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山笑う

【山笑う】
  新緑や花などによって山全体がもえるように明るいさまになることをいう。   

「山笑う」とはよく聞く言い回しだが、自分の両目で山の様子を見なければ実感できない。昨日の日曜日は気持ちのいい一日だった。私は朝から塾の授業で、戸外のさわやかな空気を満喫する時間はあまりなかったのだが、窓から外を眺めるだけでも清涼さが伝わってきた。風を感じたくてじりじりしていた。授業が終わるやすぐに近くの山や丘の新緑を写真に収めに飛び出した。

 

風が強かったせいで葉が裏返っている木が多かった。葉の裏は表よりも緑が薄い。当たり前のことながら、目で味わうと驚く。緑の濃淡のコントラストが鮮やかで、風のない日よりも緑が際立つ。いくらきれいな緑だといっても、単調なモノトーンよりも彩が豊かな方が美しいものだと改めて気づかされた。求めれば自然は我々にたくさんのいことを教えてくれる。
 だが、山の色の違いは葉の表裏によるだけではなく、木の種類によってもかなり違っているようだ。花粉をつける時期の違いによっても外観はかなり違うのだろう、家から少し山間に入ったところで見た小山は、まるで絵の具で塗られたように変化に富んでいた。

 
 
白っぽく見えるのは花粉が付いている樹木だろうか、それとも白い花が咲いているからなのだろうか。今、家の近くの道路わきにはニセアカシアの花が咲き乱れているが、それとはどうも違う。一体なんだろう。 
 
 しかし、本当に気持ちのよい日だった。余りにさわやかだったため、塾の教室の空気が澱んだものであったように思えて仕方なかった。思わず、中原中也の「帰郷」という詩を口ずさんでしまった。(季節は違うが・・)

      「帰郷」
   柱も庭も乾いてゐる
   今日は好い天気だ
      縁の下では蜘蛛の巣が
      心細さうに揺れてゐる

   山では枯木も息を吐く
   あゝ今日は好い天気だ
      路傍の草影が
      あどけない愁(かなし)みをする

   これが私の故里だ
   さやかに風も吹いてゐる
      心置なく泣かれよと
      年増婦《としま》の低い声もする
   あゝ おまへはなにをして来たのだと……
   吹き来る風が私に云ふ

中原中也は1907年生まれ、したがって今年で生誕100周年になる。それを記念して「別冊太陽」では中原中也特集が出版された。

書店で見かけて手に取ってみたが、立派な書物だ。10代の頃からずっと中也の詩を読み続けてきた私は思わず欲しくなったが、全集を持っている私があえて買う必要はないのかな、と思っているところだ。
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10ゲーム差

