見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

戦時プロパガンダポスター・コレクション(東京大学)

2006-04-05 00:44:32 | 見たもの(Webサイト・TV)
○東京大学大学院情報学環アーカイブ『第一次世界大戦期プロパガンダポスター・コレクション』

http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/

 国立大学は、相変わらず、年度単位で動いている。そのため、4月は、前年度の研究費で動いていた、さまざまな事業の成果が公開される季節である。試しに各大学のサイトを巡回してみるとよい。中には、意外と楽しいアーカイブも待っている。

 東京大学大学院情報学環(じょうほうがっかん)――と言ってもなじみがないと思うが、以前は、社会情報研究所(社情研)、その前は、新聞研究所(新聞研)と呼ばれた研究所だった。メディア的には、あの姜尚中氏が所属する研究科、というのが、いちばん分かりがいいだろうか。そこが所蔵する、第一次大戦期のプロパガンダポスター計661点が、このほど、デジタル・アーカイブとして公開された。

 しばらくはFlashムービーで流れる作品を眺めてみるのもいい。あるいは「すべてを見る」をクリックしてみよう(ちょっと重いけど)。すると、色鮮やかなポスターのサムネイルが目に飛び込んでくる。気に入ったものをクリックすると拡大画像が表示され、ポスター内のキャッチフレーズに、日本語訳が添えられている。「WOMEN AWAKE! YOUR COUNTRY NEEDS YOU(女性のみなさん、目を覚ましましょう!あなたの国があなたを必要としているのです)」といった具合。

 プロパガンダというのは、要するに政治宣伝である。「軍隊は君を求めている!」という端的なリクルートタイプ、「国債を買おう」「貯蓄しよう」と市民に呼びかけるもの、「勝利は我等に」「自由は死なず」等、感覚的な戦意昂揚タイプなど。第二次世界大戦では、圧倒的な物量で日本を打ち負かしたアメリカだが、この時期は、まだそれほど豊かではなかったのだろうか。パンの絵に「SAVE A LOAF A WEEK(一週間に一斤節約しよう)」なんていう、涙ぐましいのもある。制作国はアメリカが大半だが、カナダ、イギリス、フランス、インドのものもある。

 デザインはどれも念入りで、美しい。ノーマン・ロックウェル風だったり、アルフォンス・ミュシャ風だったり、アヴァンギャルドの匂いがしたり、とにかく目が釘付けになるようなグラフィック作品が多い。

 吉見俊哉氏の「ご挨拶」によれば、この戦時ポスター・プロジェクトは、1990年代に始まった。第一次大戦の頃のポスター印刷は、技術の転換期にあったため、版式解読に高度な専門能力を要することが、次第に分かってきたが、「本データベースを第一線の研究に役立つものにしていくには、各ポスターの印刷形式や色数の詳細なデータが不可欠」であるという信念を貫き、10年近い年月をかけてデータを整理し、ようやく公開に至ったという。絵画でも文献でも、デジタル化してポンと公開してしまえばいいという、最近の風潮に異を唱えるもので、大学の研究成果公開というのは、本来、こうあるべきものだと思う。

 こっそり書いておくと、私は1990年代末に、このコレクションの本物を見たことがある。そのときは、ポスターの美麗さと大きさ(どれも非常に大きくて、縦は1メートルを超えるものがザラにある)に、無邪気に息を呑むばかりだった。

 あれから7、8年が経つうちに、「アメリカ」の位置づけや、「戦時」「愛国」への距離感は、ずいぶん変わってしまった。いま、このコレクションを眺めると、星条旗の過剰が目につくというよりは、鼻につく。以前は記憶にも残らなかった1枚に目が留まった。「THAT LIBERTY SHALL NOT PERISH FROM THE EARTH(地球上から自由が消滅しないように)」と題して、自由の女神像が猛火で焼け落ちていく図を描いたもので、2002年のニューヨークの悪夢を思い起こさずにはいられない。今や「戦時プロパガンダ」は過去のものではない――さまざまな意味で、今日、このアーカイブ公開の意義は大きいと言えよう。

■概要だけ閲覧したい方はこちらへ(FileMakerソリューションズのページ)
http://www.filemaker.co.jp/solutions/posters.html
コメント
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