hydroxylase)によって活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)になる(④)。活性型ビタミンD3は、自然免疫・獲得免疫の活性化、サイトカインストームの発生抑制、レニン・アンジオテンシン系のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2) / Ang(1–7)/ Mas受容体(MasR)経路を促進するなどのメカニズムによって(⑤)、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染と重症化を予防する(⑥)。多くの疫学研究で、ビタミンD欠乏がCOVID-19の発症と死亡率を高める可能性が示唆されている。

702)ビタミンDはCOVID-19の感染と重症化を予防する

【ビタミンDは多様な生理活性作用を持つ】
元来ビタミン(vitamin)というのは、生命に必要なアミンの意味で、微量で生体の正常な発育や物質代謝を調節し、生体機能に不可欠な有機化合物で、普通は動物体内では生合成されないもので、食物などから摂取する必要があります。
しかしビタミンDは例外で、体内で合成できます。つまり、ビタミンDは体内で生成されることから、ビタミンというよりホルモンに近いと言えます。ただ、ホルモンは生体内で生成されるものに限定されるので、ビタミンDは体内で産生されるだけでなく、食品からの摂取量も多いのでビタミンに分類されています。

欧米の報告では、体内のビタミンDの90%程度は皮膚で紫外線を浴びて生成しており(7-デヒドロコレステロールからプレビタミンD3を経てビタミンD3)、10%程度が食事から摂取と言われています。
ビタミンDの主な働きはカルシウム代謝の調節です。ビタミンDは、小腸からのカルシウムの吸収を高め、腎臓からの尿への排出を抑制し、骨からの血中へのカルシウムの放出を高めることによって血中のカルシウム濃度を高める作用があります。
しかし、ビタミンDにはカルシウム代謝や骨形成における役割だけでなく、細胞の増殖や分化や死、生体防御機構、炎症、免疫、発がんなど多岐にわたる生体機能の調節に関与していることが明らかになっています。
例えば、ビタミンDの不足は、くる病や骨軟化症だけでなく、自己免疫疾患、呼吸器感染症、糖尿病、高血圧、循環器疾患、神経筋肉系疾患、がんの発生と深く関連していることが明らかになっています

ビタミンD受容体は生体防御や免疫に関わる細胞(単球、マクロファージ、抗原提示細胞、活性化T細胞など)で発現しています。これはビタミンDが生体防御や免疫に重要な働きを持つことを意味します
がんとの関連においては、ビタミンDの多い状態(日光、食事、サプリメントなど)は多くのがんの発生を予防することが多くの疫学研究で明らかになっており、がん細胞の増殖抑制や細胞死(アポトーシス)や分化の誘導作用によってがん治療にも有用であることが明らかになっています。

ビタミンDの作用メカニズムは、核内受容体を介するメカニズム(遺伝子発現が関与)と細胞膜に結合した受容体を介するメカニズム(遺伝子発現は非関与)の2種類に大別されます。
核内受容体を介するメカニズムは多数の遺伝子の発現を制御することによって発揮されます。
細胞膜に結合したビタミンD受容体にビタミンDが結合すると、フォスフォリパーゼCやプロテインカイネースC(PKC)、フォスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)などの増殖シグナル伝達系が活性化されます。この活性化はビタミンD依存性の遺伝子発現とクロストークすることによって、がん細胞の増殖抑制や分化誘導や細胞死誘導の作用を増強します。(下図参照)

図:体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-dehydrocholesterol)は皮膚で紫外線(HV-B)照射を受けてビタミンD3(Cholecalciferol)へ変換される(①)。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取される(②)。ビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシラーゼ(25-hydroxylase)によって25(OH)ビタミンD3(Calcidiol)に変換され(③)、さらに腎臓で、1α-ヒドロキシラーゼ(1-alpha hydroxylase)によって活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)になる(④)。活性型ビタミンD3は、核内受容体への結合による遺伝子発現の調節や、細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化のメカニズムによって(⑤)、骨形成やカルシウム代謝、炎症、免疫、発がん、細胞増殖、分化、アポトーシスなど様々な生理機能の調節に関与する(⑥)。

活性型ビタミンD(1,25(OH)2-ビタミンD)は医薬品として使用されています。一方、通常のビタミンD(ビタミンD3)はサプリメントとして市販されています。
活性型ビタミンDは血清カルシウム濃度を高めるので、使用には注意が必要です。一方、サプリメントのビタミンD3は、肝臓で25(OH)ビタミンDに変換されたあと、必要に応じて腎臓で代謝されて活性型になり、その活性化は、副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によって厳密にコントロールされているため、安全性が高いと言えます。(血中カルシウム濃度が上がると副甲状腺ホルモンの分泌が低下して腎臓での1,25(OH)2ビタミンDの合成が低下する)

ビタミンDは骨代謝や血中のカルシウム調節に重要な役割を果たしています。
骨や歯の発育や維持に重要な役割を担っており、ビタミンDが欠乏すると骨の形成異常が起こり、小児期に発症するものを「くる病」、成人期以降に発症するものを「骨軟化症」と呼んでいますが、これらは骨の石灰化がうまくいかず、骨が軟らかくなる病気です。
ビタミンDはくる病を治す栄養因子として20世紀初めに発見されました。
骨形成やカルシウム代謝の調節以外のビタミンDの役割の存在は、カルシウムやリンの代謝とは関係のない組織や臓器の細胞にビタミンD受容体が見つかったことから明らかになりました。
すなわち、ビタミンD受容体はカルシウム代謝に関連する小腸、骨、腎臓、副甲状腺の他に、皮膚、脳、筋肉、肝臓、免疫系細胞などほぼ全ての組織での発現が観察されています

