○半蔵門ミュージアム 特別展示『神護寺経と密教の美術』(2018年4月19日~7月29日)
今年4月に開館した半蔵門ミュージアムは、宗教法人・真如苑が所蔵する仏教美術品を一般に公開するために設立した文化施設である。そのうち行こうと思っていたら、開館初の特集展示が会期末になってしまったので、慌てて行ってきた。場所は東京メトロ半蔵門駅の4番出口の真上のビルで、迷いようがない。建物に入ると、ホテルのフロントのような受付で制服のお姉さんに「いらっしゃいませ」と迎えられる。来館者であることを示すネームプレートを渡され、「地下1階の展示室からどうぞ」と案内された。このミュージアムは入館無料なのである。
地下1階の展示は、まず細長い部屋に、ガンダーラの仏像と釈迦の生涯をあらわした浮彫彫刻が並ぶ。素人目にも、すごく状態のいい貴重なものであることが分かる。それから日本の木造仏が1躯、梵王身立像(観音三十三応現身のうち)という珍しいもの。釣り目で、厳しく凛々しい表情をしている。会津・法用寺に祀られる仏像と共通性があり、明徳5年頃(南北朝時代、14世紀末)の作と推定されている。
次は、四角いホールのような部屋で、中央にあの運慶作の大日如来坐像がいらっしゃった。視界に収まらないくらい背の高い、四面ガラスのケースに収まっているのだが、これは展示ケースではなくて、現代の厨子だという気がした。展示品を見るように、大日如来の四方をくるくる回りながら、同時に宗教的な気持ちも強く感じた。左側の壁には色彩鮮やかな両界曼荼羅(江戸時代、醍醐寺金剛王院旧蔵)。右側の隅には、やや細身で真黒な不動明王坐像(平安-鎌倉時代、12-13世紀)。確か「醍醐寺普門院旧本尊」とあったと思うのだが、「醍醐寺普門院」が確認できないので疑問符つきで残しておく。透かしの光背(全体は黒で頭光の部分だけ金色)が美しかった。光背と台座は、慶派21代・康正の作(慶長年間)。
そのあとが特集展示で、密教系の仏画、神護寺経と経秩など。最後も仏画で絹本の真言八祖像(室町時代)と大きな弘法大師像。空海の師である恵果和尚を見ると、映画『空海』を思い出して、にやにやしてしまう。文書資料の『東寺解由状』には、東寺二長者だった聖宝(醍醐寺の開祖)の署名があって興味深かった。肩書は「少僧都法眼和尚位」なのだな。「宝(寶)」の字が「聖」に比べてアンバランスに大きい。
地下1階を見終わると、エレベーター前のカウンターのお姉さんに「あと5分位で上映が始まりますので3階へどうぞ」と言われて、3階に上がると「ホールでお待ちください」と通された。ホールは、明るく開放的な空間で、インド寺院の風景を映したビデオが流れていた。わずかな待ち時間も退屈させないようになっており、至れりつくせりである。やがて、上映時間になると別室のシアターに案内された。ここは赤いふかふかの椅子席で、上映が始まると暗くなり、画面に集中できるようになっている。
上映作品は「大日如来坐像と運慶 祈りと美、そしてかたち」と題した18分のビデオで、18分は長いんじゃないかと思ったが、全然そんなことはなかった。なんと運慶の名品をあれもこれも一気に見ることができるので、仏像好きには至福のビデオである。真如苑の大日如来坐像は、さまざま角度で捉えられており、憂いを感じさせる目元のアップとか、ふっくらした足の裏とか、え、そんなところを!とドキドキしてしまった。最後に監修者として山本勉氏のお名前が出て、あーなるほどと納得した。これは本気で仏像好きを喜ばすビデオである。
また、2階にはマルチルームという展示室があって、「当館の大日如来坐像と運慶作品-その納入品と像内荘厳-」というパネル展示をやっていた。真如苑の大日如来像は、X線撮影により、像内に心月輪や五輪塔形の舎利容器が納入されていることが判明しているが、ほかの運慶作品の像内納入品の状況をまとめて紹介するもの。非常に面白かった。
2008年に真如苑がこの大日如来像をクリスティーズのオークションで獲得したときは、14億円という破格の高価格に注目が集まり、豊富な資金力を揶揄するような悪評もずいぶん聞いた。私も、国民の宝であるべきものが、うさんくさい宗教団体の所有物になった気がして、正直、あまりいい気持ちがしなかった。しかし、その後は東京国立博物館できちんと調査・公開された上、このたび作品にふさわしい最上級の環境で、全ての人に無料公開されることになった。まことに喜ばしい限りで、当時の自分の不明を謝罪したい。
