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「二人の友」(3)

 しかし、彼らは、誰かが自分たちの後ろに歩いて来るのを感じて、ぎょっと震えあがった。目を向けると、まっすぐ肩ごしに四人の人、武器を持ち、ひげを生やし、制服を奉公人のように身につけ、平たいハンチングをかぶり、銃の先を二人の頬に向けている四人の大きな人を認めた。
 ニ本の釣竿は彼らの手から落ち、川を下り始めた。
 数分後、彼らは捕えられ、連行されて、小舟に投げ込まれ、島に連れていかれた。
 彼らが無人だと思っていた家の裏に、約20人のドイツ兵がいた。
 椅子に馬乗りになって、磁器でできたパイプをふかしていた、毛むくじゃらの大男がみごとなフランス語で彼らに質問した。「ところで、お二人さん、釣れましたか?」
 その時、一人の兵士が士官の足元に、気をつけて運んできた魚でいっぱいの網を置いた。プロシア人は笑った。「おお、おお、なかなかのものですね。まあ、それはそれで、私の言うことをよく聞いてくれ。混乱しないでもらいたい」
「私としてはあなたたち二人を、私を見張るためのスパイだと思っている。だから私はあなたたちを捕え、銃殺するのだ。あなたたちは目的を上手にごまかすために、釣りをするふりをしていた。だが、お気の毒にもあなたたちは私の手に落ちた。これは戦争なのだ。しかし、あなたたちは前哨を超えたのだから、きっと帰るための暗号を右受けているはずだ。その暗号を私に教えなさい。そうすれば赦免しましょう」
 緊張のため手を少し震わせながら、顔面蒼白の二人の友は、並んでじっと黙っていた。
 士官はふたたび言った。「誰も知りはしないでしょう。あなたたちは静かに帰って行ける。秘密はあなたたちとともに消えるでしょう。もし拒否すれば死ぬだけだ。すぐに選びなさい」
 彼らは口を開かずにじっと動かずにいた。
 プロシア人は常に落ち着いて、川の方に手を伸ばしながら、繰り返した。「5分したらあの水の底にいるんですよ。5分経ったら!あなたたちにはご両親がいるでしょう?」
 ヴァレリアン山はずっと轟いていた。
 二人の釣り人は真っ直ぐに立って黙ったままだった。ドイツ人は自国語で命令を与えた。ついで、彼は囚われ者たちからあまり近くないところに椅子の場所を変えてそこに座った。そして、12人の兵士が20歩離れたところにやってきて、足元に銃を置いて整列した。
 士官はふたたび言った。「あなたたちに1分あげよう。それ以上は2秒も与えませんよ」
 そして突然立ち上がって二人のフランス人に近づいて行って、モリソーの腕の下をつかんで少し離れたところに連れて行って、彼に低い声で言った。「はやく、暗号は?あなたの仲間は何も気づきませんよ。あなたに同情したように見せますから」
 モリソーは一言も答えなかった。
 プロシア人は、次にソバージュさんを離して、同じ質問をした。
 ソバージュさんも返事をしなかった。
 彼らはまた並んで立った。
 士官は命令し始めた。兵士たちが武器を持ちあげた。
 その時、モリソーの視線が、自分から数歩離れた草の中に転がっている、ハゼでいっぱいになった網の上に落ちた。
 太陽の光がまだ動いているたくさんの魚たちをキラキラ輝かせた。気が遠くなりかけた。我慢しようとしても目は涙であふれた。
 彼は口ごもりながら言った。「さようなら、ソバージュさん」
 ソバージュさんも答えた。「さようなら、モリソーさん」
 彼らは手と手握りしめたが、足の先から頭のてっぺんまで抑えがたい恐怖で震えていた。
 士官が叫んだ。「撃て!」
 12発の銃撃が一斉に放たれた。
 ソバージュさんは鼻先からどっと倒れた。もっと体の大きいモリソーは、よろめき、くるっと回って、仲間の上に空に顔を向けながら横向きに倒れた。胸のところで張り裂けた上着から血の泡が吹き出してきた。
 ドイツ人は新しい命令を下した。
 部下たちはちりじりになり、間もなくロープと石を持って戻ってきた。そしてそれを二つの死体の足に結び付け、小舟に乗せて運んで行った。
 ヴァレリアン山は呻るのを止めず、今や山のような煙をかぶっていた。
 二人の兵士がモリソーの頭と胸を持った。別の者がソバージュさんを同じようにした。力を加えて一瞬バランスを取ってから、死体は遠くへ投げ込まれ、円を描き、石が足を引っ張っていくため、直立したように川の中へ沈んでいった。
 水が跳ね返り、泡を立て、揺らめき、そしてまた落ち着いた。そしてさざ波が川岸までやってきた。血が少し流れていた。
 士官は、常に穏やかな様子で、小声で言った。「今度は魚にまかせよう」
 そして家の方に戻って行った。
 ふと、彼は草の中にハゼの入った網を見つけた。それを拾い上げ、調べて、にっこりしながら叫んだ。
 「ウイルヘルム!」
 白い前掛けをした一人の兵士が駆けつけた。プロシア人は、彼に銃殺された二人の釣果をその男に投げて、命令した。「すぐにこの小魚を、まだ生きているうちにフライにしてくれ。きっとおいしいだろうよ」
 そして彼は再びパイプをふかし始めた。
 

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