小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

陸奥宗光と日清戦争  7

2005-06-11 22:26:31 | 小説
 ほとんどの日本人が忠臣蔵の話を知っているように、ほとんどの韓国人は閔妃暗殺事件のことを知っているようだ。しかし、現代の日本人のほとんどは、たぶんこの事件のことを知らないだろう。韓国の対日感情悪化の淵源にもなっている事件について、現代日本人は鈍いのである。
 さて、『閔妃暗殺』(新潮社)を書いた角田房子は、その本で「陸奥宗光への疑惑」という一項目を設けている。閔妃暗殺にかかわった岡本柳之助という人物が、陸奥と同じ和歌山出身であり、陸奥のいわば情報係であったからである。
 しかし事件後、陸奥は林薫宛ての私信のなかで、こう書いている。
「今回の朝鮮事件も小生は全く関係いたさず、最初には少々持論もこれあり候えども、(略)始終傍観の地位に立ちおり候」
 私は陸奥のこの言葉を信じたい。あらゆる状況を冷静に判断できた彼が、こんな愚挙にかかわったとは思いたくない。
 それにしても閔妃はなぜ暗殺されねばならなかったのか。
 閔妃は女ながら、あるいは女ゆえにというべきか、したたかな策謀家であった。王である夫の側室の生んだ子を毒殺するなどの風評はあるし、王をさしおいて外交問題の主役となっていた。日清戦争勃発の契機となった朝鮮の内乱、つまり東学党の蜂起の目的のひとつは王妃とその一族を中心とした腐敗政治の糾弾であった。閔氏一族の専横によって王朝は腐りきっていたのである。
 日本を弁護するわけではないが、この頃の朝鮮は他国が内政干渉したくなるようなスキを与えていたといえよう。

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