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301)がん治療に役立つ食材(17):クルミ

図:クルミの実にはω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が多く含まれ、さらに多くのビタミンやミネラル、ポリフェノール、フィトステロール、カロテノイドなど抗がん作用のある成分が多く含まれる。動脈硬化や心臓疾患を予防する効果が臨床試験で明らかになっており、がんの予防や治療においても有用な効果を示すことが報告されている。

301)がん治療に役立つ食材(17):クルミ

【クルミの抗がん作用】
先日、自宅近くのスーパーで買い物をしていると、クルミを陳列している所に、「テレビ放映の影響で品薄になっています」というような張り紙がありました。クルミの健康作用は以前から良く知られていますが、最近何かのテレビ番組でクルミが取り上げられたらしく、品切れになるくらいに売れているようです。クルミは動脈硬化や心疾患の予防効果やアンチエイジング(抗老化)の観点からの研究が多いのですが、がんの予防や治療との関連でもクルミは研究されています。以下のような論文があります。



Suppression of implanted MDA-MB 231 human breast cancer growth in nude mice by dietary walnut.(ヌードマウスに移植したヒト乳がん細胞MDA-MB231に対するクルミによる増殖抑制効果)Nutr Cancer 60(5): 666-74, 2008
米国ウェストバージニア州のマーシャル医科大学の生化学・微生物学教室からの報告です。
【要旨】
クルミにはオメガ3不飽和脂肪酸やフィトステロール、ポリフェノール、カロテノイド、メラトニンなどがん細胞の増殖を抑制する成分が多く含まれている。ヌードマウスにヒト乳がん細胞MDA-MB231細胞の移植した動物実験モデルを用い、クルミを食餌から摂取させることによって、がん細胞の増殖に影響を及ぼすかどうかを検討する目的で実験を行った。
10%コーンオイルを添加した餌(AIN-76)で飼育しているヌードマウスにがん細胞を移植した。腫瘍が直径3~5mmになった段階で2群に分け、1群の食餌はそのままで(コントロール群)、もう1群は粉末にしたクルミを添加し、人間で1日2オンス(56g)に相当する量を与えた(クルミ投与群)。
腫瘍の増殖速度は、コントロール群では14.6 ± 1.3 mm3/日であったのに対して、クルミ投与群では2.9 ±1.1 mm3/dayで、クルミ投与によって腫瘍の増大は顕著に抑制された。肝臓の組織中のエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量は、コントロール群に比べてクルミ投与群で著明に増加していた。クルミ投与によってがん細胞の増殖は抑制されたが、アポトーシスの割合には変化は認めなかった。人間での臨床試験でクルミの抗腫瘍効果を検討する価値があると思われる。


クルミの乳がん予防効果が示されていますが、そのがん予防作用のメカニズムの一つとして、クルミにはω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富であることが言及されています。α-リノレン酸は必須脂肪酸で、体内でエイコサペンタエン酸(EPA)ドコサヘキサエン酸(DHA)に変換されます。EPAやDHAのがん予防効果も多くの研究で支持されています。この実験では、クルミを摂取した群では肝臓組織のDHAやEPAが増加していることが示されているので、クルミの抗がん作用がα-リノレン酸の関与が高い可能性を示唆しています。
一般に、食事から摂取する不飽和脂肪酸のω3とω6の比が大きくなるほど、がん予防効果や抗がん作用が強くなることが知られています。多くの動物実験で、ω3不飽和脂肪酸が乳がんの発生率を低下させることが示されています。
ただ、クルミの抗がん作用には、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸だけでなく、フィトステロールやポリフェノールやカロテノイドなどの相乗効果と考える方が妥当かもしれません。動物実験でクルミの抗腫瘍効果を検討した報告は多数あります。遺伝子改変の発がんマウスを使った実験でもクルミの発がん抑制効果が示されています。以下の論文は上に紹介した論文と同じ研究グループからの報告です。