 日本時間で19日に行われたヤンキース対メッツの交流戦(通称サブウェイシリーズ)で、松井秀喜が2ランHRを放ったものの、チームは競り負けてとうとう首位レッドソックスとのゲーム差は10ゲームになってしまった。162試合中の40試合を消化しただけなので、それほど心配する必要はないかもしれないが、10ゲーム差というのは重い事実だ。これくらいのゲーム差をひっくり返した例などいくらでもあるのだろうが、暗雲垂れ込めたヤンキースのチーム状況を考えてみると明るい展望など開けないような気がする。というよりも、今年のレッドソックスのチームバランスが素晴らしくてとても追いつけないのじゃないか、というのが私の本心である。
 ちょっと計算してみた。19日の時点での両チームの勝敗は次のようである。
   レッドソックス 28勝12敗 勝率.700
   ヤンキース   18勝22敗 勝率.450
レッドソックスの現状を見るにこれから急に勢いが失速するとは考えられない。したがって、このままの調子でシーズンを乗り切ると仮定すると、162×0.7≒114勝を上げることになる。となると、ヤンキースがこれから114-18=96勝しなければ追いつけない。すなわち、残り122試合を96勝26敗(勝率.786)で乗り切らなければならないのだ。もっと簡単に言えば、5試合を4勝1敗ペースで行くこと、先発ローテーション5人のピッチャーが4人勝って1人負けることを繰り返すこと、言い換えれば、先発ローテーションの5人それぞれが4連勝して1敗するということをシーズン終了まで繰り返さなければならないということになる。厳しい・・。(あくまで単純化しての話だが)
 そもそもヤンキースがこんな窮地に陥ったのは、4月にケガで離脱する先発投手が相次ぎ、投手陣ががたがたになったことに端を発している。さらに松井をはじめ野手にもケガ人が多かったが、A.ロッドの驚異的な活躍で何とか凌いできた。ところが、5月になって投手陣がケガから復帰してやっと駒がそろい始めたら、今度は打撃陣が軒並み不調に陥ってしまった。チームの調子が上がらないときは、こうした投打のバランスが崩れているときなのだが、その典型的なケースが今のヤンキースだ。6月になればクレメンスが投手陣に加わり、チーム全体にいい影響を与えるかもしれないが、神がかり的な活躍には?が付く。
 ここ何試合かは松井の打撃結果がチームの勝敗と連動しているようで、松井の責任は日に日に重くなっている。松井が自らの夢を実現させるには、これからも獅子奮迅の活躍が必要なのは言うまでもない。だが、レッドソックスの壁は大きくて頑丈そうだ。ちょっとやそっとじゃ崩れないような気がする。ファンとしてはやきもきする試合が続くだろう。しかし、松井の夢はワールドチャンピオンだ。それは私の夢でもある。夢の実現のためには何もレギュラーシーズンでレッドソックスに勝つ必要はない。たとえ、レッドソックスの後塵を拝したとしても、アメリカンリーグ各地区の2位チームの中で最高勝率をあげれば、ワイルドカードでポストシーズンに進出することはできる。搦め手から攻めて行ってもいいのだ。レッドソックスとのゲーム差がこれほど開いてしまうと、ワイルドカード争いにも注目しながら観戦していった方が気楽ではないか、そう思い付いて各地区の成績を調べてみた。
 (中地区)
   インディアンス  25勝14敗 勝率.641
   タイガース    25勝16敗 勝率.610 
 (西地区)
   エンゼルス    25勝18敗 勝率.581
   アスレチックス  21勝20敗 勝率.512
現時点では、2位で最高勝率を上げているのはタイガースということになる。そこでタイガースとのゲーム差を計算してみると、6.5ゲーム差である。これでも結構厳しい数字であるが、まだ何とかなるという希望がわいてくる数字だ。
 ヤンキースファンは誰もまだまだ地区優勝をあきらめていないだろう。私とてひょっとしたら大逆転してくれるのではないか、と思っている。だが、心に余裕を持って観戦するためには、こうしたことも頭の片隅においていたほうがいいと自分に言い聞かせている。
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立てこもり

 愛知県長久手町で発生した立てこもり事件は、犯人が所持していた銃からの発砲で警察官2名が死傷するという凄惨な事態にまで発展した。長久手町といえば、愛知万博の開かれた会場であり、私の住む市に隣接している町である。事件が発生した日の夕方から塾の生徒も話題にしていたが、一夜明けても解決していなかった。午前中、たまたま近くまで行く用事があった私は、事件の推移を気にかけながらも出かけた。

  

家を出て車で15分足らずで現場近くに着いたが、交差点に警察車両と何人かの警察官が立っていて、通行が禁止されている。現場に通じる道路は封鎖されているため、通行する車は一台もいない。私は近くのコンビニに車を停めてこの写真を撮ったのだが、コンビニの店員たちの表情にも緊張感がにじみ出ているような気がした。私の行き先に通じる道も通れなくなっていたので、仕方なく裏道を通ることにしたのだが、道には人通りがまったくない。小中学校は生徒の安全を考慮して休校になったが、さすがに外出する者たちはいないようだ。こうした事件が起こると様々なところに影響が出るものなんだなと思い知らされる。裏道をまっすぐ進んで行ったら、先に人だかりが見えた、報道陣だ!