【ビタミンDは肝臓と腎臓で代謝されて活性型になる】
ビタミンDはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)D3(コレカルシフェロール)の総称です。
ビタミンD2は植物に含まれるエルゴステロール(プロビタミンD2)から生成され、ビタミンD3は動物の体内でコレステロールから生成されます。
ビタミンD2はキノコなどの植物性食品に含まれ、特に白キクラゲや干し椎茸に多く含まれています。ビタミンD3は魚に多く含まれています。

日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。すなわち、日光に含まれるUV-B帯域(波長280~315 nm)の紫外線が皮膚に当たると、表皮内で7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)からプレビタミンD3を経てビタミンD3(コレカルシフェロール)が生成されます。
7-デヒドロコレステロールはコレステロールから体内で生成されるので、紫外線を含んだ日光に当たることでビタミンDは体内で作られるビタミンということになります。
体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD2およびD3は、肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンD(カルシジオール:Calcidiol)に変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンD(カルシトリオール:Calcitriol)になります。
25(OH)ビタミンDは体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環しています。したがって、血中25(OH)ビタミンDの濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられます。(下図)

図:自然界のビタミンDは植物で紫外線の働きで生成されるエルゴステロール(ergosterol; プロビタミンD2)と動物の皮膚で紫外線の働きで生成される7-デヒドロコレステロール(7-dehydrocholesterol ; プロビタミンD3)から合成される。ビタミンD3は肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシ・ビタミンD3(Calcidiol)になり、さらに腎臓で1α位が水酸化されて1α,25-ジヒドロキシ・ビタミンD3(Calcitriol)となって活性化される。1,25(OH)2ビタミンDが活性型ビタミンDで、25(OH)ビタミンDは体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環している。血中25(OH)ビタミンDの濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられる。

【血清中のビタミンD濃度はCOVID-19の死亡率と逆相関する】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染によって発症するCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)軽症や無症候で治癒する症例から、致死的な重症例まで、幅広い臨床像を呈することがわかっており、重症化に関わる条件に注目が集まっています。
これまでの報告から、高血圧や心臓病や糖尿病を有する高齢者が重篤化しやすい傾向が明らかになっています。
感染の機会を減らす目的で外出自粛が推奨されていますが、日光を浴びないことによるビタミンD不足は、COVID-19の重症化の要因の一つになるという指摘があります。
前述のようにビタミンDは日光の紫外線を浴びることによって皮膚で産生されます。つまり、日照時間の短い緯度の高いところに住んでいる人は体内のビタミンDの濃度が低い傾向にあります。また、ビタミンD含有量の多い魚やキノコの摂取量が少ない場合もビタミンD欠乏の原因になります。

ヨーロッパの国を対象に、それぞれの国の国民のビタミンDの平均濃度とCOVID-19の発症数と死亡数の関連を検討すると、ビタミンDの濃度とCOVID-19の発症数および死亡数は逆相関するデータが報告されています。つまり、ビタミンDの血中濃度が低いほどCOVID-19の発症数と死亡数が多いという関係です。
以下のような報告があります。

The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality(コロナウイルス疾患2019の感染と死亡の予防におけるビタミンDの役割)Aging Clin Exp Res. 2020 May 6 : 1–4. doi: 10.1007/s40520-020-01570-8 [Epub ahead of print]

【要旨の抜粋】
この研究の目的は、さまざまな国の住人の血清中ビタミンD濃度の平均レベルとCOVID-19による感染数および死亡率との間に潜在的な関連があるという仮説を提案することである。
欧州20か国のビタミンDの平均レベルと、COVID-19による罹患率と死亡率が取得された。 
各国のビタミンDの平均レベル(平均56 nmol/L、標準偏差 10.61)と、COVID-19症例数/100万人(平均295.95、標準偏差 298.7)、および死亡数/100万人(平均5.96、標準偏差 15.13)の間には負の相関が認められた。
ビタミンDレベルは、特にスペイン、イタリア、スイスの高齢人口で非常に低くなっていた。これは、COVID-19に対して最も脆弱な集団でもある。COVID-19患者における疾患の重症度とビタミンDレベルに関する専門的な研究を実施することが必要と思われる。

これは英国の研究チームによる論文です。
全世界の国を対象にビタミンD濃度との関連を検討しても、明らかな相関は認められないと思います。医療や公衆衛生のレベルや人口密度など、COVID-19の感染や死亡率に影響するビタミンD以外の要因の違いが大きいからです。
その点、この研究で対象になったヨーロッパの20カ国は、医療や公衆衛生のレベルに大きな差がないので、体内のビタミンDの濃度がCOVID-19の感染や死亡に影響するかの検討か可能になると思います。

研究チームは各国の国民における平均ビタミンDレベルとCOVID-19の症例・致死率の関係について調査しました。その結果、ヨーロッパ20カ国において、国民のビタミンDレベルとCOVID-19症例数の間、特に致死率との間に相関関係がみられました。
イタリア・スペイン・スイスでは特に高齢者の平均ビタミンDレベルが少なく、これはCOVID-19が重症化したグループと一致しているということです。

図:ヨーロッパの20カ国の、それぞれの国民の血清25(OH)ビタミンDの平均濃度と、それぞれの国の人口100万人当たりのCOVID-19による死亡者数(左図)と感染者の数(右図)がプロットされている。25(OH)ビタミンDの血清濃度が高いほどCOVID-19の感染と死亡の数が少ないという負の相関が認められている。(出典:Aging Clin Exp Res. 2020 May 6 : 1–4.)