Dietary walnut suppressed mammary gland tumorigenesis in the C(3)1 TAg mouse.(食餌からのクルミ摂取はC(3)1Tagマウスにおける乳がん発生を抑制する)Nutr Cancer. 2011;63(6):960-70.
【要旨】
クルミはω3不飽和脂肪酸や抗酸化物質やフィトステロールなどがん細胞の増殖を抑制する成分を多く含んでいる。以前の研究で移植した乳がん細胞の増殖をクルミの摂取が遅くすることが示されている。この研究では、クルミの摂取が乳がんの発生率を減らせるかどうかを検討する目的で行った。
オスのホモ接合C(3)1 TagトランスジェニックマウスとメスのSV129マウスを交配させた。半接合のメスの子供は乳離れしたあと、ランダムに2群に分け、一つの群は通常の餌(AIN-76)で飼育し、もう一群はクルミを含む餌で飼育し、乳がんの発生を検討した。
クルミを与えなかったコントロール群に比較して、クルミを与えたグループでは乳がんの発生頻度(腫瘍が一つ以上発生したマウスの割合)や腫瘍の数(マウス1匹当たりの腫瘍の数)やサイズが著明に減少した。
遺伝子発現の解析では、クルミの摂取によって、乳腺組織の増殖や分化に関連する複数の遺伝子の発現が変化した。
他の食品成分による介入試験との比較から、クルミのがん予防効果の全てをω3不飽和脂肪酸の含有だけでは説明できなかった。この研究結果は、クルミを日頃から食べることは、乳がんを減らす健康的な食事に貢献する可能性が示唆された。

この論文は前述の論文と同じ研究者からの報告です。前の論文では、ヌードマウスにヒト乳がん細胞を移植した実験系でクルミの抗腫瘍効果を示していますが、この実験では、乳がんを発生するように遺伝子を改変したマウス(トランスジェニックマウス)の実験モデルでクルミの乳がんの発生を予防する効果を検討しています。このトランスジェニックマウスは成長とともに乳がんを自然発症するのですが、乳離れしたあとの餌にクルミを混ぜて与えると、乳がんの発生が著明に抑制されることを示しています。つまり、小さいときから日頃からクルミを食べることは乳がんの予防に有効かもしれないということを意味しています。
動物実験で乳がんを予防しても、それが人間でも有効かどうかは人間での臨床試験の結果がでるまでは確定できませんが、循環器疾患などではクルミの予防効果が人間で証明されていますので、日頃からクルミを食べることは推奨されると思います。
乳がんだけでなく、前立腺がんを予防する効果も示唆されています。



A high-fat diet containing whole walnuts (Juglans regia) reduces tumour size and growth along with plasma insulin-like growth factor 1 in the transgenic adenocarcinoma of the mouse prostate model.(クルミを含む高脂肪食は、トランスジェニック前立腺がんモデル(前立腺がんを発生するように遺伝子改変したマウス)において、血清中のインスリン様増殖因子-1のレベルを低下させ、腫瘍の大きさと増殖速度を減少させる。)Br J Nutr 16: 1-9, 2012
米国のカリフォリニア大学の栄養学部門からの報告です。
【要旨】
前立腺がんの発症リスクは脂肪摂取と関連することが指摘されているが、脂肪の種類や摂取量によって影響が異なり、食事中の脂肪と前立腺がんについては十分に明らかにされていない。遺伝子改変によって前立腺がんを発生させるマウスの動物実験モデルを用いて、クルミを加えて脂肪からのエネルギーを20%にした高脂肪食餌と、大豆オイルを20%加えた高脂肪食餌、脂肪からのエネルギーを8%にした低脂肪食餌の3群に分けて腫瘍発生率を比較した。
マウスは生後8週後からこれら3種類の食餌を自由に摂取させた。実験開始の9週、18週、24週の後に採血した。マウスの成長速度には、高脂肪食の2群の間に差は認めなかった。しかし、クルミを与えた群では発生した前立腺がんの重量と増殖速度は、大豆油を加えた群よりも減少していた。
クルミを摂取したグループでは、18週の時点で、前立腺の重さ、血清のインスリン様増殖因子-1、レジスチン(resistin)、LDLコレステロールはコントロール群より低値を示した。9週と18週においては前立腺の重量に差は認めなかった。9週と18週において肝臓における多くの代謝産物に違いを認めた。
クルミの健康作用は、単に脂肪酸の種類やトコフェロール(ビタミンE)だけによるものではなく、複数の成分によるクルミ全体の作用によるものと思われた。さらに、2つの高脂肪食は前立腺がんの増殖率や大きさに対して異なる効果を示したが、総脂肪とトコフェロールの割合や量には差は認めなかったので、これら(総脂肪とトコフェロールの割合や量)は前立腺がんの増殖とは強くは関連しないことが示唆された。