  

しまった、どうやら現場近くまで来てしまったようだ。取材のための機材を持った報道陣が取材の許されたギリギリのところに集まっているのだろう。周りには彼らの乗ってきた車やタクシーが数多く停車している。私は慌ててその場から離れたが、こんなに近くで大勢の報道陣を見たことがなかったので、驚きと緊張のため心拍数が上がってしまった(というものの思わず携帯で写真は撮ってしまったが)。少し離れた道路には警察車両が鈴なりになっていて、物々しい厳戒態勢が敷かれていた。

  

近辺の警察官全員に招集を掛けたかのような状況だ。至る所に警察官が配置されていて、不測の事態に備えているようだ。これ以上私のような者がうろちょろしていては迷惑をかけるだけなので、目的地まで迂回していくことにした。流れ弾などの危険を考慮して周囲500mは立ち入り禁止になっていたため現場からかなり離れた地点であったのだろうが、それでも緊迫した空気は十分伝わってきた。車に乗っていても恐怖さえ感じるほどだった。
 
 午後3時近くに人質となっていた女性が自力で逃げ出し、その後膠着状態が続いたものの、8時半過ぎに家を出て来た立てこもり犯の身柄が拘束されて、29時間ぶりに一応の解決をみた。だが、銃撃されて死亡した林一歩巡査部長は帰って来ない。機動隊のSATに所属する23歳の若者の死は、いくら職務遂行のためとは言え、余りにも若過ぎる。前途を嘱望された彼の無念の死を思えば、立てこもり犯に対する怒りが私の心にふつふつと沸き起こってくる。よくもぬけぬけと・・・。
 日本国内に5万丁もあるといわれる銃器を使った犯罪がこのところ目立つ。こんな理不尽な事件によって尊い命が失われるようなことが二度と繰り返されてはならない。銃の一層の取締りを望んでやまない。
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クリムト

 2週間前、愛知県美術館の「若冲と江戸絵画展」に行ったとき、美術館の所蔵コレクションを集めた一室にも入場ができた。若冲の「鳥獣花木図屏風」に見ほれたばかりの私には西洋画を中心にした展示は、油絵の濃密さばかりが目について少々荷が重かった。だが、その中にあったクリムトの「人生は戦いなり(黄金の騎士)」という作品にはその題名の奇抜さとともに心を奪われた。


この題名は後から他人によって付けられたものらしい。じっと見ていると、描かれた騎士は馬に乗っているにしては脚を伸ばして立っているようで不自然だ。愛知県美術館のHPの作品解説を読んでも抽象的で何のことやらよく分からない。まあ、解説なんてあてにしないで自分の目で見て心で感じればいいのだろうが、それにしても変だ。
 家に戻って、書棚から「岩波世界の巨匠 クリムト」という画集を取り出して開いてみた。しかし、48枚ある図版の中に「黄金の騎士」は載っていなかった。ちょっと残念だったが、この機会にと思ってクリムトの絵画世界をじっくり味わってみた。
 
 「クリムトの絵は、聖画像(イコン)全盛の時代のように、金色を輝かせる。彼の絵は、洗練された形態と、敏感で音楽的なリズムを備えた、物質とは思えないような物質である。しかし、この物質ならざる物質である彼の絵が、ほっそりした女性らしい姿でやつれた顔という女性像の原型と、その性的本能(セクシュアリティ)にまつわる、ありとあらゆる表現を生み出したのだった。この独創、この「性的(エロティック)ということは、1900年前後のヨーロッパ芸術がもっとも公然と、そして大胆に打ち出した特色でもある。

 画集に記されたこの言葉を念頭において1枚1枚丹念に見ていくうちに、そこに描かれた女性の表情が実に甘美であることに気づいた。官能的ではあるが、どことなくはかなげで何かを訴えかけるような表情をした女性が多い。

  
「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」 「ユディトⅠ」           「ダナエ」

中でも「接吻」と名づけられた絵が私は一番好きだ。(大きな絵はこちら)