以下の論文はアイルランドの研究者からの報告です。

Vitamin D and Inflammation: Potential Implications for Severity of Covid-19(ビタミンDと炎症:Covid-19の重症度に対する潜在的な影響)Ir Med J; Vol 113; No. 5; P81

【要旨の抜粋】
背景:ビタミンDがサイトカインや細胞内シグナル伝達経路の調節を介して、自然免疫と獲得免疫の両方の免疫システムを活性化する作用を有する可能性が近年の研究によって示されている。
ビタミンDの状態がCOVID-19の重症度に影響を与え、ヨーロッパにおけるビタミンD欠乏症の有病率が、COVID-19の死亡率と密接に関連するという仮説を立てた。

方法: COVID-19感染が広がっているヨーロッパの国や地域における高齢者のビタミンDの状態に関する文献検索をPubMed(言語制限なし)で行った。COVID-19の感染と死亡率のデータは、世界保健機関から収集された。

結果:予想に反して、緯度が低く、日照の多い晴れの日が多いスペインやイタリア(特にイタリア北部)では25(OH)ビタミンDの平均濃度が低く、ビタミンD欠乏症の有病率が高かった。これらの国々では、COVID-19の感染率と死亡率がヨーロッパの中で高い数値を示した。
緯度の高い北方の国々(ノルウェー、フィンランド、スウェーデン)は、南ヨーロッパよりも日光による紫外線を受ける量が少ないが、平均25(OH)ビタミンD濃度がはるかに高く、ビタミンD欠乏症の有病率は低く、特にノルウェーとフィンランドでは、COVID-19の感染率と死亡率が低くかった。
25(OH)ビタミンD濃度とCOVID-19の死亡率は、有意(P = 0.046)な逆相関を示した。

結論:ビタミンDの状態を良くすることは、COVID-19に対して潜在的な利点がある。COVID-19におけるビタミンDの役割を支持する生物学的根拠と疫学的データが存在する。

ヨーロッパでは緯度が高い(北に位置して日照時間が短い)国の人がビタミンDの濃度が低いというわけではなく、スペインやイタリアではヨーロッパの中でビタミンDの濃度が低く、COVID-19の死亡率も高い結果でした。
ノルウェー・フィンランド・スウェーデンでは日光や紫外線量が少ないのですが、サプリメントの摂取や食事によるビタミンDの補給が行われているため、ビタミンDレベルが高くなっています。国民のビタミンD濃度を高めるために、食品にビタミンDを入れる政策が行われている国もあります。
北欧諸国ではCOVID-19の感染率と致死率が低く、ビタミンDレベルとCOVID-19の致死率の間には「統計的に有意な相関が見られる」とのことです。(下図)

図:ヨーロッパの国々の国民の血清中25(OH)ビタミンDの平均濃度と人口100万人当たりのCOVID-19による死亡者数の間には統計的有意な逆相関の関係が示されている。(出典:Ir Med J; Vol 113; No.5; P81)

以上の疫学データは、ビタミンD欠乏が新型コロナウイルスの重症化と関連することを示唆しています。
ビタミンDは、免疫力を高めてウイルス感染を防ぐ効果や、炎症性サイトカインの産生を抑制してサイトカインストームの発生を阻止したり、血液凝固を抑制する作用などが報告されており、COVID-19による深刻な合併症を軽減し得る可能性が高いことを示唆しています。

これらの研究では、スペインや北イタリアといった一般的に日当たりがいい国におけるビタミンD欠乏症の率が高いことが示されています。これらの国はヨーロッパにおいてCOVID-19感染率および死亡率が最も高い国でした。
一方で、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンなどは、日照時間が短いにもかかわらず、食品による補充と強化からビタミンDレベルが高く、COVID-19感染率および死亡率が低いことが示されています
ノルウェーやフィンランドやスウェーデンは海に囲まれて漁業が盛んで、サーモンやタラなどビタミンDの多い魚を多く食べる食生活の特徴も関連しているかもしれません。
また、肌のメランン量が多い(肌の色が黒い)と紫外線の皮膚からの吸収が低下して、皮膚でのビタミンDの産生が低下します。したがって、肌の色が白い人が多い北国は日照が少なくてもビタミンD濃度が高くなるのかもしれません。
COVID-19の発生以来、イギリス、スコットランド、ウェールズでは、すべての成人が1日につき少なくとも400 IUのビタミンDを摂取するよう、推奨量の改定が公衆衛生団体によって勧告されています。

【ビタミンDの補充は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染と重症化の予防に役立つかもしれない】
以下のような報告があります。イタリアとスイスの研究者からの報告です。

25-Hydroxyvitamin D Concentrations Are Lower in Patients with Positive PCR for SARS-CoV-2.(SARS-CoV-2のPCR陽性患者は25-ヒドロキシビタミンDの血清濃度が低い)Nutrients. 2020 May 9;12(5). pii: E1359. doi: 10.3390/nu12051359.

