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見もの・読みもの日記

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拓本も見どころ/文房具の至宝展(五島美術館)

2018-07-08 23:51:43 | 行ったもの(美術館・見仏)
五島美術館 『館蔵 文房具の至宝展-机上の小宇宙-』(2018年6月23日~7月29日)

 宇野雪村(1912-1995)旧蔵のコレクションより、日本・中国の文房具約100点を展観。書家・宇野雪村氏のお名前は、寡聞にして初めて聞いた。戦後は前衛書、アクション・ペインティングで海外にも知られた方だそうで、本展の第二会場にはその作品が十数点、展示されている。ポスターの背景に使われている不思議な墨書(墨画?)が『龍のポーズ』という作品であることも初めて知った。

 展示品は、筆、墨、硯、紙の文房四宝を中心に、印材、諸具(筆架、水柱、水盂など)。水盂(すいう)というのは水を差す道具のひとつで、広口の器に小さな匙がついている。小さくて華奢なこと、雛人形のためのティーカップのようだ。

 筆は文房四宝の中では、いちばん重きを置かれない。新しくないと実用的でなく、骨董的な価値に乏しいためだ。確かにそのとおりで、愛でるのは筆管(軸)の造作になる。螺鈿、堆朱、象牙、玉など、19~20世紀の筆管は豪華絢爛である。ふと古代の筆管はどんなだったんだろう?と思った。市河米庵が中国の筆マニアで約700本をコレクションしていたというのが面白かった。著書の『米庵蔵筆譜』(天保5年)はきれいな色摺り挿絵本である。

 墨も消耗品だが、名墨とみとめられたものは美術品として大事に保存された。でも使わなければ価値は分からないので、よく見ると使われた痕跡があり、一部分のみが後世に伝えられていたりする。宇野雪村コレクションには、中国製品(明代の古墨、乾隆御墨、嘉慶墨など)に加え、奈良・古梅園製の「豊山香墨」や紀州御墨所で作られた「藤白墨」もあった。Wikiによれば、出来たての墨は粘り気があって墨色も冴えず、だいたい20年から100年にかけてが最もよい墨色を見せるのだそうだ。では、墨匠というのは、自分のつくった墨が最もよく仕上がった状態を必ずしも見られない仕事なのだな。民国版の墨譜『鑑古齋墨藪』は特定のページ(丁)を緑や紫の色摺りにしたもの。ちょっと珍しい。

 硯は明~清時代の作が中心だったが、「方形」の硯が多いことが気になった。いや中国の硯は「円形」が一般的だと思っていたのに。これはコレクターの趣味なのだろうか。安徽省で産する歙州(きゅうしゅう/きゅうじゅう)という石は泥板岩であるとか、金星(金砂子)の散る景色は黄鉄鉱が混じるためとか、鉱物学的な解説を興味深く読んだ。瓦当の裏面を用いた「瓦当硯」も面白い。要するに平たくて硬いものなら何でも硯になるのだな。

 墨・硯の展示コーナーは、展示ケースの背景にさまざまな拓本があしらわれていて、面白かった。拓本だけがずらずら並んでいると飽きるのだが、こういうアクセントとしての使い方はとてもよい。『沙南侯獲碑拓本』(後漢永和5年)は今のバルクル・カザフ自治県で発見されたらしい。古隷と呼ばれる字体で、私の好きな『開通褒斜道刻石』を思い出した。『者[さんずい+刀]鐘拓本』は拓本に添えた賛の筆跡が、どこかかわいくて好き。拓本が美術品であり、インテリアにもなることを初めて認識した。

 紙も楽しかった。四季の景物を色摺りであらわした、女子力高めの詩箋が何種類も出ていた。民国時代の『清秘閣詩箋』だったと思うが、黄色いスイカを三角形に切った図、現代の暑中見舞いにも十分使える。あと宋版など善本古籍の一頁を薄く摺り出した詩箋は、現代の台湾故宮のグッズと同じ発想だと思った。印材は、ほのかにピンク色の「美人紅」という素材を初めて覚えた。ミルキーな白色の「魚脳凍」というのも面白い名前。
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