小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

赤松小三郎のこと

2011-11-10 05:48:47 | 小説
「(龍馬の)その歩みは、埋火のような小三郎の生涯に対して、燃え盛る炎のような生涯であった。(略)小三郎と龍馬は、その死まで一枚の紙の裏表に似た思想を持ち、あたかも小三郎は龍馬の影のような人生を送ることになる」
 江宮隆之氏の『龍馬の影 悲劇の志士・赤松小三郎』(河出書房新社)の一節である。
同書の主調低音はここにあり、だからタイトルも「龍馬の影」なのであろうけれども、赤松小三郎の伝記小説は、ことさら龍馬と対比させなくても成立したのではないだろうか。そんな思いが江宮氏の小説を読んでいるあいだ、ずっとしていた。
 もっとも私自身、かって赤松小三郎を「あたかも信州の坂本龍馬」と評したことがあった。(注1)
 龍馬の新政府綱領八策とよく似た提言を小三郎がしていたからである。しかも龍馬にさきがけてだ。このふたりは歴史という舞台ではすれ違っていたが、ともに勝海舟の弟子であり、ともに暗殺されたという共通点があった。 
 しかし小説を読んだあとで、ああこの人は龍馬にそっくりだと読者が思ってくれればよいのであって、このことを最初から意識させたことが小説の興をそいだのでは、と感じたのである。2010年1月に刊行された江宮氏の小説を今頃になって、やっと読み終えての感想である。
 いずれにせよ赤松小三郎のことが小説化されて、彼の事跡が世に知られることは歓迎すべきことだと思っていた矢先、今月(11月)20日、信州上田城のほど近くに赤松小三郎記念館が開館するというお知らせ(注2)をメールで頂いた。行政ではなく地元の有志で開館にこぎつけたというのだから、心意気にうたれるではないか。
 上田城公園内には東郷平八郎の揮毫による赤松小三郎の顕彰碑がある。薩摩の東郷は小三郎の門下生だった。江宮氏は小説の「あとがき」に書いている。
「顕彰碑には薩摩藩門下生の名前がずらりと並ぶが、その最初に中村半次郎の改名である『桐野利秋』の名前があることを、真犯人を知っている後世の目から見れば、しらじらしく、しかも坂本龍馬暗殺への薩摩関与の疑問さえ湧いてくるのである」
 もっとも江宮氏は東郷平八郎は小三郎暗殺犯が半次郎は知らなかったであろうと述べている。また終章では西郷隆盛に「…薩摩の者は。友や師と仰いだ人を暗殺などしません。そんなことをしたら、薩摩の恥になり申す。人間の恥であり申す」と言わせている。
 私は江宮氏よりひねくれた見方をしているから、東郷も西郷も半次郎と同じ穴の狢だと思っている。

(注1)「薩摩」に暗殺された赤松小三郎
(注2)赤松小三郎記念館開館式

    日程: 11月20日(日):
    朝8時30分:上田城二の丸、赤松小三郎記念碑(赤松の弟子の東郷平八郎が建立)の前で、                小三郎生誕180年記念の集会。
    11時30分: 赤松小三郎記念館で開館式。(上田城から徒歩15分ほど)

    詳しくは、地元の有志でつくる赤松小三郎顕彰会に連絡ください。
    追記:記念館予定地一帯で11月8日火災があり、開会式は無期延期となった由。 
追記:当ブログ左「ブックマーク」下方に赤松小三郎についてのアンケートコーナーを設置しています。ささやかな集計結果は「結果を見る」をクリックしてください。
龍馬の影---悲劇の志士・赤松小三郎
江宮 隆之
河出書房新社


 


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