今年4月に開館した半蔵門ミュージアムは、宗教法人・真如苑が所蔵する仏教美術品を一般に公開するために設立した文化施設である。そのうち行こうと思っていたら、開館初の特集展示が会期末になってしまったので、慌てて行ってきた。場所は東京メトロ半蔵門駅の4番出口の真上のビルで、迷いようがない。建物に入ると、ホテルのフロントのような受付で制服のお姉さんに「いらっしゃいませ」と迎えられる。来館者であることを示すネームプレートを渡され、「地下1階の展示室からどうぞ」と案内された。このミュージアムは入館無料なのである。
地下1階の展示は、まず細長い部屋に、ガンダーラの仏像と釈迦の生涯をあらわした浮彫彫刻が並ぶ。素人目にも、すごく状態のいい貴重なものであることが分かる。それから日本の木造仏が1躯、梵王身立像(観音三十三応現身のうち)という珍しいもの。釣り目で、厳しく凛々しい表情をしている。会津・法用寺に祀られる仏像と共通性があり、明徳5年頃(南北朝時代、14世紀末)の作と推定されている。
次は、四角いホールのような部屋で、中央にあの運慶作の大日如来坐像がいらっしゃった。視界に収まらないくらい背の高い、四面ガラスのケースに収まっているのだが、これは展示ケースではなくて、現代の厨子だという気がした。展示品を見るように、大日如来の四方をくるくる回りながら、同時に宗教的な気持ちも強く感じた。左側の壁には色彩鮮やかな両界曼荼羅(江戸時代、醍醐寺金剛王院旧蔵)。右側の隅には、やや細身で真黒な不動明王坐像(平安-鎌倉時代、12-13世紀)。確か「醍醐寺普門院旧本尊」とあったと思うのだが、「醍醐寺普門院」が確認できないので疑問符つきで残しておく。透かしの光背(全体は黒で頭光の部分だけ金色)が美しかった。光背と台座は、慶派21代・康正の作(慶長年間)。
そのあとが特集展示で、密教系の仏画、神護寺経と経秩など。最後も仏画で絹本の真言八祖像(室町時代)と大きな弘法大師像。空海の師である恵果和尚を見ると、映画『空海』を思い出して、にやにやしてしまう。文書資料の『東寺解由状』には、東寺二長者だった聖宝(醍醐寺の開祖)の署名があって興味深かった。肩書は「少僧都法眼和尚位」なのだな。「宝(寶)」の字が「聖」に比べてアンバランスに大きい。
地下1階を見終わると、エレベーター前のカウンターのお姉さんに「あと5分位で上映が始まりますので3階へどうぞ」と言われて、3階に上がると「ホールでお待ちください」と通された。ホールは、明るく開放的な空間で、インド寺院の風景を映したビデオが流れていた。わずかな待ち時間も退屈させないようになっており、至れりつくせりである。やがて、上映時間になると別室のシアターに案内された。ここは赤いふかふかの椅子席で、上映が始まると暗くなり、画面に集中できるようになっている。
上映作品は「大日如来坐像と運慶 祈りと美、そしてかたち」と題した18分のビデオで、18分は長いんじゃないかと思ったが、全然そんなことはなかった。なんと運慶の名品をあれもこれも一気に見ることができるので、仏像好きには至福のビデオである。真如苑の大日如来坐像は、さまざま角度で捉えられており、憂いを感じさせる目元のアップとか、ふっくらした足の裏とか、え、そんなところを!とドキドキしてしまった。最後に監修者として山本勉氏のお名前が出て、あーなるほどと納得した。これは本気で仏像好きを喜ばすビデオである。
また、2階にはマルチルームという展示室があって、「当館の大日如来坐像と運慶作品-その納入品と像内荘厳-」というパネル展示をやっていた。真如苑の大日如来像は、X線撮影により、像内に心月輪や五輪塔形の舎利容器が納入されていることが判明しているが、ほかの運慶作品の像内納入品の状況をまとめて紹介するもの。非常に面白かった。
2008年に真如苑がこの大日如来像をクリスティーズのオークションで獲得したときは、14億円という破格の高価格に注目が集まり、豊富な資金力を揶揄するような悪評もずいぶん聞いた。私も、国民の宝であるべきものが、うさんくさい宗教団体の所有物になった気がして、正直、あまりいい気持ちがしなかった。しかし、その後は東京国立博物館できちんと調査・公開された上、このたび作品にふさわしい最上級の環境で、全ての人に無料公開されることになった。まことに喜ばしい限りで、当時の自分の不明を謝罪したい。