見もの・読みもの日記

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大名の学問と著作/国立公文書館

2006-04-14 00:04:51 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立公文書館 特別展『大名-著書と文化-』

http://www.archives.go.jp/event/haru_aki/06haru.html

 江戸時代の大名の言行録や編著書により、殿様たちの多彩な知識と旺盛な好奇心が学問芸術の振興を促した跡をたどる企画だという。昨年の特別展『将軍のアーカイブズ』に、テーマが似過ぎているきらいもあるが、まあ良しとしよう。

 江戸ものは、もともと得意でないのだが、最近、時代劇や時代小説の影響で、少し親しみが出てきた。最初のセクションは、大名の行状録や逸話集を紹介したものだが、保科正之の名前を見て、おお、NHKの『柳生十兵衛七番勝負』(第1シリーズの最終回)で、陰謀派に担がれかけた人だ!と思った。松平伊豆守信綱(西郷輝彦)は、新シリーズ『島原の乱』にも出ている。ふぅ~ん、”智恵伊豆”と呼ばれた人物なのね。「天下の置(処置)ハ、重箱ヲスリコギニテ洗フヤウナルガヨシ」って、なかなかの名言。

 展示資料は、将軍の紅葉山文庫に献上されていたような公文書だから、名君の名君たるゆえんを記した謹厳なものが多いが、参考展示の『土芥寇讐記』(編者不明、東京大学史料編纂所蔵)は、いわば大名評判記で、大名の長所・欠点を包み隠さず挙げている。放恣な漁色を非難されている例が多い。

 昭和になって出た本だが、『浅野長勲(あさのながこと)自叙伝』(平野書房, 1937)は面白そうだと思った。著者は安芸広島藩の最後の藩主で、大名の生活が、いかに不自由なものだったかを語っている。風呂が熱くても、手近の者に「水でうめてくれ」と言えないとか、食事を残すと大騒ぎになるので、いつも平均して食べるように心がけた、って、可哀相だなあ~。

 後半は、大名の著作が主。江戸も中期以降になると、よほどヒマなのか、玄人はだしの趣味と学術に生きた殿様が多くなる。一般に殿様の学問は、科学史で注目されることが多いが、彼らが打ち込んだ対象は、もっと多様である。島津重豪は、オランダ語と中国語に堪能で、『南山俗語考』という中国語の口語辞書を編纂した。朽木昌綱の『泰西(輿地)図説』には、驚くほど詳細なパリやロンドンの市街地図が載っている。松平不昧の『古今名物類聚』は、茶道具の名品を彩色絵入りで解説したもの。

 水野忠央の『千とせのためし』にも、ちょっと感激した。古筆・古画・古器物の色刷り図譜なのだが、「古筆を木版で表現する」という大胆さがすごい。現代の写真図版だって、なかなか現物には及ばないものを。しかし、墨の濃淡や筆のかすれ具合の再現は、かなり、いい線いっていると思った。

 でも、日本では、社会が安定すると、統治階級は政治に興味がなくなって、学術や芸術に走るのは、どうしてなのかなあ。
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