【要旨】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、コロナウイルス疾患2019(coronavirus disease 2019:COVID-19)を引き起こす。COVID-19は軽症から死亡を含む重篤な病状まで様々な臨床転帰を示すが、なぜ一部の患者が重篤な症状を発症するのかは不明である。
多くの研究者は、感染症のリスクにビタミンDの関与を示唆している。したがって、スイスのCOVID-19患者の集団から得られた血漿中の25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)濃度を調査した。
このコホート(観察対象となった患者集団)では、SARS-CoV-2のPCR陽性患者の25(OH)Dの血清中濃度の中央値は11.1 ng / mLで、PCR陰性患者の25(OH)Dの中央値24.6 ng / mLと比較して有意に低かった(p = 0.004)。70歳を超える患者に限っても同様の結果が確認された。
この予備的な観察に基づいて、ビタミンDの補給はSARS-CoV-2の感染リスクを減らすための有用な手段かもしれない。これらの推奨事項を評価し、予備的な観察を確認するために、ランダム化比較試験および大規模集団研究を実施する必要がある。

ビタミンDの活性型は1,25-(OH)2ビタミンDです。25(OH)ビタミンDは体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環しています。したがって、血中25(OH)ビタミンDの濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられます。
通常、血中25-OH-ビタミンDが50 nmol/L(20 ng/ml)以下が不足状態と考えられています
この報告で、SARS-CoV-2のPCR陽性患者の25(OH)Dの血清中濃度の中央値が11.1 ng / mLというのは、ビタミンD濃度がかなり低い状態を意味します。
この研究では、SARS-CoV-2のPCR陽性が27人、PCR陰性が80人の計107人の比較です。サンプル数が少ないので、再現性を確認するために大規模な研究がさらに必要ですが、統計的に有意(p=0.004)な差なので、ビタミンD3をサプリメントで補う価値はあると思います。
以下のような報告もあります。米国からの報告です。

Evidence that Vitamin D Supplementation Could Reduce Risk of Influenza and COVID-19 Infections and Deaths.(ビタミンDの補給がインフルエンザとCOVID-19の感染と死亡のリスクを低減できるという証拠)Nutrients. 2020 Apr 2;12(4). pii: E988. doi: 10.3390/nu12040988.

【要旨】
世界はCOVID-19パンデミックの危機に瀕している。検疫に加え、感染と死亡のリスクを軽減できる公衆衛生対策が切実に必要とされている。
この論文では、呼吸器感染症のリスクを軽減するためのビタミンDの役割、インフルエンザとCOVID-19の疫学に関する知識、およびビタミンDの補給がリスクを軽減するための有用な手段となる理由を概説する。
いくつかのメカニズムを通じて、ビタミンDは感染症のリスクを減らすことができる
これらのメカニズムには、ウイルスの複製率を下げることができるカテリシジン(cathelicidins)ディフェンシン(defensins)の誘導、炎症を引き起こし肺胞上皮細胞を傷つけて肺炎を引き起こす炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokines)の濃度を低下させ、さらに抗炎症性サイトカイン(anti-inflammatory cytokines)の濃度を高めることが含まれる。
いくつかの観察研究と臨床試験では、ビタミンDの補給がインフルエンザのリスクを軽減する結果が得られているが、リスクを軽減する結果が得られなかった研究報告もある。
COVID-19のリスク低減におけるビタミンDの役割を裏付ける証拠として、25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)濃度が最も低い冬に発生が発生したこと、夏の終わり近くの南半球での症例数が少ないことが挙げられる。さらに、ビタミンD欠乏症は急性呼吸窮迫症候群の一因となることが判明している。そして、高齢者と慢性疾患の併存によって致死率が増加し、このどちらも25(OH)D濃度が低いことに関連している。
感染のリスクを減らすために、インフルエンザやCOVID-19のリスクがある人は、1日に10,000 IU のビタミンD3を数週間服用して25(OH)D濃度を急速に上げ、その後5000 IU / 日の服用を継続する。
目標は、25(OH)D濃度を40~60 ng / mL(100~150 nmol / L)より高くすることである
。 COVID-19に感染した人の治療では、ビタミンD3の投与量を増やすことが役立つ場合がある。これらの推奨事項を評価するために、ランダム化比較試験および大規模集団研究を実施する必要がある。

血中25ヒドロキシビタミンD (25-OH-D) は血液中のビタミンD代謝物の中で最も濃度が高く、ビタミン補充状態をよく反映するため、体内ビタミンDレベルの指標となっています。
血中25-OH-ビタミンDが50 nmol/L(20 ng/ml)以下が不足状態と考えられています。この論文の著者らは血清中100~150 nmol / L(40~60 ng / mL)に高めるように推奨しています。
その目的で、1日に10,000 IU のビタミンD3を数週間服用して25(OH)D濃度を急速に上げ、その後5000 IU / 日の服用を継続する方法を提案しています
今までの研究から、血中ビタミンD濃度が不足している人のビタミンD濃度を改善するためには1日4000 IU (100μg)程度が必要であることが示されています。(647話参照)
日光浴などで体内のビタミンD合成を増やすことの他に、ビタミンDを多く含む食事を摂取するか、ビタミンDのサプリメント(1日4000 IU程度)を摂取することはCOVID-19の感染と重症化の予防に有効と言えます。

【ビタミンDはアンジオテンシンIIを抑制する】
ビタミンD欠乏は自然免疫と獲得免疫を低下させるので、COVID-19に感染して発症しやすくなります。
さらに、1L-6などの炎症性サイトカインの産生を抑制する作用があり、COVID-19の重症化のメカニズムであるサイトカインストームの発生を抑制します。
ビタミンDはマウスの敗血症モデルで肺病変を抑制する実験結果も報告されています。
また、ビタミンDはレニン・アンジオテンシン系のアンジオテンシンIIの働きを阻害する作用によって、急性肺損傷から保護する効果を発揮することが報告されています
以下のような報告があります。

Chronic vitamin D deficiency induces lung fibrosis through activation of the renin-angiotensin system.(慢性ビタミンD欠乏はレニン・アンジオテンシン系の活性化を介して肺線維症を引き起こす)Sci Rep. 2017 Jun 12;7(1):3312. doi: 10.1038/s41598-017-03474-6.

