あれは2か月ほど前のことだったろうか。
「新たにラックスのプリアンプを手に入れたのですが、ぜひAXIOM80でテストしたいので持参してよろしいでしょうか」と近くにお住いのオーディオ仲間「Y」さんから打診があった。
SPユニットの「AXIOM80」は「アンプの良し悪しを洗いざらいさらけ出しますね」と、Yさんが日頃から仰っているほどの溺愛ぶりだからいかにもあり得る話。
もちろん拒否する理由は何もないので「ハイいいですよ、どうぞ~」。
実物を拝見すると、市中にかなり出回っている「CL35」(ラックス)だった。
さっそく我が家の「マランツ7もどき」(知人の手づくり)と比較試聴すると「解像力が悪いし、ベールが2枚も3枚も被ったようなお粗末な音ですね」で、両者の認識が一致した。
ラックスに何の恨みもないが「CL35やSQ38FDなどは使っている部品がとてもお粗末」という話は、手練れの真空管アンプ製作者、それも「お二人」さんから直に耳にしている。
ガッカリして自宅に戻られた「Y」さんはケースだけ保存し、中身の方は腹立ちまぎれにそっくり廃品回収に出されたとのことだった。
「随分もったいないことをされるな~」と、思ったが、爾来(Yさんが)雪辱を期して秘かに「牙」を研がれているとはその時は知る由もなかった(笑)。
そして、その後に何と外国製のプリアンプを購入され、それに手を加えて自ら研究した回路へと全面改造を行い、ケースだけラックスを使用するという「ウルトラC」の離れ技を講じて再度我が家に持参されたのは数日前のことだった。
各種のスイッチのうち生きているのは一番右側の上下2個だけで、上が「ボリューム」、下が「電源スイッチ」で他のつまみはすべてお飾り~。
回路の方は凝りに凝っていて、できるだけコンデンサーを使わないことをモットーに、真空管による整流方式で左右両チャンネルで1本づつ、そして出力段は「12AU7」(4本)という構成だ。
「今度こそマランツ7もどきと一騎打ちです!」と意気込まれるYさん(笑)。
二人して興味津々の「聴き比べ」だったが、その結果は「いい勝負」だと思った。
マランツ7もどきはやや線が細くて鋭利な刃物を思わせるような切れ味があり、一方の新型プリアンプは穏やかな表情を漂わせながらもしなやかな表現力のもとホール感の再現性に秀でている。どちらが原音に近いかといえば後者かなと思ったほど。
「いやあ、素晴らしいプリアンプですね!」と心から賛辞を送った。
「しばらく置いていきますのでエージングをお願いします」
「はい、願ってもないことです。ことによっては永久保管しても構いませんよ」
「それは困ります!」(笑)。
そして日を置かずして大分市から仲間2名が駆けつけてくれた。およそ1年ぶりくらいのご訪問でどうやら評判を聞きつけられたらしい。
「Yさんが作られたという新しいプリアンプをぜひ聴かせてください」
「いいですよ。ああ、それなら持ち主のYさんにも来ていただきましょうかね」
というわけで話がトントン拍子に進んで29日(金)の午後から4人による試聴会を開催した。
聴いていただいたのはメインシステムの「ウェストミンスター(改)」。
我が家には4系統のSPシステムがあるが、メインとサブの差を分かつものは「低音域」である。
きれいな中高音域は比較的簡単に出せるが、雄大で深々とした低音域となると、なかなか難しい(と、思う)。
確実に「血(お金)と汗(経験と手間)と悔し涙」の量に比例するのが低音域の世界なのだ(と、思う)(笑)。
したがって、今回のテスト盤は低音域に焦点を絞ったものを意識して選んだ。
ゲイリー・カーの「コントラバス」、カンターテ・ドミノの「オルガン」、フラメンコの「ドスン、ガスンと床を踏み締める音」など。
仲間たちの評価については読者のご想像にお任せしたほうがいいだろう。
人は他人のうまくいった話を敬遠し、失敗談の方を好むものだとおよそ相場が決まっていますからねえ(笑)。
肝心の「マランツ7もどき」と「新型プリアンプ」の一騎打ちについては、「3対1」で後者に軍配が上がった。
「マランツ7もどき」は、ソプラノで声がややきつくなるというのがマイナスポイントだった。
ただし、自分は「マランツ7もどき」の方が好み。というのも、お客様たちが辞去された後に、「AXIOM150マークⅡ+JBL175」で聴いたときの「シンバル」の響きが好きだから。
それに、どうせいずれ新型アンプはYさんに引きとられていくのだから別れるときに淋しい思いをしたくないのも敬遠する理由の一つだ。
例えていえば、他人の奥さんに懸想するようなものですからねえ(笑)。