随分昔の時代では、本格的な音楽鑑賞といえば周知のとおり王侯・貴族が豪勢な邸宅に楽団を招聘して演奏させ、それを聴くといった方法に限られていた。
それが近代では、録音・再生機器などテクノロジーの進歩で自宅で手軽に音楽を聴けるようになり、それも気に入った曲を何時でもどこでも繰り返して聴ける非常に便利な世の中になった。
若い頃は、それほどレコード盤を購入できる余裕もなかったことからNHKのFM放送をメインソースにして「FMファン」という雑誌で好きな曲の放送時間をチェックし、せっせとカセットテープに録音したものだった。
それだけでも十分恩恵を受けたわけだが、それがいまや、デジタルの時代になりCDの出現で雑音の無い優れた音質でもって生の演奏会にかならずしも行かなくても済むようなレベルで楽しめる状況になっている。
CDの利点はいろいろあるが、取り扱いが簡単、好きな曲の頭だしが便利、所蔵場所が少なくて済むなどだが、何よりも複製が簡単にできる点も大きな利点となっている。
もちろん、複製については著作権法により「個人的な範囲を超える使用目的で複製する」ことは厳として禁じられており、これを逸脱しない範囲という条件付での利用に限られるのはご承知のとおりで、ちょっとした旅行やドライブなどのときに、複製盤は便利がよい。
パソコンなどのコピー機能を使えばごく短時間にそれも簡単に複製できるわけだが、さて、その複製された盤とオリジナルのCD盤とは音質にどのような違いがあるのだろうかというのが今回のテーマである。
理論的には、デジタルからデジタルへの録音は音の劣化がないとされるが、音質はいまだに完全には科学的に解明されていない領域が大いにあり、一人ひとりの耳や感性に負うところが大きい。以下は自分の経験を踏まえた個人的な感想なので念のため。
(1)あまり音質をうるさくいう人でなければ、まずその差は分らない。それほど複製盤はよくできている。一昔前のカセット録音とは雲泥の違い。
(2)次に、音質にうるさい人の場合
CDのオリジナル盤といってもかってのレコードの時代の古いマスターテープの録音から焼き直したCD盤と新しいデジタル録音したCD盤とでは違うので、一律には論じられない。
①古いアナログ録音をソースとしたCD盤を複製した場合はほとんど遜色がないし、むしろ、複製盤の方が聴きやすくなる場合がある。
②問題はデジタル録音をソースとした比較的新しいCD盤を複製した場合で、やや微妙な世界になるが低域、中域はそれほど変化がない。難点は高域で、伸びや繊細さにやや欠けるところがあり、やはりオリジナル盤の方が優っている。
ただし、人間は年齢を重ねるにつれて耳の機能が衰え低域に比べて高域の方の音が聞こえづらくなるので、中高年になるほどその差が段々分らないようになっていく。
結局のところ、総合的にみると複製盤でも十分音楽鑑賞ができるレベルにあるということになる。
また、作品の持つ芸術性は音質などを超えるものがあるから、音楽鑑賞においてオリジナル盤、複製盤にこだわる必要はあまりないというのが最終結論。