男女が渾然一体となって愛し合う姿、女性のえもいわれぬ恍惚とした喜びの表情は私の心まで暖かくしてくれる。宇宙の時の流れに身を任せ、永遠の時空をさまよう二人の男女の黄金の思い、そんなものを感じとることができる。素晴らしい。
 


蛇足ながら、愛知県美術館のHPに「黄金の騎士」のぬり絵をダウンロードできるページがあったので試してみた。


すみません、クリムトさん・・・。
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冷やし中華

 スーパーやコンビニの店頭に冷たい麺が並ぶようになって来た。麺類好きの私は温かい麺も好きだが、冷たい麺も同じくらい好きだ。以前このブログでも紹介したように、冬でも「ころうどん」(冷たいうどん)を食べに行く。鍋焼きうどんをフーフーいいながら食べている人の横で、冷たいうどんを食べるのは小気味いい。私の住む市では一年中「ころうどん」が食べられるのが嬉しい。
 しかし、冷やし中華は冬になると食べられなくなってしまうのはどうしてだろう。大学に入って初めて冷やし中華を冷麺(レーメン)と呼ぶのを知ったが、冬場にはメニューから消えてしまうのはなぜなんだろう。まさか、夏の風物詩としての存在を確立しようとしているわけでもないだろうに。
 コンビニのTVコマーシャルにも、盛んに冷やし中華が登場するようになった。「そろそろ食べたいなあ」と思い始めていたら妻が昼食に作ってくれた。麺ときゅうり・玉子・ちくわをのせただけの簡単なものだったが嬉しかった。ついつい食べるのに夢中になってしまい、写真を撮るのが遅れてしまった。


しかし、食べ始めてすぐに自分が大きな失敗をしているのに気が付いた。「マヨネーズ!!」なんで忘れていたんだろう、マヨネーズがなけりゃ冷やし中華じゃない!あわてて冷蔵庫からマヨネーズを取り出したら、あいにく少ししか残っていなかった・・。くそっ、と思いながらもあるだけ全部掛けてみたが、どうにも足りない。


納得はいかなかったが、食べなおしてみるとやっぱりこの方が断然おいしい。マヨネーズはまさしく魔法の調味料だ。これだけの具では種類が少ないし、彩りも悪い。なんだか安っぽくて寂しさは否めない。かと言って、トマトは嫌いだし、紅しょうがなんて不要だ。カニカマくらいは欲しい気もするが、それでもマヨネーズには代えがたい。麺ときゅうりとマヨネーズさえあればもう十分だ。(それを冷やし中華と呼べるかどうかは別として)
 思い返せば、私が冷やし中華にマヨネーズを入れるのを覚えたのは、大学生の頃によく行った中華料理屋でだった。(この料理屋で初めて餃子を食べるようになった。それまではニンニクの臭いが嫌いで餃子は毛嫌いしていた。)実家にいた時はマヨネーズを掛けるなんてことはしてなかったと思う。京都で初めて食べたマヨネーズを掛けた冷麺のおいしさは一瞬にして私をとりこにしてしまい、それ以来どんなことがあっても冷やし中華にはマヨネーズを掛けることにしている。最近は大体の店でマヨネーズが掛かっているが、まだマヨネーズのない冷やし中華を出す店が時々ある。そうした店では二度と食べないようにしている。それほど私にとって、マヨネーズは冷やし中華に欠かせないものなのだ。
 自分のことを「マヨラー」などとは思わないが、マヨネーズを使う頻度は高いほうだと思う。スクランブルエッグにはマヨネーズ、お好み焼きにもマヨネーズ、夏には小腹がすくときゅうりの皮をさっと剥いてマヨネーズをつけてボリボリかじる、最高だ。マヨネーズは私にとっては必需品だ。だが、何にでも掛ける訳でもないし、チューブからチューチュー吸ったりもしないから、重度のマヨネーズ依存症ではないはずだ。ただちょっとだけ他の人より使用量が多いだけのことだと思っているのだが、どうだろう。
 