【要旨の抜粋】
肺線維症は、肺機能に影響を及ぼし、患者の状態を悪化させる病気で、多くの肺疾患の最終段階である。ビタミンD欠乏症は、肺線維症と肺機能障害に関連しているが、根本的なメカニズムはまだ完全には解明されていない。
さらに、ビタミンD欠乏症は、レニン-アンジオテンシン系の過剰活性化を引き起こす可能性があり、レニン・アンジオテンシン系の活性化は細胞外マトリックス沈着および肺線維症を悪化させる。
この研究は、マウスの肺線維症に対する慢性ビタミンD欠乏症の影響を検討し、このプロセスにおけるレニン・アンジオテンシン系の役割を解明することを目的としている。
食事制限によりビタミンD欠乏を引き起こしたマウスを用い、正常なマウスと比較された。
慢性ビタミンD欠乏症は、肺の構造を破壊し、肺の発達を阻害し、細胞外マトリクス沈着を促進する。 レニン・アンジオテンシン系が亢進していることが明らかになった。
これらの影響は、ビタミンD欠乏症が長引くと悪化する。 レニン・アンジオテンシン系を阻害することで、これらの変化を大幅に阻止できる。
この研究は、慢性ビタミンD欠乏症がレニン・アンジオテンシン系の活性化を誘発し、線維化促進因子の発現を刺激し、線維化カスケードを活性化することを示した

肝臓で産生されたアンジオテンシノーゲンレニンによってアンジオテンシンIになり、さらにアンジオテンシン変換酵素(ACE)アンジオテンシンIIに変換されます。
アンジオテンシン-IIは2種類の7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体を介して作用を発揮します。
タイプ1(AT1R)は血管を収縮して血圧を上昇し、アルドステロンの分泌を促進し、ナトリウムと水分を保持する働きがあります(全身作用)。
さらにAT1Rは組織局所において、活性酸素の産生を増やして酸化ストレスを亢進し、炎症を増悪し、mTORC1活性を亢進します。
その結果、アンジオテンシン受容体タイプ1(AT1R)の活性化は老化を促進し、がんを含めた様々な加齢関連疾患の発症と進展を促進し、寿命を短縮する方向で作用します
ACEやAT1Rの働きを阻害する薬が高血圧や心臓疾患の治療に用いられており、抗がん作用や寿命延長作用が注目されています。

アンジオテンシンIIはアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)によって分解され。Ang1-7を産生します。
Ang1-7のレベルの上昇は、内皮細胞に広く存在するMas受容体の活性化を介して血管拡張作用、抗炎症作用、および抗線維化作用を発揮します。
ACEは、肺、腸、腎臓、脳、大動脈、および副腎髄質で発現する膜貫通型糖タンパク質です。Ang Iから2つのアミノ酸を切断してAng IIを生成します。
ACE2は膜アンカー型カルボキシペプチダーゼで、Ang IIから単一のアミノ酸を切断して、Ang1–7を生成します。ACE2の発現は、II型肺胞細胞、食道上皮細胞、腸細胞、胆管細胞、心筋細胞、腎臓近位尿細管細胞、膀胱尿路上皮細胞に広く発現しています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症のCOVID-19の急性肺損傷において、アンジオテンシンII(AngII)は肺損傷を悪化させ、Ang1-7は肺損傷を抑制することが知られています。
このように、ACE/AngII/AT1R経路古典的レニン・アンジオテンシン経路(Classical RAS arm)と呼ばれ、血圧上昇や体液保持の全身作用のほか、局所作用としては血管収縮、炎症促進、酸化ストレス亢進の作用を示します。
一方、ACE2/Ang1-7/MasR経路保護的経路(Protective arm)と呼ばれ、血管拡張、炎症抑制、酸化ストレス軽減作用など、組織を保護する作用を発揮します。(下図)

図:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症のCOVID-19では急性肺損傷が起こる(①)。肝臓で作られるアンジオテンシノーゲン(AGT)が、腎臓から分泌されるレニンで分解されて10個のアミノ酸からなるアンジオテンシン-I(AngI)が産生され(②)、さらにアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme: ACE)によってアンジオテンシン-II(AngII)が産生される(③)。AngIIはアンジオテンシンII受容体タイプ1(AT1R)を活性化する(④)。AT1Rは血管を収縮して血圧を上昇し、炎症を増悪させ、酸化ストレスを亢進し(⑤)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で引き起こされる急性肺損傷を増悪させる(⑥)。アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)はアンジオテンシンIIを分解して減少させることによってCOVID-19による急性肺損傷を抑制する(⑦)。さらにACE2で産生されるAng1-7は(⑧)、内皮細胞に広く存在するMas受容体(⑨)の活性化を介して血管拡張作用、抗炎症作用、抗線維化作用を発揮し(⑩)、急性肺損傷を軽減する(⑪)。ACE/AngII/AT1R経路は古典的レニン・アンジオテンシン経路(Classical RAS arm)と呼ばれ(⑫)、ACE2/Ang1-7/MasR経路は保護的経路(Protective arm)と呼ばれている(⑬)。COVID-19の急性肺損傷は、ACE/AngII/AT1R経路を遮断し、ACE2/Ang1-7/MasR経路を活性化すると軽減できる。

