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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

贈答とコレクション/ニッポンおみやげ博物誌(国立歴史民俗博物館)

2018-07-15 22:43:34 | 行ったもの(美術館・見仏)
国立歴史民俗博物館 企画展示『ニッポンおみやげ博物誌』(2018年7月10日~9月17日)

 近世から近・現代にかけて展開してきた「おみやげ」という贈答文化とその背景となる旅と観光の様相を紹介し、「おみやげ」のコレクションを通して、日本文化の特質を探る企画展。開催概要に展示資料約1,300点とあったけれど、確かにキーホルダーの山・絵馬の山・ご当地インスタントカレー(笑)の山など物量に圧倒される、楽しい展覧会である。

 はじめに「アーリーモダン(初期近代)のおみやげ」と題して、江戸時代のおみやげ事情を紹介する。参勤交代で江戸に向かう武士たちは郷土特産の献上品を携え、帰国時は江戸土産を持ち帰った。「武鑑」に大名ごとに参府時の献上品、帰国時の拝領品、さらに時献上(季節の献上品)が記されているのは知らなかった。鍋島藩の「時献上」が鉢・大皿・中皿等々なのは納得。ほかの藩も知りたい。

 また文化8年刊『進物便覧』によれば、京都土産には、西陣織物、楽焼茶碗、香道具、画筆など納得の品々が並ぶ。それに対して江戸は文化後進地域なのだが、草双紙、錦絵など、独自の文化と土産物を形成していくのが面白い。奈良はやっぱり墨。虎屋饅頭は大坂の土産だったのだな。今日の商品券のような『饅頭切手(虎屋伊織)』も展示されていた。このほか、伊勢、善光寺、金毘羅・四国、長崎・九州など、各地のおみやげを網羅した『進物便覧』はお茶の水女子大学生活文化学講座所蔵。図録に詳しい解説がある。

 さて近現代へ。帝国の聖地創造から「国立公園」や「世界遺産」の選定まで、名所・観光地のブランド化とその影響を、おみやげを通して検証する。歴史を感じるポスターやペナントもあるが、最近、誕生した定番銘菓も展示されている。次に現代のおみやげの諸相を「有形の文化財を資源とするおみやげ」「無形の文化資源(祭り、方言など)のおみやげ」等々に分類して展示する。考古遺跡とおみやげ、スポーツとおみやげ(プロ野球を例に)なども面白かった。

 「セクシャリティとおみやげ」はカーテンで仕切られたブース展示になっていて「18歳禁止」の注意書きがされていた。和装の女性が炬燵に入った姿を現した陶器人形の『和印』(ひっくり返すと炬燵の中に男性がいる)など。これ、彩色がきれいで女性受けしそうな愛らしさ。秘宝館のパンフレットも数種。図録解説によれば、かつては全国の温泉地に20館を越える秘宝館があったそうだ。あと春画をプリントしたトランクス(2015年、東京)が展示されていたが、あれは『春画展』のグッズだと思う。「美術館・博物館とおみやげ」のコーナーもあってよかったのではないか。

 第2会場は旅の多様化を考える。「ダークツーリズム」(被災地・戦争跡地など、死や悲しみの場所を訪れる観光)という言葉があるそうだが、あまり軽々しく使ってはいけない概念だと思う。沖縄のオスプレイをプリントしたTシャツや、陸前高田の「奇跡の一本松」を冠した銘菓のパッケージを眺めながら、なんとも複雑な思いを抱いた。
 
 おみやげには、個別の地域で作られながら一定の様式や形態を踏まえたものが多い。たとえば、ペナント、提灯、クリアファイル、マスキングテープなど。この「定型」の変遷と盛衰は、もう少し詳しく扱ってくれてもよかったように思う。ペナントってあったなあ。観光地の定番だったのは70年代くらいまでだろうか? あれは他人のために買うものでなく、自分のための記念品だったと思う。解説に「比較的若い世代の男性に人気だった」とあった。そう、女子はあまり買わなかった気がする…。また、定型化したご当地食品の例として、会場には、キャラメル、カレー、ラーメンが展示されていた。北海道銘菓のサイコロキャラメル(北海道の市町村名入り)を見て、何これ欲しい!と思ったら、北海道150年事業とのコラボで2018年12月まで期間限定で販売されているものだそうだ。

 定型化したおみやげは、コレクションアイテムになる。ということで、某氏の絵馬コレクション。ひとつひとつ説明はないが、ああ東大寺二月堂の絵馬だ、これは武田神社、甲府周辺多い、こっちは鎌倉など、絵柄を見るだけで分かるものもあって面白かった。最後に歴博の「水木コレクション」からも、入場券や珍味の包み紙を貼り込んだスクラップブックが展示されていた。
 
 それから、この展示で異彩を放っていたのは「とある職場のおみやげ目録」と題したコーナーで、2015年からの約3年間、歴博の研究協力課にもたらされたおみやげの全調査である。「ほぼ全て仕事で訪れた地のおみやげ」で「出張に関わる事務作業を任せた返礼であり、自らの移動にお世話になった人たちへの義理」として送られたものだという。研究系ごとのおみやげの割合とか職位ごとの平均金額など、とても面白かった。私も、歴博に比較的近い、官公庁系の職場の経験が長いのだが、出張の際に職場へのおみやげは必須である(もちろん自腹で買う)。これって、ほかの職場では、どのくらい一般的な慣習なのか、ちょっと知りたい。
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