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警告文

 何気なくタバコの自動販売機を見ていたら、パッケージ一つ一つにタバコの害についての警告文が印刷してあるのに気づいた。それも同じ文ではなく、いくつかの種類があったのには驚いた。調べてみたら、今は下記8種類の警告文が、順次ローテーションでパッケージの表裏両面に書き込まれているようだ。
  1.喫煙はあなたにとって肺がんの原因の一つになります。
  2.喫煙はあなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます。
  3.喫煙はあなたにとって脳卒中の危険性を高めます。
  4.肺気腫を悪化させる危険性を高めます。
  5.妊娠中の喫煙は胎児の発育障害や早産の原因の一つになります。
  6.たばこの煙はあなたの周りの人、特に乳幼児、子ども、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。
  7.ニコチンにより喫煙への依存性が生じます。
  8.未成年者の喫煙は健康に対する悪影響やたばこへの依存度を高めます。

これだけの危険性の高いものを自動販売機で堂々と売っているのもおかしなものだが、こうした警告を受けながらもあえてタバコを吸い続ける人がいるのもすごいと思う。折りしもニュースキャスターの筑紫哲也が「自分はがんにならないと根拠のない自信を持っていましたが、先週、初期の肺がんだと分かりました。症状は克服できるということで、しばらく治療に専念します。がんにうち勝って、また戻ってまいります」と番組内で表明した。筑紫は一日3箱も吸うヘビースモーカーらしいので、警告通りになったということかもしれないが、何とか打ち勝って元気な姿をまた見せて欲しいものだ。(と言っても、「NEWS23」はほとんど見たことがないのだが)
 
 こうした警告文が添付されていれば、タバコを吸うも吸わぬもまさしく自己責任ということになるだろうが(受動喫煙の害を周りに撒き散らしてもいるのは忘れてはならない)、ろくに警告もせずに独断でさっさと決められてしまうことが世の中には実に多い。国民投票法案の可決などその一例のように思えて仕方がない。安倍首相は「議論を尽くした」と胸を張るが、とてもそうは思えない。憲法という国の最高法規の改正を図るための法案である以上、どんなに時間をかけてもかけすぎることはないはずだ。首相も自分の信念が正しいと思うのならば、議論を真正面から受けて相手を論破するだけの気概を持たねばならないが、とにかく数に任せて押し切ってしまおうという姿勢ばかりが目立っている。新聞には可決された法案の要旨が一面を使って書かれていたが、そんなものを一体何人の国民が読み通すだろう(私は無味乾燥な法律の条文を読むのは苦手だ)。そうした国民の立場に立って、法案の趣旨説明、この法案によって何を目指すのかをもっとはっきりと国民に示す義務と責任が安倍首相にはあると思う。そうした自らのビジョン(「美しい国」などという抽象的なまやかしではない、もっと具体的なものがあるならば)を明確に示した上で国民に信を問うという姿勢がまったく見えてこないところに、私は安倍首相の危うさを感じる。次の参議院選挙では改憲を争点にして戦う意気込みらしいが、なぜ憲法を改正しようとするのか彼の真意が分からなくてはどうしようもない。まるで、何年か前までの何の警告文も添付されていなかったタバコのようなものだ。知らないうちに体内が蝕まれていく・・。

 なんだか、最近憲法を巡る議論がムードに乗っかった、上っ面だけの平板なものになりつつあるように思う。どんな立場に立つにせよ、相手の考えを尊重した上で議論を重ねていくという民主主義の基本的なルールを忘れないようにしなければならない。何も焦る必要はないはずだ。
 