人間の肺では、Ang II / Ang1–7比が高いほど、血管透過性と肺胞外液の蓄積が促進され、急性肺損傷を増悪させます。逆に、肺組織でのAng1-7のレベルの上昇は、肺を損傷から保護する作用を発揮します
多くの動物実験で、ACE2の発現や活性を増やすと、肺の炎症が抑制されることが示されています。
ACE2活性化剤の投与は、喘息ラットモデルにおけるサイトカインストーム(IL-1β、IL-6、TNF-αなど炎症性サイトカインの過剰発現)を阻止することが報告されています。
タバコの煙に慢性的に曝露されたラットの肺は、ACE2発現の大幅な減少とACEの増加を示しました。これは、喫煙者でCOVID-19が重症化しやすい理由の一つである可能性を示唆しています。
COVID-19患者の血漿サンプルでAng IIのレベルが著しく増加していることが報告されています。Ang IIレベルがより悪い臨床転帰に関連していることを示すことも指摘されています。

SARS-CoV-2の呼吸器系に対するウイルス親和性は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への付着によって維持されます。 ACE2は、気道上皮細胞およびタイプIおよびIIの肺胞上皮細胞に高度に発現され、SARS-CoV-2が細胞に侵入するときの受容体であることが確立されています
すなわち、SAR2-CoV-2のスパイクの糖タンパク質がACE2に結合して、両方の細胞膜が融合してウイルスRNAが宿主細胞内に入ります。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤やアンジオテンシン受容体遮断薬(拮抗薬)が、ACE2の発現を増やす作用があるという動物実験の報告があるので、これらの薬の使用がCOVID-19に対する感受性と重症度を高める可能性が指摘されました。ACE2が増えるとSARS-CoV-2ウイルスの肺への感染を促進するという懸念です。
しかし、「ACE阻害剤やアンジオテンシン受容体遮断薬の使用がCOVID-19の感染や重症化を促進することは無い」というのが、専門家の最近のコンセンサスになっています。
むしろ、コロナウイルス感染後のACE2の発現低下が肺損傷を促進することの重要性が認識されています
アンジオテンシンIIは肺胞上皮細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導することが知られており、ロサルタンなどのアンジオテンシン受容体拮抗薬でこれを阻害すると、COVID-19感染の急性呼吸窮迫症候群による死亡率が低下する可能性が指摘されています。
塩酸やRSウイルスやインフルエンザウイルスによる肺損傷モデルの動物実験ではACE2に肺の保護作用があることが報告されています。
中国からの報告では、高血圧のCOVID-19入院患者1128人の解析で、ACE阻害剤 / アンジオテンシン受容体拮抗薬の使用は、非使用者と比較して、全死因死亡のリスクの有意な低下が認められています(調整後ハザード比=0.42、95%信頼区間;0.19-0.92、P = 0.03)。
つまり、SARS-CoV-2感染において、ACE2は「敵か味方か」という議論において、「ACE2は味方」というのが専門家のコンセンサスになっています。
肺組織において、アンジオテンシンIIの作用を阻害し、ACE2の発現と活性を亢進してAng1-7のレベルを高めることが、SARS-CoV-2による急性肺損傷を軽減することになると考えられています。(下図)

図:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク(S)の糖タンパク質(S タンパク質)と宿主細胞の細胞膜に存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が結合して(①)、両方の細胞膜が融合してRNAが宿主細胞に侵入し(②)、ウイルスを複製する(③)。ACE2は肺や心臓や血管に多く発現しているので、これらの組織にウイルスの感染が起こりやすい。SARS-CoV-2感染によって急性肺損傷が起こる(④)。ウイルス感染によって細胞のACE2は減少し(⑤)、アンジオテンシンIIの分解が減少する(⑥)。アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)によってアンジオテンシン-II(AngII)が産生される(⑦)。その結果、AngIIの濃度が上昇し(⑧)、アンジオテンシンII受容体タイプ1(AT1R)を活性化する(⑨)。AT1Rは血管を収縮して血圧を上昇し、炎症を増悪させ、酸化ストレスを亢進して(⑩)急性肺損傷を増悪させる(⑪)。

【メトホルミンとビタミンD3はAMP活性化プロテインキナーゼの活性化において相乗効果を示す】

ビタミンDがアンジオテンシンIIを抑制するメカニズムはまだ十分に解明されていません。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化の関与が指摘されています。

AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化が、レニン・アンジオテンシン系の保護的経路のACE2/Ang1-7/MasR経路を促進することは前回(701話)解説しました。
ビタミンD3
もAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する作用があります。つまり、AMPK活性化においてメトホルミンとビタミンD3は相乗効果が期待できます。

AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は細胞のエネルギー代謝を調節する因子として重要な役割を担っています。
AMPKは低グルコースや低酸素や虚血など細胞のATP供給が枯渇させるようなストレスに応答して活性化されます
AMPKはmTORC1の活性を抑制することによってがん細胞の増殖を抑制する作用があります。
LKB1はセリン・スレオニンキナーゼで、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)をリン酸化して活性化します。



AMPKは触媒作用を持つαサブユニットと、調節作用を持つβサブユットとγサブユニットから構成されるヘテロ三量体として存在します。


γサブユニットにはATPが結合していますが、ATPが枯渇してAMP/ATP比が上昇すると、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置き換わります。その結果、アロステリック効果(酵素の立体構造が変化すること)によってこの複合体は中等度(2~10倍程度)に活性化され、上流に位置する主要なAMPKキナーゼであるLKB1に対して親和性が高くなり、LKB1によってαサブユニットのスレオニン-172(Thr-172)がリン酸化されると、酵素活性は最大に活性化されます。

メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体Iを阻害してATPの産生を低下させ、AMP/ATP比を上昇させてAMPKを活性化します
LKB1以外のルートでのAMPKの活性化として、カルモジュリンキナーゼキナーゼβ (CaMKKβ)もAMPKの活性化にとって重要であることが示されています。
ビタミンD3は細胞内のフリーのカルシウム濃度を上昇させてCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ・キナーゼ(CaMKKβ)を活性化します。
AMPKを活性化するシグナル伝達の上流に位置する2つのキナーゼ(リン酸化酵素)、すなわちLKB1とCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ・キナーゼ(CaMKKβ)によって制御されています。したがって、メトホルミンとビタミンD3の併用はAMPKの活性を相乗的に高めることが示唆されます。

図:AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はα, β, γの3つのサブユニットからなるヘテロ三量体として存在する(①)。ATPが減少してAMP/ATP比が上昇すると(②)、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置換する。これによってAMPKの構造変化が起こると、LKB1というリン酸化酵素の親和性が高まり、αサブユニットのスレオニン172がリン酸化されると、さらにAMPKの活性が高まる(③)。メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖を阻害してATP産生を低下させる機序とLKB1を活性化する両方の機序でAMPKを活性化する(④)。運動やカロリー制限はATP産生を低下させAMP/ATPを上昇させることによってAMPKを活性化する(⑤)。ビタミンD3は細胞内のフリーのカルシウムを増加させ、カルモジュリンキナーゼキナーゼβ (CaMKKβ)を活性化させてAMPK活性を亢進する(⑥)。AMPK活性化(スレオニン172のリン酸化)においてメトホルミンとビタミンD3は相乗効果が期待できる。

メトホルミンはAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を活性化し、ACE2をリン酸化してSARS-CoV-2とACE2の結合を阻害し、さらにACE2を活性化して、ACE2/Ang1-7/Mas受容体の保護的経路(Protective arm)を促進して、急性肺損傷を軽減する効果が発揮するという可能性が指摘されています。

レニン・アンジオテンシン系は、ACE/AngII/AT1R経路の古典的レニン・アンジオテンシン経路(Classical RAS arm)と、ACE2/Ang1-7/MasR経路の保護的経路(Protective arm)のバランスで制御されており、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化はRASの平衡をProtective armの方にシフトする作用があります
つまり、AMPKはレニン・アンジオテンシン系の平衡器として作用し、メトホルミンはAMPKを活性化することによってレニン・アンジオテンシン系をACE2/Ang1-7/MasR経路にシフトすることによって、炎症を抑制し、COVID-19における急性肺損傷を抑制すると考えられています。
メトホルミンはAMPKを活性化するので、ACE2/Ang1-7/MasR経路を活性化して細胞を保護する作用を発揮することを701話で解説してます。
ビタミンDもAMPKを活性化するので、ACE2/Ang1-7/MasR経路を活性化して細胞を保護する作用を発揮するメカニズムの可能性があります。つまり、ビタミンDとメトホルミンはCOVID-19の重症化予防において相乗効果が期待できます。(下図)

図:レニン・アンジオテンシン系(RAS)は、ACE/AngII/AT1R経路の古典的レニン・アンジオテンシン経路(Classical RAS arm)と(②)、ACE2/Ang1-7/MasR経路の保護的経路(Protective arm)のバランスで制御されている(③)。ACE/AngII/AT1R経路は炎症や細胞増殖や線維化やインスリン抵抗性を促進する(④)。一方、ACE2/Ang1-7/MasR経路は炎症や細胞増殖や繊維化やインスリン抵抗性を抑制する(⑤)。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化はRASの平衡をProtective armの方にシフトする作用がある(⑥)。メトホルミン(⑦)とビタミンD(⑧)はAMPKを活性化することによってレニン・アンジオテンシン系のACE2/Ang1-7/MasR経路を促進することによって組織損傷に対して保護的に働く。

SARs-CoV-2感染は、ウイルスが細胞に侵入する際の細胞側受容体となるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)の存在が鍵を握っています。肺胞上皮におけるACE2の発現を低下させれば、コロナウイルスの感染を減らせると考えられます。
しかし、健康な個人では、ACE2はAng1-7の産生を通じて、肺の恒常性を促進しています
SARS-CoV-2感染は肺胞上皮のACE2の発現量を低下させ、相対的にアンジオテンシンIIの活性が強くなると、タイプ1のアンジオテンシンII受容体(AT1R)の活性亢進によって、肺損傷を増悪させることになります。
したがって、ACE2の発現を増やす作用は、ウイルスによるACE2の減少を打ち消して、肺における防御メカニズムの強化に繋がります

図:アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクのタンパク質の受容体となり(①)、ウイルスの細胞内侵入と複製を促進し、その過程で細胞のACE2の量は減少する(②)。局所または全身性の感染症や敗血症(③)は、レニン・アンジオテンシン系を刺激してアンジオテンシンIIの産生を増やして、アンジオテンシンタイプ1受容体を活性化する(④)。アンジオテンシンタイプ1受容体の活性化は急性肺損傷を促進し、心筋リモデリングを悪化させ、血管収縮や血管透過性を亢進する(⑤)。ACE2はアンジオテンシンIIを分解して減らし、アンジオテンシン-(1-7)を増やす(⑥)。アンジオテンシン-(1-7)はMas受容体の活性化などの機序で、細胞保護的に働く(⑦)。その結果、ACE2の発現量を増やすことは急性肺損傷を軽減する効果がある。(出典:N Engl J Med 2020; 382: 1653-1659)

