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「二人の友」(2)

 1時間後、彼らは大通りを並んで歩いていた。間もなく彼らは大佐が駐屯している別荘に着いた。彼は二人の申し出に笑って、彼らの気まぐれに同意した。彼らは通行許可証を持って、再び歩き始めた。
 すぐに前哨を超え、放棄されたコロンブの町を横断し、セーヌ川へと下っている小さなブドウ畑の端に出た。およそ11時頃だった。
 前方にアルジョンテイユの村が死んだように見えた。オルジュモンとサヌワの高台がその地方を見下ろしていた。ナンテールまで続く大平原は、葉の散った桜桃と灰色の大地以外には何も、まったく何もなかった。
 ソバージュさんが丘の頂を指差して呟いた。「プロシア兵たちはあの上にいるんですな!」すると、この見捨てられた土地を前にして、不安が二人を動けなくさせた。
 プロシア兵!彼らはまだ見かけたことはなかったが、パリの周りで、何カ月もその存在を感じていた。フランスを破壊し、略奪し、虐殺し、飢えさせていた、目には見えないが、まったく強力な敵。そしてこの未だ見たこともない、勝ち誇った人たちに彼らが持っていた憎しみに、ある種の迷信的な恐怖が加わった
 モリソーは口ごもった。「う~ん、もし奴らに出会ったら?」
 ソバージュさんはそんな時でもやはり出てしまうパリっ子特有の嘲笑とともに、「フライを与えてやりましょうよ」と答えた。
 しかし、彼らは見渡す限りの沈黙に怖気づいて、田園の中を進んでいくのをためらった。
 結局、ソバージュさんが決心した。「さあ、行きましょう。でも、注意して」彼らはぶどう畑の中を下りて行った。体を二つに曲げ、這って、身を守るために茂みを利用して、不安な目と緊張した耳とともに。
 帯のようなむき出しの土地が、川の端まで続いていた。彼らは走り出した。そして、土手に達するとすぐに枯れた葦の中に身をかがめた。
 モリソーは付近を誰も歩いていないか確かめるために、地面に頬を押しあてた。彼は何も聞こえなかった。彼らは二人だけだった、まったく二人だけだった。
 彼らは安心して釣り始めた。
 目の前には見捨てられたマラント島が彼らの姿を反対の土手からは見えなくしてくれた。小さなレストランの建物が閉じられていて、もう何年もずっと見捨てられているように思われた。
 リバージュさんが最初のカワハゼを釣り上げた。モリソーが2匹目を捕まえると、次から次へと彼らは糸の端で飛び跳ねている小さな銀色の生き物とともに釣竿を引き上げた。本当に奇跡的な大漁だった。
 彼らは注意して魚たちを、足元で水にぬれていた、細かく編まれた網のポケットの中に入れた。気持ちのいい喜び、長い間禁じられていた楽しみを再開するときに誰もが味わうあの喜びが、彼らの全身をとらえた。
 優しい太陽が彼らの肩を暖めた。彼らにはもう何も聞こえなかった、何も考えなかった。彼らは世界の他のことは無視した。彼らは釣り続けた。
 しかし、突然、地面の下からやって来るように思えた鈍い音が、地面を揺らした。大砲が再び轟き始めたのだ。
 モリソーは振り向くと、土手を超えた左側に、ヴァレリアン山の大きな影が見えた。それには今吐き出した火薬の煙が、白い羽冠のようにかぶさっていた。
 すぐに要塞の頂上から、二発目の煙が放たれた。一瞬の後に新たな爆音が轟いた。
 さらにまた別のものが続き、次から次へと山が死の息を投げ出し、乳白色の蒸気を吐きだすと、それが穏やかな空の中にゆっくりと広がっていき、山の上に雲を作っていった。
 ソバージュさんは肩をすくめた。「また始めましたな」と彼は言った。
 モリソーは自分の浮きの羽が一撃ごとに沈むのを心配そうに見ながら、突然、こんな争いごとに熱中している者たちに対して、大人しい人が感じる怒りに駆られて呻いた。「こんな風に殺しあうなんてまったく愚か者に違いないですよ」
 ソバージュさんが「動物以下ですよ」と答えた。
 釣り上げたコイを捕まえようとしながら、モリソーがきっぱりと言った。「政府がある限りはこんなもんだって言うじゃないですか」
 ソバージュさんが彼を止めた。「共和国だったら戦争を宣言しなかったでしょうに・・」
 モリソーが話を遮った。「王がいるときには外で戦争をし、共和国になったら国内で戦争をするんですから」
 それからは討論を始め、政治的な大問題を、単純で、温和な人間の穏健論で解釈しながら、人は決して自由にはなれない、という点で意見が一致した。その間もヴァレリアン山は休みなく唸り、弾丸の一撃でフランスの家々を破壊し、多くの生命を粉砕し、多くの存在を押しつぶし、多くの夢、これから味わうはずだった多くの喜び、期待された多くの幸福に終止符を打ち、遠く離れた国もとにいる妻たちの心に、娘たちの心に、母親たちの心に、もう決して終わることのない苦しみを引き起こした。
 「これが人生さ」とソバージュさんが言い放った。
 「むしろ、これが死と言うべきでしょうね」と、モリソーが笑いながら答えた。




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