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「林住期」

 五木寛之ははるか昔に『蒼ざめた馬を見よ』を読んだことがあるだけで馴染みのない作家ではあるが、『林住期』という題名に惹かれて読んでみた。「林住期」という言葉の意味は以前から知っていた。古代インドでは、人生を四つの時期に区切ってそれぞれ「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」と呼んだと言われている。「学生期」は心身を鍛え、学習し、体験を積む青年時代であり、「家住期」は就職し、結婚し、家庭を作り子供を育てる社会人の時期である。これまではこの二つの時期が人生の黄金期であると考えられがちであったが、五木はこの後の「林住期」こそを「真の人生のクライマックス」として捉え、自分の人生の黄金期にしようと読者に提言している。具体的に言えば、50歳という年齢を一つの区切りとして、50歳から75歳までを「林住期」と考え、この25年を人生のもっとも豊かな時期にしようというのである。そのためには、「家住期」で必死に働き「林住期」のための準備をすることが必要であり、体力・気力・経験・キャリア・能力・センスなどの豊かな財産を「家住期」で蓄えなければならない。それらを基にして、いざ「林住期」を迎えたら、一度それまでの生活を解体して自分の本当にしたいことをしろというのである。
 ここまで読んで、ちょっと付いていけれないなと思った。五木の考えに従えば、私は後1年ちょっとで林住期を迎えることになる。その時になって家族を捨て、ひたすら己の人生の黄金期を求めよと言われても不可能だ。そんな無責任なことはできないし、家族の笑顔が自分の喜びの源であると考えている私にとっては、とても受け入れられない考えである。五木のように「林住期」を終えようとする年齢で、すでに功成り名を遂げた者から、「50歳になったら・・」などと言われても、とても肯んずることはできない。たとえそれは心の持ちようだと言葉を変えられても私には納得できない。五木が近年仏教に興味を抱いてることは知っていたが、己の悟りのために妻子を捨てたブッダのように出家しろ、などと言われてしまうと、市井の迷える民である私などは思わず鼻白んでしまう。さらに、
 
『「林住期」の真の意味は、「必要」からでなく、「興味」によって何事かをする、ということにある』(p.67)
『「林住期」に金を稼ぐためでなく生きるということは、自分が自由になると同時に、世のため、人のために生きるということでもある。それがただ働きであったとしても、道楽と覚悟すればなんでもないだろう』(p.75)

「林住期」の先輩であるはずの五木がこの考えを実践しているのかなあ、とついつい思ってしまった。今でも、精力的に執筆・講演活動を行っている五木は果たして「道楽」で「ただ働き」をしているのだろうか?この本など 1400(+税)円するのだが、それだけの気持ちがあるのなら、例えば新書版にしてもっと安く提供することも可能だろう。自分が実践できてないことを人に勧めるなんて良くないよなあ、などと思ってしまうのは私だけだろうか。

 ここ半年くらいで、私は戦後の日本の文学界を代表する作家たちの近著を幾つか読んでみた。加賀乙彦の『悪魔のささやき』、大江健三郎の『「伝える言葉」プラス』、渡辺淳一の『鈍感力』、そして本書。作者はいずれも70歳を超え、「遊行期」にさしかかった長老ばかりである。これらの著書の中で、加賀と大江は日本の行く末に強い危機感を抱いて読者に警鐘を鳴らし続けている。それに対して、渡辺と五木は個人の生き方について綿々と自説を語っている。それは彼らの今までの生き方を反映しているようですこぶる興味深い。いずれも一人の人間が生きていくうえでは大いに参考になる本ではあるが、老いてなお将来の日本のために「必要」に駆られて言葉を発し続ける加賀や大江の方が私には尊い存在である。「興味」だけで生きることも大切だが、死ぬまで自分で「必要」だと思うことを実行し続けることはもっと大切だと思う。
 好きなことだけやってるじいさんなんて、周りからお荷物扱いされて煙たがられるだけだ。私は小うるさいと思われても構わないから、言わなければならないことは言い続けるような頑固ジジイになりたい。
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母の日

 シンビジュームが咲いた。去年、初めてと言っていいくらいたくさんの花をつけたシンビジュームの世話を怠ってしまい、10鉢近くあった花を4鉢にまで枯らしてしまった。亡くなった母の形見のような花であるから、自分のいい加減さを心底悔やんだが、それでも何とか今年も一鉢だけ花を咲かせてくれた。


ひょっとしたらもうダメかなと思っていただけに花の蕾を見つけたときには嬉しかった。水遣りや栄養剤など自分なりに世話をしたつもりだが、花びらが開いたときには奇跡のように思えた。これは花の生命力というよりも、亡くなった母が私に「もっとしっかりしろよ」と伝えたいがためのメッセージなのかもしれない。
 
