見もの・読みもの日記

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古典と現代/京劇三国志・赤壁の戦い「激闘編」(湖北省京劇院)

2010-05-30 23:31:03 | 行ったもの2(講演・公演)
○東京芸術劇場 湖北省京劇院『京劇三国志・赤壁の戦い(激闘編)』(2010年5月22日)

 この公演があることは、ずいぶん前から知っていたのに、気がついたら当日になっていた。本当は翌日の「策略篇」「激闘篇」通し公演が見たかったのだが、日曜の分は売り切れ。当日の夜の部(激闘篇)はあるというので、2階の最前列で観た。

 物語は、2008~2009年に話題になった映画『レッドクリフ』とほぼ重なる。赤壁で対峙する魏の曹操と呉の孫権、蜀の劉備。「策略篇」は、諸葛孔明が十万本の矢を手に入れる下りを描き、「激闘篇」は、東風に乗じて呉・蜀軍が火攻めに転じ、敗走する曹操を描く。人物の扮装や性格付けは、古典的な演目に基づいているけれど、作品としては新作なのかな。…と書いて、プログラムをめくっていたら、伝統劇本の「群英会」「借東風」「焼戦船」「華容道」の4作品をもとに2時間×2編の作品にまとめた、という解説が書かれていた。

 京劇というのは(詳しいわけではないので間違ったらごめんなさい)、古典として定まった演目を繰り返し上演するタイプの伝統芸能ではなくて、今でも新作がたくさん作られている。そもそも「古典」と言われるものも、意外と新しい、近代の創作だったりするようだ。

 前半は、ストーリーが説明的で、ちょっとだれた。俄然、目が覚めたのは、火攻めが始まるところからで、吹き流しのような長い布で波立つ水面を表し、巨大な赤い旗を振りまわして、縦横無尽に跳ね回る踊り手が、激しい猛火を表現する。まるで、噂に聞く革命バレエみたいじゃないか、と思った。京劇と現代舞踊との敷居は、意外と低いのである。

 このところ、京劇を2、3作品見てみたおかげで、わずかな仕草で、馬に乗ったり(鞭を用いる)、船を漕いだりする様子を表現しているのが分かるようになった。ああいう演技は、日本の能・狂言に似ていると思う。

 本篇の見どころ(聴きどころ)は、伝統劇本「華容道」に従い、敗走する曹操を迎え撃つ蜀の武将たち。まず、烏林に埋伏していたのが趙雲。趙雲は隈取をしない「生」の役どころ、白に銀糸の刺繍、青の縁取の衣裳が涼やかで凛々しい。続いて葫蘆谷に潜んでいたのは張飛。白地に黒の隈取、衣裳は黒に金糸、赤の縁取で勇猛さを表現。最後に華容道で待ち伏せるのが関羽。顔全体を赤く塗り、黒のラインで眉や両目を際立たせるが、仮面のような隈取は施さないので、「武生」に分類される(頬の黒子がコントみたいと思ったら、神として祀られる関羽に対して遠慮を表す伝統なのだそうだ→Wiki)。緑に金糸で威厳のある衣裳。むかしの恩義を引きあいに出して、見逃してくれるよう迫る曹操に対し、葛藤する心中を唱いあげる、難しい役だ。演じる程和平氏は、さすがにいい声で聞かせる。同氏は、本公演の演出もつとめている。

 京劇の曹操は面白いなあ。白塗り。所作がちょっと女っぽくて、中風のように手をひらひらさせながら、大げさに喜怒哀楽を表現する。概して滑稽だが、ときどき武人らしさも垣間見せる。私の世代だと「マジンガーZ」のあしゅら男爵を思い出したりする。古すぎるか。
コメント
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