見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

堂々赤天狗/たばこと塩の博物館

2006-01-30 23:57:23 | 行ったもの(美術館・見仏)
○たばこと塩の博物館 特別展『広告の親玉 赤天狗参上! ~明治のたばこ王 岩谷松平~』

http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html

 とりあえず、上記のUIRLをクリックして、気合の入った公式サイトを見ていただきたい。赤い軍服に身を包み、奇想天外な広告商法を繰り広げた、明治のたばこ王、岩谷松平(いわやまつへい)(1849-1920)の特別展である。「たばこと塩の博物館」としては、実に、満を持しての企画と言っていいだろう。当時のポスター、看板、パッケージはもちろん、煙草そのものまで、ちゃんと残っているのには驚嘆した。

 私が岩谷松平の名前を知ったのは、1980~90年代の荒俣宏氏の著作による。この頃の蔵書は、いま、手元にないので確かめられないが、検索してみた結果では『黄金伝説』(集英社, 1990.4)がそれらしい。「好敵手物語・ニッポン宣伝事始-たばこ王・岩谷松平、村井吉兵衛篇」と題した一編がある。

 岩谷が国内のタバコ産業振興を主張し、「国益の親玉」を名乗ったのに対し、村井はアメリカ産のタバコ葉を取り入れ、ネーミングも「ヒーロー」「サンライス」など洋風にした。ポスターやパッケージを見ても、正直なところ、村井のほうが、格段にセンスがいい。

 一方の岩谷商会の煙草は、「金天狗」「銀天狗」「愛国天狗」「陸軍天狗」「日英同盟天狗」(!?)と天狗で統一。銀座三丁目(現在の松屋あたり)に構えた本店の写真が残っているのだが、なんというか...恥も外聞もない外観である。モノクロ写真しか残っていないが、実際は店全体が赤塗りだったというのだから(しかも大きな天狗の面がシンボル)、さらにすごい。これに比べたら、いまどきのドン・キホーテやビック・カメラなんて上品なものだ。

 この展示会には、明治30年代の銀座の古写真が何枚か出ているが、祭礼でも式典でもない、何気ない日常風景が映っていて興味深い。無防備な姿勢で街路を行き交う普通の人々、自転車を止めて宣伝活動を行う岩谷の姿を、ビルの2階の窓に腰をかけて眺めている人の姿などを認めることができる。

 さて、先ごろ読んだ紀田順一郎の『カネが邪魔でしょうがない』によれば、本店の2階は岩谷の私邸になっており、妻のほか、20人の愛人が生活していたという。彼女たちは昼は店先で女子店員として働き、夜は愛人として岩谷の相手をつとめた。この展示会、岩谷の私生活には、あまり触れていなかったけど、少し遠慮したのかなあ。

 しかし、紀田順一郎氏も書いているとおり、岩谷松平というのは、あまり憎めない男である。村井吉兵衛は、瀟洒な別荘、長楽館を今日に残した。一方、岩谷の残した文化遺産や産業遺産はこれといってない(らしい)。儲けた金をきれいに使って、駆け抜けるようにこの世を去っていった。いや、53人の実子を除いては。煙草の専売が開始されて以後、岩谷は養豚業に乗り出して「豚天狗」を名乗り、「岩谷らしく、それなりに楽しい」晩年を過ごした、と伝えている。
コメント
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