 昨日は「母の日」、母のために妻がカーネーションを買ってきてくれた。その花瓶の中にシンビジュームの花を切って挿してみた。


亡くなった母親には白いカーネーションを送るという慣わしがいやで、ずっとピンクのカーネーションを母の日には供えることにしている。今年は赤い花もあって彩がいい。咲いたシンビジュームは決して華やかな花弁ではないが、これだけ多くの花を咲かせてくれれば文句は言えない。よく咲いてくれたと感謝したいほどだ。
 
 「母の日」といえば、京都に住む娘が妻にプレゼントを送って来た。小さい頃から母の日には欠かさず何か自分で買ってきてプレゼントしていたが、大学に入ってからは毎年郵送してくるようになった。ここ2,3年は妻の好きな冷酒を送ってくる。今年はこんな酒だ。


妻は早速あけて飲んでいたが、私の口には入らないのでおいしいかどうか分からない。娘が夕方電話をしてきてなにやら話し込んでいたから、女同士心が通じ合っているのだろう。
 
 息子は毎年妻の好きなエビスビールを何本かまとめて買ってプレゼントとしていたのだが、大学生になるとそんなことにまで気が回らなくなってしまったのか、今年は何も届かなかった。18の男がそこまで気を回すのもよほど暇な証拠だし、何も送ってこなかったのは息子の生活がそれなりに充実している表れだろうと勝手に納得していた。それでもやはり受験で誰よりも世話になった母親にこのタイミングで感謝の意を表しておいたほうがいいだろうと、私に妙な老婆心が働いてしまい、息子に電話してみた。すると、案の定「忘れてた!」と慌てたので「メールくらい今日中にしておけよ」と言っておいた。なんで私がそこまで気を使わねばならないのか分からないが、そんな性質は母から受け継いだものだから仕方ない。そんな変なところばかりが母親似だから困ってしまう。
 そんな思いをするのも、「母の日」の私から母へのプレゼントだと思えばいいのかもしれない。
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おやすみなさい

 おかしい、最近寝つきの悪いことが時々ある。この前は「帰郷」を見た夜、そして昨晩、どちらもすっと眠れなかった。眠れないぁとしばらく悶々とした。これまでそんなことはあまりなかった。風呂の浴槽でうとうとしながら、部屋に戻って布団に入ればほとんどその瞬間に眠りについていた。それなのに、ここ数日の寝つきの悪さはどうしたんだろう。変な感じだ。
 妻は以前から眠りが浅いとこぼしている。朝方目が覚めると、もう眠れないらしい。4時とか5時とかに目覚めると、もう駄目だと言う。うとうとしても眠りが続かないことが多く、起床してからもずっと「眠い、眠い」と言い続けている。「昔はそんなことはなかったのに・・。年のせいかな」とあきらめ顔だが、眠れないのは誰もが辛い。頭がはっきりしないし、体もだるい。眠りが生活の基本であると、眠れないとよく分かる。だが、毎日「眠い、眠い」と妻から聞かされるのもいい気持ちがしないので、先日催眠薬を買ってやった。「ドリエル」という薬だ。効能書きにはこうある、『ドリエルとは、全国の薬局・薬店でご購入いただける睡眠改善薬です。「寝つきが悪い」、「眠りが浅い」といった多くの現代人の抱える一時的な不眠症状を緩和し快適な睡眠を確保することで、生活全体を充実させQOL(Quality of life:生活の質)の向上に貢献いたします』
 「いつ飲んだらいいのかなかなかタイミングがつかめないから」、とまだ一度も服用していないらしいが、どれだけ効き目があるのか早く知りたい気もする。
 そんな妻の睡眠不足が私に伝染したわけでもないのだろうが、眠れない夜が続くと心配になる。毎日バスの運転をしなければならないから、睡眠不足は大敵だ。たまたま、妙に頭が冴えてしまった日が続いただけかもしれないが、睡眠が足りないと耳の奥がボーンとして音が聞こえにくくなるからイヤになる。余り気にせずにいれば自然と改善するだろうから、穏やかな心持でいることが何よりだとは思うが、やはり気になる。
 そんなことを考えていたら、ふと石垣りんの「おやすみなさい」という詩を思い出した。名古屋地区のTV局が一日の放送の終わりに流すクロージングVTR用にと依頼して書かかれた詩だと言われている。穏やかな映像を背景として、クロード・チアリのギターとともに山田昌が朗読するこの詩を聞いていると、「一日が終わったんだな、もう寝なくちゃ」という気になったものだ。今はもう流されていないが、ぜひもう一度視聴したい。