以上の研究は動物実験の結果なので、ヒトの前立腺がんにどの程度有効かはまだ不明です。しかし、ω3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)が前立腺がんの発生や再発の予防に有効であることは臨床試験で示されています。したがって、体内でDHAとEPAに変換するα-リノレン酸の豊富なクルミが前立腺がんを予防することは十分に期待できます。
以下のような論文もあります。



Dietary walnuts inhibit colorectal cancer growth in mice by suppressing angiogenesis.(食餌中のクルミは血管新生を抑制することによってマウスに移植した大腸がんの増殖を阻害する)Nutrition 28(1): 67-75, 2012
【要旨】
目的:動物実験において、フラックスシードオイルを補充した食餌が大腸がんの増殖を抑制することが示されている。最近の研究では、大腸がんの培養細胞を使った試験管内での実験で、クルミが大腸がん細胞に対して強い増殖抑制作用を示すことが報告されている。しかし、動物実験でのクルミの抗腫瘍効果や、フラックスシードオイルとクルミを併用した場合の効果に関しては検討されていない。この研究の目的は、動物移植腫瘍を使った実験モデルで、食餌中のクルミの大腸がんに対する抗腫瘍効果と、フラックスシードオイルの抗腫瘍効果との比較を行うことにある。
方法:ヒト大腸がん細胞HT-29細胞を6週齢のメスのネードマウスに移植し、1週間の馴化期間の後、マウス(n=48)は、総カロリーの19%程度をクルミから摂取させる群とフラックスシードオイルから摂取させる群とコーンオイル(コントロール)から摂取させる群の3つのグループにランダムに分け、25日間観察した。
結果:腫瘍の増殖速度は、コントロール群(コーンオイル摂取群)に比べて、クルミ摂取群では27%、フラックスシードオイル摂取群では43%減少した。(P < 0.05)最終的な腫瘍重量は、クルミ摂取群では33%、フラックスシードオイル摂取群では44%の減少を認め、いずれも、コントロール群との差は統計的に有意であった(P < 0.05)クルミとフラックスシードオイルの効果には統計的な差は認めなかった。代謝や内分泌系や血清抗酸化力や炎症の程度には3群間で差を認めなかった。しかしながら、クルミ摂取群とフラックスシードオイル摂取群では、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor)を含む血管新生に関連する因子の血清中の濃度がそれぞれ30%と80%低下し、腫瘍の体積は縮小したにも拘らず、壊死の部分の面積は約2倍になっていた。食餌中のクルミ添加はCD34の発現レベルで評価した血管新生をコントロール群(コーンオイル摂取群)に比べて著明に抑制したが(P = 0.017 versus control)、フラックスシードオイル摂取群の血管新生阻害のレベル(CD34発現)はコントロール群と有意差を認めなかった(P = 0.454 versus control)。
結論:食餌でクルミを与えると、血管新生を抑制することによって大腸がんの増殖が阻害される。今回の動物実験の結果を人間で確認し、その作用機序を明らかにするための研究がさらに必要と思われる。

クルミはナッツの中で最もω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富です。フラックスシードオイル(flaxseed oil)はアマ(亜麻)の種子(亜麻仁(あまに))から採れる油(亜麻仁油)で、これもω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富です。α-リノレン酸にはがん予防効果が報告されています。さらに、クルミやフラックスシードオイルには、抗酸化成分やがん予防成分が含まれています。この論文では、移植腫瘍を用いた動物実験で、クルミとフラックスシードオイルががん縮小効果があることを報告しています。特に、クルミには血管新生阻害作用があることを報告しています。近年、クルミの健康作用が話題になっていますが、糖質制限と高脂肪食によるケトン食でクルミを多く摂取することは有用だと言えます。
クルミがメラトニンを増やすという報告もあります。



Melatonin in walnuts: influence on levels of melatonin and total antioxidant capacity of blood.(クルミに含まれるメラトニン:血中のメラトニン濃度と血液の抗酸化能に対する影響)Nutrition 21(9): 920-4, 2005
【要旨】
目的:クルミにメラトニンが存在するかどうかを検討した。さらに、もし存在するなら、クルミを摂取することによって血中のメラトニン濃度と血液の抗酸化能が影響をうけるかどうかを検討した。
方法:クルミからメラトニンを抽出し、高速液体クロマトグラフィーを使って定量した。ラットにクルミを摂取させて、血清中のメラトニン濃度をラジオイムノアッセイ(放射免疫測定)法にて測定した。血清中の総抗酸化力(total antioxidant power)はトロロックス当量抗酸化能(trolox equivalent antioxidant capacity)と血清の鉄還元能(ferric-reducing ability of serum)によって測定した。
結果:クルミ1g中のメラトニンの量は3.5±1.0ngであった。ラットを食餌制限した後、通常の食餌かクルミを与えると、通常の食餌の群に比べてクルミを与えた群では血中メラトニン量が増加した。血中のメラトニン量の増加をともに、血清のトロロックス当量抗酸化能と鉄還元力の数値もクルミ投与群の方が高くなっていた。結論;クルミにメラトニンは存在し、クルミを食べると血中メラトニン量が増える。血中のメラトニン量の増加と比例して、血液の抗酸化力(トロロックス当量抗酸化能と鉄還元能で評価)も上昇した。

