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見もの・読みもの日記

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日常から始まる/民主主義は止まらない(SEALDs)

2016-06-28 22:38:32 | 読んだもの(書籍)
○SEALDs『民主主義は止まらない』 河出書房新社 2016.6

 参議院選挙が公示され、期日前投票も始まった。このところ、投票前に読んでおこうと思った本を集中的に読んでいるので、できるだけ現時点の感想と内容紹介を書いておく。本書はSEALDsとその周辺の人々が「民主主義」について語る言葉を集めたもの。小熊英二さんとSEALDsメンバー、内田樹さんとSEALDs KANSAIメンバーの対談2本がかなりの分量を占め、あとは若者たちによる、さまざまなスタイルの文章が収められている。「野党共闘」とは何か、具体的に「選挙活動」とは何ができるのか。日常生活で目撃した家族の風景であったり、哲学的な問いかけであったり、創作ふうであったり。東アジアの若者の政治行動や、アメリカで見た選挙や、2016年4月の北海道の衆議院補欠選挙のルポルタージュもある。(プロの編集者の手が入っているのだろうけど)どれも読みやすく、バラエティに富んでいて面白い。

 はじめの「社会は変えられる」と題した対談は、社会学者の小熊英二さんとSEALDsの諏訪原健さん、本間信和さん、溝井萌子さんによる(複数人だけど「対談」というのは本書の用語)。諏訪原さんと溝井さんは、SNSなどで知っていたが、本間さんの名前は初めて知った。高校では奥田愛基さんの後輩で、大学では諏訪原さんの後輩なのだそうだ。このように個人の属性をはっきりさせた上で、その発言を聞くという小熊さんの(そして彼らの運動の)スタイルが私は気に入っている。

 小熊さんが「やっぱり皆さんは仲がいいの?」と聞いて、彼らが「いいですよ」と答える箇所がある。飲みに行ったり、一緒に遊んだりもすると聞いて、小熊さんが「反原連の人たちはそういうことをしない」とやけに面白がっている。学生だから、時間が自由になるから、というのもあるのだろうけど、小熊さんのいうとおり、古いタイプの「社会運動」のイメージを、さらっと裏切っている感じがする。彼らが、そもそも国家権力にもの申したいと思っている大人たちから「行け、行け!」と後押しされて戸惑っているところとか、小熊さんに、安保法案が通ったら「白虎隊みたいに国会前で切腹すると思っていた、という人もいると思いますよ」と言われて、「マジっすか!」と驚くところなど、等身大の今の若者が見えて面白い。

 私は、反自民の立場だけれど、古い運動家タイプのおじさん・おばさんが、かなり面倒くさいということはよく分かる。でもその私から見ても、彼らの自由で自然体な運動のかたちは、彼らの母親世代である私の予想や発想をはるかに超えていて、新鮮である。
 
 内田樹さんと対談しているSEALDs KANSAIの大野至さん、塩田潤さん、寺田ともかさんのことは初めて認識した。反原発デモとかSASPLの特定秘密保護法に反対するデモとか、国会前の盛り上がりを見ながら、「東京だけじゃなくて、関西でもこういう運動をやらなくちゃいけない」と思ったこと、東京へのライバル意識、それから関西独特の歴史や社会背景、具体的に言えば、根強い被差別問題などが語られている。

 関西市民連合を立ち上げるために、各種運動団体の間の調整役を担ったのも彼らだという。どこそこの労働組合は何党系だとか、あっちの組織とこっちの団体は仲が悪いとか、要するに硬直した旧体制を、彼ら若者が解きほぐしたということだ。たぶん全国で同じようなことが行われたのだろう。そして、運動用語で喋ることしかできなかった政治家の言葉が、少しずつ、市民の使うやわらかい日常語に変わって来たという話に感銘を受けた。いま民主主義のために必要なことは、政治の言葉をリアルな日常に着地させることではないか、と私は思っている。

 以下余談。本書を読み終えた数日後、「安保法制に反対する筑波大学有志の会」による「ドキュメンタリー映画『わたしの自由について-SEALDs 2015-』上映会」が大学内で開催された。映画は見られなかったが、そのあとのディスカッションパートを聞きに行き、諏訪原さん、本間さんの話を聞いた。参加者は市民の方が多かったが、同世代の学生から多数の質問が出て、打ち解けたトークが面白かった。私が印象的だったのは「台湾のひまわり革命みたいに国会を占拠する気持ちはなかったか?」と聞かれて、たぶん社会の段階が違う、いまの日本ではそういう行動に意味がない、という趣旨の答えをしていたこと。日本の70年代の闘争のスタイルは知らなかった、運動を始めて、あとから知った、という発言にも、そうか、知らなかったのかと驚きながら、納得した。彼らは古い「運動家」とは全く無縁なんだなあ、とあらためて思った。

 諏訪原さんは「文化を変えていきたい」とも言っていた。政治は、特別な職業、非日常のイベントではなくて、大学行ったり会社に行ったりする生活の中に、映画やデートや美味しい食事と同じ会話の中にあるもの。そういう風通しのいい社会をつくるために、まず今回の選挙の一票から。
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