見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

しなやかなメディア/和本入門(橋口侯之介)

2006-01-26 08:28:08 | 読んだもの(書籍)
○橋口侯之介『和本入門:千年生きる書物の世界』 平凡社 2005.10

 仕事の関係で、最近、和本に触れる機会が多くなった。面白くてありがたいが、分からないことが多い。初心者にも読めて実用的な案内書はないものか、と思っていたとき、新刊書の棚で本書を見つけた。著者は神田神保町の古書専門店、誠心堂書店の店主で、先代のもとで三十年あまり、商品としての和本の扱いを学んできた。この「店主と商品」という距離感がいい。近すぎず、遠すぎず、初心者が読む「和本入門」として最適である。

 もちろん、和本に対する深い愛情、貴重な文化遺産を次の世代に伝えるという責任感はあるけれど、そのことにガチガチになりすぎない。本を正しく保管するために、最も大切なことは、本に愛着を持つことである。愛があれば、ダンボールに詰めたままということはあり得ない。そして、もし愛着がなくなったら、次の所有者にバトンタッチすべきである。「古書店に売却すれば、必ず次の希望者がいるものである」(そのために古書市場がある)とサラリと言ってのける。この淡白さが好きだ。書誌学の専門家や、愛書家による入門書だと(あと、多くの図書館員も)、「愛着がなくなったら、売り払えばいい」なんて、死んでも言わないだろう。そういう、本に対する過度の思い入れが、時によると、初学者にはうっとおしい。

 知らないことはたくさんあった。1冊の本の板木は、板元を転売されながら百年、二百年単位で増刷されるものであり、「和本にとっては百年はなんでもない歳月である」なんてことに、素朴に驚いてしまう。中国では清朝が「四庫全書」を作ったが、江戸幕府は二百点程度の官版しか作らなかった(ほとんどが漢籍の翻刻)。しかし、その分、日本では民間の書肆ががんばったが、中国では民衆本のジャンルはあまり育たなかった、とか。江戸時代には自費出版が良く行われた。宣長の『古事記伝』も初めは自費出版だったし、塙保己一の『群書類従』も壮大な自費出版だった、とか。

 書物のことを端的に「本」というのは、確実なのは江戸時代からだそうだ。日葡辞書にある「Monono fon(物之本)」って、響きがかわいくて、楽器の名前みたいだ。次のブログのタイトルにしてみたい。

 和本の保存方法(防虫対策)について述べた段に、本をラップでくるみ、電子レンジでチンする(ただし最大50秒を超えないこと)という方法が紹介されている。中野三敏氏が実践しているそうだが、ほんとに大丈夫なんだろうか!?(『江戸文化評判記』中公新書)

 それから、「著者表記の決まり」の解説に関連して、大田南畝の『寝惚先生文集初編』の巻頭が図版で掲載されていて、笑った。これ、全文読んでみたい!
コメント
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