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95)紅参(コウジン)のがん予防効果

図:高麗人参は朝鮮人参や薬用人参とも呼ばれ、昔の高麗国(朝鮮半島)に自生していたウコギ科の多年草で、夏に赤い実をつける(図左)。現在は栽培されており、4~6年目の根が薬用に使用される。根(図右)は多くの薬効成分を含み、古く4~5千年前より不老長寿の薬草として使用されてきた。

95)紅参(コウジン)のがん予防効果

【高麗人参は万能薬】
人参の学名は
Panax ginsengといいますが、このPanaxという属名はギリシャ語のPan(万能)とacos(薬)から名付けられたものであり、ヨーロッパでも古くからその多彩な薬効が注目されていたようです。なお、野菜のニンジンはセリ科の植物で全く別のものです。
人参の臨床的効果は、
胃腸の消化吸収機能を高め、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くすると考えられます。
蛋白合成や新陳代謝や血液循環を高め、血中の免疫グロブリンを増加させ、マクロファージ(体内の異物を細胞内に取り込み消化する食細胞の一つ)や好中球の貪食能を高めて免疫力を増強します。男性ホルモン増強作用、細胞寿命延長作用、抗腫瘍作用、精神安定、精神賦活作用なども報告されており、まさに自然治癒力を高める全ての条件が含まれています。
ソ連のブレフマン(Brekhman)教授は「種々のストレス刺激に対する非特異的な抵抗力を増し、生体の働きを助ける」作用から、薬用人参を
Adaptogen(適応促進薬)と呼びました。イギリスのフルダー(Fulder)博士は「生体の生理機能を調和させるハーモナイザー(調和薬)」であるといっています。
漢方では、高麗人参は「
」の量を増す薬(補気薬という)の代表です。「気」というのは、生体エネルギーを表わす漢方の考え方で、気の量が不足すると、疲れやすく、倦怠感や抵抗力低下が起こります。高麗人参は体のエネルギーを増やすことによって、体の抵抗力や自然治癒力を高めると考えています。
各種のがんによって引き起こされる食欲不振や体力減退、がん治療後の身体衰弱や抵抗力の低下の改善に有効で、がんの漢方治療においても頻用されています。
がんの発生予防や再発予防にも有効であることが多くの研究で示されています。

【高麗人参には自然治癒力を高める多くの薬効成分が含まれている】
体の抵抗力や自然治癒力を高める高麗人参の作用は、一つの成分によるものでなく、多くの成分が関与していて複雑です。治癒力を高める代表的成分はサポニンと呼ばれる物質です。サポニンは英語で、フランス語ではシャボンといい、泡立つものという意味です。サポニン自体はいろいろの植物に含まれていますが、人参サポニンはジンセノサイドというステロイドホルモンと似た構造をもつサポニンが主成分で、10種類以上のジンセノサイドが知られています。種類によってその薬理作用は異なり、一つの成分が同じ組織においても複数の作用を示すなど、薬用人参全体で極めて複雑な薬理作用を呈する理由の一つになっています。
人参サポニンは蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫力を高めます。
人参サポニンの中にはがん細胞を殺し、転移を抑制するものも報告されています。サポニンには抗酸化作用もあり、発がん物質による遺伝子の変異を抑える作用(抗変異原性)を持つ人参サポニンも報告されています。また細胞膜と反応して細胞膜上のレセプター(受容体)などの蛋白と作用して細胞の機能にも作用します。
サポニン以外にも、セスキテルペンなどの精油成分、多糖体、ペプチドグリカン、アミノ酸、ヌクレオシドなども種々の効果に関連しています。
消化吸収機能を高め、体力や抵抗力を高めて種々のストレスに対する適応能力を高めることができるので、虚弱体質自体を治す効果も期待できます。このように複数のメカニズムで体の自然治癒力を高めるような西洋薬はありません。

