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見もの・読みもの日記

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合理的経営の果て/トヨタの闇(渡邉正裕、林克明)

2010-05-24 23:59:15 | 読んだもの(書籍)
○渡邉正裕、林克明『トヨタの闇』(ちくま文庫) 筑摩書房 2010.5

 私は免許を持っていないので、クルマには全く関心がない。トヨタの製品についても、特に語るべき意見を持たない。ただ、昨今、ムダ削減=経営改善といえば「PDCAサイクル」「見える化」「改善提案」など、トヨタで成功した方式がやたらと推奨されている。はっきり言って、うるさい。そんなに成功するわけがないだろうと思って、心情的に反発を感じているときに本書を見つけた。題名を見ただけでトヨタに批判的であることは明らかである。「トヨタ式経営」を礼賛した本も眉唾だが、こうあからさまに敵対的な本もいかがなものか、と思った。しかし、最終的に真偽を判断するのは自分、と観念して読み始めた。

 本書によれば、トヨタがマスコミ各社に支払っている巨額の「広告費」は、同社に都合の悪い記事を書かせないための「口止め料」として機能しているという。なるほど。これは、合理的に考えて「ありそう」な話だ。マスコミには、大資本にフィルタリングされた情報しか流れないのである。

 本書は、広告収入ゼロを経営方針とするニュースサイト「MyNewsJapan」上に発表されたもので、ひとことでいえば、「トヨタは本当に(マスコミで喧伝されるほどの)優良企業なのか?」という疑問に、製品の品質と、従業員の過酷な労働実態の二面から迫っている。2006年7月から連載を開始し、2007年11月に刊行された単行本に、近年の状況(2010年2月、米国でのリコール隠し疑惑など)を踏まえていくぶん加筆したものだ。

 前者の「製品の品質」については、欠陥が明らかな車を放置して、公道を走らせておくのはけしからん、と言われれば、そうだなと思うが、私は、欠陥車であるとないとに限らず、どうせ車なんで信用ならないものだと思っている野蛮人なので、この件には発言しないでおく。

 後者の「過酷な労働実態」については、読んでいて暗澹とした。単純な搾取の構図ではなくて、勤務時間外のはずのプライベートな時間が、フットサルやバーベキュー大会などのイベント、目標を定めた健康管理、「創意くふう提案」とその添削、強制加入の組合活動、果ては交通安全祈願の神社詣でまで、「参加しないわけにはいかない」自主活動で埋め尽くされ、生活の全てをトヨタに絡め取られてしまう体制になっている。倒れる前に、なぜ「一抜けた」と宣言して、下りてしまうことができないのか、と私は不思議に思うのだけど、やっぱり出来ないんだろう。もう少し頑張ればいいことがあるかもしれない、と儚い期待をつないでしまう程度には、よくできたキャリアパスが鼻先にぶらさげられていて。

 嫌なのは、ここまでひどくなくても、似た状況は、自分のまわりにいくらでもある、と感じられることだ。問題はトヨタだけではない。著者は文庫本化に際して加わった最終章(韓国「エコノミスト」誌のインタビュー)で、日本の経済システムが欧米諸国に及ばない点として、「ジャーナリズムによるチェック機能が働かない」「労組が機能していない」「行政当局の監視が機能していない」「消費者団体が機能していない」の4つを挙げている。全くごもっともだ。日本社会は、眼先のコスト減にとらわれて、システムの健全さや弾力性・将来性の担保に必要な機能を軽視しすぎてきたのではないかと思う。
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