「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「署名入り」の記事は当てにならない?

2023年07月28日 | 独り言

前々会のブログ「薔薇の名前」で、最後に「ウンベルト・エーコ」氏の言葉を載せた。

「インターネットに対する批評感覚を鍛え、何でもかんでも鵜呑みにしないことを覚える鍛錬が必要だ。つまり、真偽をたしかめられない情報をチェックする方法を学ぶことだ」(204頁)

インターネットの記事が信用できない根拠の一つに「署名入りではない」つまり「責任の所在がはっきりしていない」ことが挙げられる。

ところが・・。

「外山 滋比古」(とやま しげひこ:お茶の水大学名誉教授)氏のエッセイ「新聞大学」に、次のような箇所がある。(84頁)


    

「新聞はそろって日曜に読書のページ、書評のページをこしらえている。読書好きの人への手引きとして新聞はユニークである。3ページから4ページがそれに当てられるが、取り上げられるのは専門書が多い。

そうでなくても堅い本ばかりが取り上げられているから読者には今一つ物足りないのである。面白い、というような書評にはあまりお目にかからない。書評に署名があるからである。かっては、無署名が普通であったが今は肩書付きの名前が出る。

署名が有る無しなど、呑気な人は問題にしないようだが大違いである。

匿名の方がいい書評ができる。身分を明かした原稿にはいろいろのシガラミがまつわりやすい。著者への気兼ねもある。出版社への配慮もある。縁のある出版社の本を悪く書けば面白くないことになる。


というのが、普通の人の思惑だろう。著者との関係もデリケート。本当のことを書けば社交上おもしろくないことになるという心配をしないほどの人物は書評などしない。」

つまり「署名がある書評はいろんなシガラミがあるので本当のことを書いていない。したがってあまり当てにはできない。」というわけだ。

署名のないネット情報と比べて、それが公器となる新聞の「書評」ともなると、すっかり攻守ところを変えるらしい(笑)。

実はなんでこんなことを話題に持ち出したかというと、やっぱりオーディオがらみの話になってしまう・・。

これを読んで真っ先に脳裡に浮かんだのがオーディオ評論家の存在だ。オーディオ機器に対する評価のケースとまったく似ている!

以下、我が経験に照らして遠慮なく言わせてもらおう。署名無しだからほんとうのことが言える(笑)。

今でもオーディオ愛好家の間で語り継がれているように1970年代はオーディオの全盛期だった。我がオーディオ人生の黎明期と丁度重なっていた時代である。

国内では「トリオ、サンスイ、パイオニア」がオーディオ御三家として君臨していた夢のような時代だった。今となってはこの御三家は影も形もない。

いずれにしろ当時は夢中になって
、それこそ鵜の目鷹の目でいろんなオーディオ雑誌を読み漁ったものだったが前述のようにたいへんな活況を呈していたオーディオ業界において評論家といえばメーカーや販売店にとってまさに神様のような存在だったといえる。

なにしろ、その発言次第でオーディオ機器の売れ行きが左右されるのだからどうしようもない。

一読者としても、当時のお気に入りだったタンノイに関する記事などは活字に穴が開くほど何回も読み耽ったものである(笑)。

で、オーディオ評論家の発言に一喜一憂しながら、まともに受け止めていたので、つい甘言に釣られてしまい、いろんなオーディオ機器を買い漁ってはガッカリして二束三文で下取りしてもらい、また新たな機器を購入するという「アリ地獄」に陥ってしまった。

素直に記事を信用してしまった自分が愚かだったのだろう。評論家だっていろんなシガラミの中で記事を書いていたであろうことは今となっては容易に想像できるのに・・。

さすがにオーディオ専門誌側も反省したのだろうか、「ブラインドテスト」(機器のメーカー名を伏しての試聴テスト)なるものを実施したケースもときどき見受けたが、名もしれぬ三流メーカーが評価が良かったりして”ちぐはぐ”さが目立ちこの種のテストは自然に立ち消えとなった。

むしろ評論家がブランドの先入観に左右されることが証明され、かえっておかしな結果になったことは想像に難くない(笑)。

しかし、いたずらに評論家を謗るわけにはいかず、私たちだってある程度ブランド名に気分的に左右されていることは、きっと身に覚えがあるはずだ。

いずれにしても、こういう失敗を前向きに考えて現在に至るまでの授業料だと割り切ればいいのだろうが、あまりにも高くつきすぎた感があって、今となっては悔しさだけが強烈に残っている(笑)。

大いに懲りたのでここ20年ほどはオーディオ雑誌はあまり読まないし、たまに読む機会があったとしても半信半疑のまま活字を追っている。

当時の評論家諸氏は大半が鬼籍に入られているか、あるいは引退されており、現代のオーディオ評論家の実状がどうかは知らないが、いろんなシガラミのもとでホンネが吐けない状況が昔と現在とそれほど変わりがないであろうことはおよそ推察できる。

したがって、読者に対してオーディオ雑誌の内容をむやみに信用しない方がいいですよと、老婆心ながら申し上げておこう~。

むしろ、しがらみのない無記名のネット情報の方が信用できますよ・・、おっと、これは手前味噌かな(笑)。



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