ビタミンDとメトホルミンはAMPKを活性化することによって、レニン・アンジオテンシン系のバランスを、保護的経路(ACE2/Ang1-7/MasR)優位にシフトさせることによってCOVID-19における急性肺損傷を抑制し、重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)や呼吸不全や多臓器不全への移行を阻止する効果が期待できます。

【ビタミンDはがんと感染症を予防する】
1941年に、北アメリカで、緯度が高いところ(北)に住む人は南の人よりもがんの発生率が高いことが報告されています。これは、日光によるビタミンDの産生量が発がんに影響する可能性を示した最初の報告です。
ビタミンDの産生が少ない状況(緯度の高いところに住んでいる、日光に当たらない生活習慣など)ががんの発生や増殖を促進することは多くの研究で示されています。
血清のビタミンDレベルと発がん率やがんの死亡率との関連はメラノーマ(悪性黒色腫)、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、非ホジキンリンパ腫など多くの悪性腫瘍で示されています。

血中の25(OH)ビタミンD濃度は、食品からのビタミンDの摂取量と、体内で産生されたビタミンDの総量を反映しています。したがって、体内のビタミンDの量を評価するときには、この25(OH)ビタミンD の血中濃度が指標になります。
25(OH)ビタミンDの血中濃度とがんの発生率の関係を調査した疫学的研究では、大腸がんや乳がんなどで、血中の25(OH)ビタミンD の濃度が高いほど、がんの発生率が低下することが報告されています。
例えば、日本の国立がんセンターのがん予防・検診研究センターの研究では、日本人約38000人を対象に、あらかじめ血中25(OH)ビタミンD濃度を4段階のレベルにわけ、その後11.5年間に大腸がんになった患者グループと、ならなかった対照者グループにおいて、血中25(OH)ビタミンD濃度と大腸がんの発生率との関係を調べています。
その結果、25(OH)ビタミンDが最低(22.9 ng/ml未満)のグループはそれ以上(22.9 ng/ml以上)の3つのグループに比べ、直腸がんのリスクが男性で4.6倍、女性で2.7倍高いという結果が得られています。 (Br J Cancer, 97: 446-451, 2007)  
25(OH)ビタミンDの血中濃度が20ng/mlの上昇につき、直腸がんの発生リスクは59%減少し、結腸がんのリスクは22%減少という報告もあります。

活性型の1,25(OH)ビタミンDは細胞の増殖や分化や死に関する複数の遺伝子の働きを調節する作用があり、がん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスという細胞死を誘導する作用が確かめられています。このようなビタミンDの作用ががん予防効果に関与していると推測されています。 
米国のマサチューセッツ総合病院で早期(ステージIA~IIB)の肺がんの手術を受けた456人の解析では、5年間の無再発生存率が、夏に手術を受けた患者グループでは53%に対して、冬に手術を受けた患者グループでは40%でした。さらに、夏に手術を受け食事からのビタミンD摂取の多い患者の5年間無再発生存率が56%に対して、冬に手術を受け食事からのビタミンD摂取の少ない人のそれは23%でした。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 14: 2303-2309, 2005)
大腸がんでも、夏や秋に手術を受けた患者は、冬に手術を受けた患者よりも生存率が高いという報告があります。
日照時間の長い夏や秋は体内のビタミンDの量が高くなることが知られていますので、ビタミンDにがんの再発を予防する効果もあるのではないかと期待されています。
実際に、血中の25(OH)ビタミンDの濃度が高いほど再発率や死亡率が低いことが肺がんや大腸がんや乳がんで報告されています
例えば、304人の大腸がん患者を追跡した研究では、25(OH)ビタミンDの血中濃度が高い上位25%の人は、血中濃度が低い下位25%の人に比べて、大腸がんによる死亡率が約半分であったと報告されています。(J Clin Oncol 26:2984-2991, 2008)

いずれにしても、COVID-19が重症化しやすいがん患者さんや高齢者、高血圧や心疾患や糖尿病の持病のある人は、ビタミンD3を1日に4000 IUから10,000IU程度を摂取するエビデンスは高いと思います
米国では1カプセルが5000 IUや10,000 IUの製品も販売されています。
サプリメントのビタミンD3はアマゾンなどで検索すると、1日に4000 IUから10,000IU程度を毎日摂取しも30日分は1000円以下です。
ビタミンD3はがんや感染症や心臓病を予防し、寿命を延ばすことが報告されています。ビタミンD3は全死因死亡率を低下させることが報告されています394話)。

COVID-19の感染と重症化の予防として、ビタミンD3(1日4000 IU程度)メトホルミン(1日500mgから1000mg)適度の運動は副作用がなく、寿命を延ばす効果もあるので、利用する価値はあると思います。その他、血圧が高い人はアンジオテンシン受容体遮断薬のロサルタン(701話)、ホスホジエステラーゼ5阻害剤(699話)もオプションとなります。ただし、ロサルタンとホスホジエステラーゼ5阻害剤は副作用もあるので、薬の説明書を十分に理解して自己責任での使用になります。
私自身は高血圧があるので、全てを服用しています。運動も積極的に行なっています。 
COVID-19の感染と重症化を予防する方法は、他の感染症や、がん、心臓病の予防や治療にも有効で、老化予防と健康寿命延長にも効果が期待できます
(日本ではCOVID-19の流行が落ち着いてきたので、COVID-19関係は今回で一旦終了し、次回からがん治療に戻ります)

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