小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

武者の世  その12

2006-07-26 00:05:39 | 小説
 義経をかくまった藤原氏と書いたけれど、実は二度かくまったわけで、少年時代の義経を平泉に連れてきたのはご存知「金売り吉次」であった。
 この謎の人物は、金商人というわけであるが、おそらく只の商人ではない。平泉から京そして博多を結ぶ奥州藤原氏の金輸出ルートを監督する藤原氏の外交官のごとき人物であったはずだ。『平家物語』には「橘次」とある。本名は橘次郎末春という人物だという論者もいる。その論文の原典を読んでいないので私見を述べるまでにはいたらない。
 それはともかく義経はなぜ平泉に身を寄せたのであろうか。また、なぜ平泉の藤原秀衡は義経をうけいれたのであろうか。しかも10年の長きにわたってである。藤原秀衡が平清盛と剣呑なあいだがらなら、こうはいかなかったといえるだろう。清盛にすれば北上川の砂金をおさえている奥州藤原氏は日宋貿易を円滑化するためにも、むげにはできなかったのである。
 さて、ところで平治の乱の首謀者藤原信頼には兄がいた。藤原基成である。その基成の娘が藤原秀衡の妻だった。奥州藤原氏は源義朝をそそのかした藤原信頼とつながっているのだ。
 ともあれ義経の奥州行きには、奥州藤原政権の顧問のような存在だった基成の意向が働いていたらしい。


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