がん治療の目的でメラトニンのサプリメントを使用するときは、1日10 ~40mgを服用しますので、クルミ1g中にナノグラム(ng)単位のメラトニンが含まれていてもほとんど意味が無いように思います。ngはmgの100万分の1です。したがって、クルミを食べて血中のメラトニンの量や抗酸化力が上昇したのは、単にクルミに含まれるメラトニンだけによるものとは考えにくいと思います。クルミに含まれるその他の抗酸化物質の関与や、間接的に体内のメラトニンの産生を増やす作用もあるのかもしれません。

【クルミの健康作用】
クルミはクルミ科クルミ属の落葉高木で、原産地はイランで、日本には中国を経由して伝わりました。ナッツ(nuts)というのは食用の木の実のことですが、クルミは非常に健康作用の高いナッツとして知られており、臨床試験や動物実験などが多く行われています。
日本に自生するのはオニグルミとヒメグルミで古くから食用にされてきましたが、殻が硬く果実が小さいのが特徴です。世界的にはカリフォルニア産のクルミが有名で、殻が薄くて割れやすく、食用となる「仁(じん)」の部分も多く含まれています。
少なくとも紀元前7000年前からクルミは食べられており、現在は世界で消費されるクルミの3分の2はアメリカのカリフォルニア産です。そのため、米国ではカリフォルニア産クルミの健康作用に関する研究が盛んに行われ、アメリカ食品医薬品局(FDA)もクルミの健康作用について高い評価をしています。1日約42g(1.5オンス)のクルミを、飽和脂肪酸やコレステロールの低い料理に加え、カロリー摂取量をオーバーしなければ、心疾患のリスクが低下することが報告されています。
クルミには、多くの必須ビタミンやミネラルが含まれ、カロテノイドやポリフェノールなど抗酸化成分も豊富で、さらにω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富に含まれているのが特徴です。ナッツ類でα-リノレン産が豊富に含まれるのはクルミだけで、クルミ1.5オンス(約42g)にα-リノレン酸が3.8gも含まれていると報告されています。
人間の研究で、クルミを多く食べると、コレステロール値が低下し、善玉コレステロールのHDLコレステロールが増え、心臓血管系の疾患のリスクが低下することが明らかになっています。さらに、神経変性性疾患のパーキンソン病やアルツハイマー病の改善や、がん予防効果も報告されています。クルミはビタミンやミネラルや抗酸化物質やがん予防成分をバランス良く、豊富に含有する自然食品と言えます。

