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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2018年7月@関西:糸のみほとけ(奈良国立博物館)

2018-07-24 23:48:02 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 修理完成記念特別展『糸のみほとけ-国宝 綴織當麻曼荼羅と繡仏-』(2018年7月14日~8月26日)

 国宝『綴織當麻曼荼羅(つづれおりたいままんだら)』の修理完成を記念し、綴織と刺繡による仏の像を一堂に集める特別展。面白い企画だと思ったけど、織物と刺繡には絵画ほど興味がないので、どんな気持ちで接すればいいのか、正直、少し迷いながら見に行った。いつもの新館入口を入ると「会場はこちらです」と思わぬ方向を案内されて戸惑う。いつも帰り道にあたる、ゆるやかなスロープがアプローチになっていて、西新館が本展の第1会場になっているのだ。

 いちばん見たかった中宮寺の『天寿国繡帳』が、いきなり目の前に現れる。最後に見たのは?と思ったら、去年、京博の『国宝展』に出ていた。しかし大混雑だったので、あまりきちんと見た気がしない。いま調べたら、じっくり見たのは2006年に東博で行われた特別公開『国宝・天寿国繍帳と聖徳太子像』であるようだ。このとき、現在の『天寿国繡帳』が飛鳥時代の原本と鎌倉時代に作られた模本を寄せ集めて作ったものだということを知った。今回も見ているうちに思い出し、やっぱり原本はかなり褪色しているなあと思って行き過ぎかけ、いや待てよ、と思い返して解説を探し、発色の鮮明な部分が原本であり、褪色が甚だしいのは鎌倉時代の模本である、という記述を見つけて、そうだったと納得した。

 本展は、高精細の拡大写真が数多く添えられていて、『天寿国繡帳』でいえば、亀の甲羅の丸い枠や宙に浮かぶ瑞雲、ふわりと広がる天人の襞スカートなどが、その多様な図形にしたがって、丁寧なステッチで隙間なく埋められていることがよく分かる。返し縫、平縫、駒縫(別の糸を表面に留める)など、多彩な繍法が使われており「いかにも職人的な仕事である」と図録の解説にいう。そんな視点で見たことがなかったので、とても新鮮だった。また、『天寿国繡帳』の一部と見られる刺繍の残欠が、中宮寺や法隆寺のほか、徳川美術館や藤田美術館など各地から集められていたことにも感心した。数センチ四方の小片もあり、よくぞ大事に保存していたなあと思った。

 古代の「糸のみほとけ」を代表する大作が『綴織當麻曼荼羅』。これは経糸と緯糸で織り上げた綴織(つづれおり)だが、御仏の眉のような、なだらかな曲線を表すにには、緯糸を斜めに流し入れる。拡大写真と合わせた解説でよく分かった。本展には、寺に銅仏と繍仏を納めた、というような記述のある古文書がいくつか出ていた。昔は繍仏って、銅造や木造の仏像と同じくらい一般的だったのかもしれない。

 奈良博の国宝『刺繡釈迦如来説法図』は、もしかしたら初めて見るだろうか。釈迦の赤い衣もオレンジ色の肉身も、稠密なステッチで埋められている。諸仏の瓔珞や結い上げた髪の流れ、光背の暈しも、全て刺繍で表現されている。美麗で豪華。一方、大英博物館所蔵の『刺繡霊鷲山釈迦如来説法図』(唐時代)は敦煌で発見されたもの。美しさというより写実を追求しており、しかもおおらかである。

 このほかも、繡仏には初めて見る美しい作品が多くて面白かった。しかし、私が忘れられないのは、無関普門所用と伝える『刺繡九条袈裟』(大徳寺天授庵)である。クリーム色の無地の生地を紺色の帯で枠取りしたもの。そして、紺色の帯に花鳥や諸仏・諸天(阿修羅とか)が刺繍されているのだが、悶絶するほど可愛い!!! これ、グッズ化したら、絶対、女子受けすると思う。『刺繡九条袈裟貼屛風』(知恩院)は人物や動物がゆるキャラっぽくて笑ってしまった。どちらの袈裟も中国製(南宋~元)である。

 さらに第2会場(東新館)に至るまで、数々の「糸のみほとけ」がずらりと並んでいたが、刺繍や綴織の技術を至近距離で観察できるよう、展示ケースの中に特設の展示台を入れて、ガラスすれすれに作品を掛けたり、足もとに照明を置いて、薄暗がりに浮かび上がる絹糸の艶めかしい輝きを演出したり、さすが奈良博である。作品の美しさをよく知っている。夏休みに入った会場は、中国人観光客の姿が多かった。日本人にももっと来てほしい。
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