■大阪市立東洋陶磁美術館 特別展『天目-中国黒釉の美』(2020年6月2日~11月18日)
土曜日は名古屋から大阪へ移動。特別展の展示室に入って、まず目についたのは、大好きな磁州窯の『黒釉白地掻落牡丹文梅瓶』。隣りには細いストライプ文様がおしゃれな『黒釉堆線文水注』もある。「天目(茶碗)」と何の関係もないのに何故?と不思議に思った。
あとで入口に戻って解説パネルを読んで知ったのだが、天目とは、元来、浙江省天目山一帯の寺院に於いて用いられた、天目釉と呼ばれる鉄釉(黒釉)をかけた茶碗のことを言った。その後、産地にこだわらず黒釉茶碗を天目と称するようになり、最近は「天目」を黒釉の意味で使うこともあるのだそうだ。へええ、「天目」って、むしろ形(口が開き、底が締まったすり鉢型)を表す用語だと思っていたので、勉強になった。
もちろん天目茶碗も各種並んでいた。吉州窯の木葉天目、玳皮天目、健窯の禾目天目など。私は白覆輪天目というのが、シンプルで形のよしあしが分かりやすくてよいと思った。磁州窯と定窯のものがあった。国宝『油滴天目』はやっぱり美しい。同じ油滴天目でも、モノトーンに近いものもあるが、この茶碗は、光線の具合で青や緑など複雑な色彩が浮かび上がる。口縁の金覆輪もゴージャス感を添える。でもどれが欲しいかと言われたら、磁州窯の黒釉だなあ、と思って眺めた。
実は、特別展以上に面白かったのが、同時開催の特集展『現代の天目-伝統と創造』(2020年6月2日~11月18日)。世界各国の近現代作家による伝統的な天目の再現や新たな創作など約30点を展示する。いずれも伝世の名品と比べても遜色がない。でも技術に加えて偶然が味方しないと傑作は生まれないから、やきものは難しいんだろうなあ。私は李春和氏の油滴天目が特に気に入った。調べたら台湾の陶芸家であるそうだ。
■中之島香雪美術館 企画展『茶の湯の器と書画-香雪美術館所蔵優品選』(2020年6月13日~8月30日)
時間があったので、徒歩でハシゴ。本展は、村山龍平コレクションの茶の湯の優品約80点をジャンル別にアラカルトで紹介するもの。「茶入・茶碗・茶杓」「花入・水指」「香合・香炉・釜・炭道具」…という具合で進む。絵画は、戦前の美術専門誌に掲載されて以来、100年以上非公開だった勝川春章『三都美人図』が注目されていたが、浮世絵の展示は前期で終わっていた。後期は水墨画で、伝・周文『廬山観瀑図』、伝・祥啓『山水図』など。
まあフツウの展覧会かな、と思っていたら、最後の展示室が「特集:楽道入」で足が止まった。千宗旦作の『二重切花入(銘:のんかう)』を見て、道入の別名ノンコウから付けたのかな?と思ったら、そうではなくて、宗旦が能古(のんこ)茶屋で切った花入に「ノンコウ」と名づけて道入に贈って以来、道入を訪ねることを「ノンコウのところに行く」と言っていたので、それが道入の別名になったのだそうだ。初めて知る知識で、宗旦と道入のバディ感に関心が湧いた。花入は、太くてまっすぐな竹を用いた二重切(上下二段に花窓を切った形)で、微かに底部が広がっている。
ほかに同館所蔵の道入作品が7件。黒楽茶碗『寒空』や赤楽茶碗『黄山』は普通として、香合『鶏』は珍しい白楽焼で落花生みたいな色をしていた。また赤楽茶碗『真砂』はフルーツ牛乳のような地色で、口縁の一部にプリントしたようなオレンジ色の装飾文(三島模様)が配されている。『緑釉割山椒向付』は深緑の釉薬をベタ塗りにして、ところどころ黄色が覗く。青海苔を貼り付けたような雰囲気。道入の多様な挑戦にも驚いたし、これらを全て集めていた村山コレクションの幅広さにも感嘆した。