おやすみなさい。

夜が満ちて来ました
潮のように。
ひとりひとりは空に浮かんだ
地球の上の小さな島です。

朝も 昼も 夜も
毎日
何と遠くから私たちを訪れ
また遠ざかって行くのでしょう

いままで姿をあらわしていたものが
すっぽり海にかくれてしまうこともあるように。
人は布団に入り
眠ります。

濡れて、沈んで、我を忘れて。

私たち 生まれたその日から
眠ることをけいこして来ました。
それでも上手には眠れないことがあります。

今夜はいかがですか?

布団から やっと顔だけ出して
それさえ 頭からかぶったりして
人は 眠ります。
良い夢を見ましょう。

財産も地位も衣装も 持ち込めない
深い闇の中で
みんなどんなに優しく、熱く、激しく
生きて来たことでしょう。

裸の島に 深い夜が訪れています。
目をつむりましょう。
明日がくるまで。

おやすみなさい。



 これから眠れない夜があったら、この詩を思い出して、ゆっくり落ち着いた心持ちで眠りが訪れるのを待てばいい。「おやすみなさい」と天に向かって呟きながら。
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キューピー

 『米国のイラストレーター、ローズ・オニールが1909年に自作の詩とともに描いたキャラクターに「キューピー」と名づけた。これがキューピーの誕生となり、そして1912年にイラストを基にドイツでビスク(フランス語の「二度焼き」が語源で、二度焼きされた素焼きの磁器)製のキューピー人形が試作、1913年に製作完成された。
 日本に初めて紹介されたのは、1915年頃と言われています』

 こんな説明書とともに、私の住む市内8箇所に点在する観光協会の案内塔にキューピー人形が展示されている。キューピー人形といえば、ソフトビニルで造ったものしか知らなかった私は、「なぜ陶器でキューピーなんか作るんだろう」と少々疑問に思っていたが、素焼きの磁器製がキューピーの始まりであると分かって初めて納得できた。そこで、8箇所を回って写真に収めてみることにした。

  

 

  

雨上がりの日に撮った写真なので、全体的に曇っている。それでもキューピーのかわいらしい表情は見て取れるからよしとしておこう。
 わが市の中心部にある商店街は、例えば「お雛祭り」といったイベントを開くと会期中は人通りが多くなりいささかの活気を取り戻すが、何もないときには人通りも少なく閑散としている。イベントに頼らず恒常的に集客できる魅力をわが市が持つことが急務なのだろうが、なかなかうまく行っていないようだ。今回のキューピー展も陶器の楽しみを広げるための努力の一環なのだろう、面白いと思う。コレクションとして楽しめるように製品化するのもいい試みかもしれない。

 しかし、やはりキューピーと聞けばQPマヨネーズを思い出す。少し調べたら、面白いことがいくつか分かった。

  1.社名・商標は小字を用いず「キューピー」ではなく、「キユー
 ピー」である。この理由について、キユーピー側では、デザイン
 上の理由であるとしている。
  2.ロゴマークの由来はキューピーちゃん人形であるが、背中
 に羽根がないところがオリジナルのものと異なる。
  3.キユーピーの社名は「Q.P.」と綴るが、製品のマヨネーズに印字される文字は常にキューピー人形と同じ「KEWPIE」である。

 なるほどと思うけど、どうでもいい知識でもある。まあ、こういうのを役に立たない薀蓄というんだろうけど。
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