【ケトン食とオリーブオイルとω3不飽和脂肪酸】
がんのケトン食療法の基本は、糖質摂取を極力減らし、糖質から得ていたカロリーを脂肪から取ることです。通常の食事では1日300~400グラムの糖質を摂取していますが、それを40グラム以下に減らすので、不足するエネルギー量に相当する脂肪を増やすことになります。脂肪を増やす時に中鎖脂肪を使えばケトン体を容易に増やすことができます。摂取する脂肪をほとんど中鎖脂肪にするという食事でも問題はありませんが、中鎖脂肪を多く摂取すると腹痛や下痢が起こりやすくなります。料理のバリエーションを増やすためにも、がんの予防や治療に有用な長鎖脂肪のオリーブオイルやフラックスシードオイル(亜麻仁油(あまにゆ))や紫蘇油を調理に使うのも有用です。
オリーブ
は地中海地域原産のモクセイ科の植物で、オリーブオイルはオリーブの果実から得られる植物油です。酸化されにくい一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)を多く含むため、他の食用の油脂に比べて酸化されにくく固まりにくい性質を持ちます。果実を絞って得られる果汁から遠心分離などによって得られた油をバージン・オリーブオイルと呼び、その中でも香りが良好で品質も高いものを特にエクストラ・バージン・オリーブオイルと呼んでいます。バージンオリーブオイルは、一価不飽和脂肪酸を豊富に含むとともに、天然の抗酸化物質(ポリフェノール)やビタミン・ミネラルを豊富に含みます。特に、エクストラバージンオリ-ブオイルは、オレイン酸を約80%含んでおり、天然の抗酸化物質(ポリフェノール類)を豊富に含み、栄養価の高い最高級オイルです。オリーブオイルに含まれるポリフェノール類として、オレウロペイン、チロソール、ヒドロキシチロソールなどが知られており、オリーブオイルの高い抗酸化作用はこれらに由来していると考えられています。これまでの疫学研究では、オリーブオイルの摂取が多いと心臓病などの動脈硬化性疾患が少ないことが示されていますが、その理由として、一価不飽和脂肪酸としてのオリーブオイルの抗動脈硬化作用の他に、オリーブオイルに含まれるポリフェノールによる抗酸化作用や抗炎症作用が指摘されています。オリーブオイルの摂取が乳がんおよび大腸がんの発症リスクを減らす可能性が示唆されています。
フラックスシードオイル(flaxseed oil)はアマ(亜麻)の種子(亜麻仁(あまに))から採れる油で、紫蘇油は紫蘇の種子から採れる油です。ともにω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富です。魚の油に多く含まれるエイコサペンタエン酸 (EPA)とドコサヘキサエン酸 (DHA)と、フラックスシードオイル(亜麻仁油)と紫蘇油に含まれるα-リノレン酸はω3不飽和脂肪酸と呼ばれ、抗炎症作用や抗がん作用があることが知られています。これらのω3不飽和脂肪酸は動物を使った発がん実験でがんを予防する効果や、腫瘍の増殖を抑制する効果が報告されています。疫学的研究や臨床試験でも、多くのがんを予防する効果が証明されています。一方、肉や野菜など多くの食品に含まれるリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸はω6系不飽和脂肪酸と呼ばれ、がんを促進する作用があります。
プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質が増えすぎるとがん化しやすく進行も速まることがわかっています。PGE2は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死が起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進します。PGE2はω6 系不飽和脂肪酸のリノール酸から合成され、DHAなどのω3 系不飽和脂肪酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。
脂肪酸の代謝産物は細胞内のシグナル伝達系に作用してがん遺伝子やがん抑制遺伝子の働きに影響を及ぼします。そして一般的に、DHAやEPAやα-リノレン酸のようなω3系脂肪酸はがんの発育を抑制し、アラキドン酸のようなω6系脂肪酸はがんの発育を促進するので、食事から摂取するω3系不飽和脂肪酸とω6系不飽和脂肪酸の比を高めると抗がん作用を強化できます。
野菜にはリノール酸などのω6系不飽和脂肪酸が多いので、ω3系不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の豊富な紫蘇油か亜麻仁油をドレッシングとして使用するのが有効です。DHAやEPAは高温で酸化されやすいので、新鮮な魚を生(刺身)か煮て食べるのが良いと思います。フライは揚げ油のリノール酸の取り過ぎに注意します。リノール酸はω6不飽和脂肪酸なので、ω3を増やすために魚を食べる意味が無くなります。
ナッツ類では上述のようにクルミがω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富で、さらにビタミンやミネラルやポリフェノール類も豊富なので、ケトン食に使う食材として役立ちます。クルミは人類が最も古くから食べていた木の実と言われています。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、クルミの健康作用を確認し、1日42グラムのクルミを、飽和脂肪酸やコレステロールの少ない料理に加え、カロリー摂取量がオーバ-しない場合、心疾患のリスクが抑えられると報告しています。クルミ42グラム(1.5オンス)にはω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が3.8グラムも含まれています。抗酸化成分を多く含み、「植物性の卵」とも言われ、良質の消化されやすい蛋白質も豊富です。
極端にω3系不飽和脂肪酸を多くとると血液が固まりにくくなるという副作用が出るため、抗がん剤治療などで血小板が減って血液凝固能が低下したり、手術の前などは注意が必要です。
このように、がんを促進する油(リノール酸など)を減らし、オリーブオイルやω3不飽和脂肪酸のDHAやEPAやα-リノレン酸を多く摂取するとがん細胞の増殖を抑える効果を高めることができます。つまり、がんを抑える油を増やせば、ケトン食療法の抗がん作用をさらに高めることができるのです。



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