小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

「邂逅」までのプロセス 10

2006-02-06 14:44:16 | 小説
 キリスト教は邪宗門とされ、キリシタンの探索調査は家康、秀忠、家光の徳川三代にわたり、組織的かつ徹底的に行われた。
 五人組をユニットとして互いを監視する制度、毎年実施された踏み絵、そしてキリシタンを密告したものには賞金が与えられた。特筆すべきは、すべての国民は仏教の寺に登録することを制度として決めたことである。登録した寺を檀那寺として、ひとの生死の管理を仏教の僧侶に委託したことである。いわゆる檀家制度が民衆一般に行きわたるのは、この時期であった。キリシタン禁制が檀家制度をもたらしたといってもよい。
 さて、史料を読みあさっていると思いがけない人物と出会い、心のふるえることがある。むろん現実世界での出会いとは違っているから、私はひそかに古めかしい言葉で邂逅と勝手に名づけている。この稿のタイトル『「邂逅」までのプロセス」の邂逅にもその意味を込めたつもりだ。たとえばジュリアおたあも、ふいに邂逅した歴史上の女性だったが、この稿で意図したのは彼女のことではない。別の人物である。
 その名は桑名古庵。17世紀の土佐の高知城下は帯屋町で医を業としていた。その彼がキリシタンとして密告された。
 


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