【高麗人参にはがんの予防や治療に効果がある】
高麗人参は、各種の悪性腫瘍によって引き起こされる貧血、気力減退、食欲不振、倦怠感などの改善に有効で、さらにがんの侵襲的治療(手術、抗がん剤、放射線照射)による骨髄障害や肝障害や免疫機能低下を抑制し回復を促進する効果もあります。
最近では、がん細胞の増殖や転移を抑制する効果や、がんの発生を予防する効果が報告されていて、がん治療後の再発予防にも効果が期待されています。
高麗人参を蒸して熱処理した「
紅参(こうじん)」にはがん予防効果が特に強いことが報告されています。
動物実験では、発がん剤のアフラトキシンで誘発される肝臓がんの発生率や、ウレタンで誘発される肺腫瘍の増殖を、紅参を投与することによって著明に抑制できることが報告されています。 
発がん剤と腫瘍プロモーターを用いた二段階皮膚発がん実験において、紅参は発がんを抑制し、マウス肉腫やメラノーマの移植腫瘍の増殖に対する抑制作用も報告されています。また人参サポニンの代謝産物には抗変異原性作用があることも報告されています。
その他多くの発がん実験で、高麗人参や紅参のがん予防効果が確かめられています。
韓国では、高麗人参のがん予防効果を検証する目的で複数の臨床試験や疫学的調査が実施されています。
40歳以上の4634人を対象に、高麗人参の摂取状況とがんの罹患率を検討したところ、
高麗人参を長期間摂取している人たちは、がんになるリスクが半分以下に減少していることがわかりました。
高麗人参によるがん予防効果は特定の種類のがんに限定するのではなく、胃がんや肺がんなど多くの種類のがんに対して予防効果があるようです。たとえば、高麗人参非摂取グループの発がんリスクを1にした場合、高麗人参を摂取したグループの胃がんになるリスクは0.33で、肺がんになるリスクは0.30と減少し、その効果は用量依存的で高麗人参を多く摂取している人ほど発がんリスクが低かったと報告されています。
高麗人参の中でも加熱処理した紅参が最もがん予防効果があることが確認されています
その他の研究でも、高麗人参は、肺がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、卵巣がんなど多くのがんの発生率を低下させることが報告されています。つまり、
高麗人参はいろんながんに対して非特異的に予防する効果があることが確認されているのです。
摂取する量が多いほど、がん予防効果が高くなっているということは、高麗人参の中にがんの発生を予防する成分が含まれていることを意味します。
がん細胞の増殖や転移を抑える成分についての研究も多く報告されています。腸内細菌が人参サポニンを代謝して作り出す物質の中に、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こしたり、転移を予防するものが見つかっています。

【高麗人参のがん予防効果は人参のタイプと年数によって異なる】
高麗人参のがん予防効果は、それに含まれる人参サポニンなどの量や種類により左右されます。
韓国のYun博士らが行なったマウスの肺がんの実験では、通常の生薬の人参なら5~6年もの、紅参なら4~6年ものにがん予防効果が認められています。
年数の経ったもの、あるいは紅参にしたものががん予防効果が強いということです。
これは、年数が経つほど、がん予防効果のある人参サポニンの含有量が多くなるためと考えられています。
高麗人参が熱を加えると抗腫瘍効果が上がる理由は、人参に加熱処理を加えると成分に変化が起こるからと考えられています。人参を加熱処理すると抗がん作用の強い
ジンセノサイドRg3が増えることが報告されています。高い温度で処理するとより抗酸化作用の高いサポニンが生成され、発がん予防効果も高まるという実験結果も報告されています。
また愛媛大学生化学の奥田教授らは、高麗人参を蒸したり乾燥させて紅参を作る過程で、人参に大量に含まれるアルギニンに果糖とブドウ糖が結合してArginyl-Fructosyl-Glucose (AFG)が生成されることを報告しています。アミノ酸の一種であるアルギニンは蛋白質や一酸化窒素の原料になりますが、AFGに含まれるアルギニンは蛋白質の合成に使われずもっぱら一酸化窒素の生成に向けられるそうです。一酸化窒素は血液循環を良好にし、免疫力を増強する作用をもっています。
高麗人参を加熱処理すると抗腫瘍効果の高いジンセノサイドRg3が増えることは79話で解説しています。
 
【高麗人参の使用上の注意点】

高麗人参は、細胞の代謝を賦活する作用が強く、血管拡張作用や免疫増強作用があるので、
炎症性疾患や熱がある状態では病気を増悪させる場合もあります。例えば、慢性関節リュウマチで関節の腫れや熱が強い時期には、人参は症状を悪化させることがあります。
元気が有り余っている人や高血圧や肥満のある人は、人参を単独で大量に摂取すると、むくみや興奮・不眠・のぼせ・顔面紅潮などのほか、湿疹、血圧上昇などの有害作用が見られることがあるので注意が必要です。
また、高麗人参に含まれるジンセノサイドには女性ホルモンのエストロゲンと類似の作用があるので、乳がんでホルモン療法を受けている患者さんは人参を多く摂取しない方が良いと言われています。高麗人参のエストロゲン様作用については議論があり、乳がん患者が摂取しても問題ないという報告も多くあります。しかし、結論は出ていませんので、乳がんのホルモン療法中は人参を多く摂取しない方が良いようです。

高麗人参は昔から不老長寿の薬草として認められています。その効果は、体力や免疫力の増強や、血液循環や心臓機能の向上によるものですが、がんの発生を予防する効果も寄与しているかもしれません。(文責:福田一典)


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