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アマゾンの不思議な家族関係 虐待も不倫もないわけは?

2024-08-08 | 先住民族関連

時事通信8/7(水) 14:00配信

 アマゾンの熱帯森林保護支援活動に30年以上関わり、2000日以上を先住民と共に過ごした熱帯森林保護団体(RFJ)代表の南研子さん。昨年は新型コロナ禍後に初めてアマゾンから帰国し、子ども向けの著書「アマゾンの不思議な森へようこそ」を出版しました。アマゾンの不思議な家族関係について南さんに話を伺います。

 (聞き手・文 海原純子)

カヤポ族カポト村人と

 海原 著書を読ませていただきました。私たちの多くは全く想像もつかないような緊張感のある、でもわくわくするようなアマゾンの暮らしがつづられています。見たこともない動物、毒蛇や毒グモ、巨大なピラニア、サソリ、呪術師、森の精霊の話など、お金も文字もない世界が生き生きと語られていて、子どもだけでなく大人も一気に読んでしまう本だと思いました。今年の夏休みの推薦図書になったんですよね。

 南 日本では小中高生の自殺が513人(2013年)に上っています。アマゾンでは、自殺などないし、うつも認知症も寝たきりもない。子どもの自殺なんて考えられません。

 海原 子どもの自殺は4、7、10月が多いのです。背景にあるのは学業の不安、虐待やいじめなどとされています。夏休みの後に不登校になるなど問題が多いです。アマゾンでは子どものいじめや親からの虐待はないということですが。

 ◇いまだに分からない家族関係

カヤポ族の少女マイラと

 南 私は30年以上アマゾンと関わっていますが、いまだにここの家族関係は分からないんですよ(笑)。というのは、ここの家の子どもだと思っていたら1カ月後になると、別の家でご飯を食べて一緒に暮らしている。「え~、どうなってるんだろう」と。要はどこの家にいてもいいんです。「どこの子」という囲い込みはなく、「みんなの子ども」という意識です。子どもが生まれると3カ月は母親が抱きかかえて育児します。でも、それを過ぎると、村人全員が自分の子どものように赤ちゃんに接し、あやしたりします。だから小さい頃から村人全員と関わりがあるんです。

 海原 それはすごいですね。

 南 親にしても自分の子だからすべて気が合うわけじゃないですよね。中には相性が悪い親と子もあるわけです。親が虐待したくなる場合もあるかもしれない。だから、子どもが「この家は居心地が悪い」と思ったら、別の家で暮らしても問題はないんです。みんなの子どもだから。

 海原 それは選択肢があり、居場所ができて子どもにも親にもいいですね。「子どもは社会の子」という意識は日本では建前では語られますが、自分のことになるとだめなことが多い。最近は同級生の家を放課後に訪ねたり、友達の家でおやつをごちそうになったりするのも禁止という風潮があります。ところで、夫婦間のけんかは起きないんですか。

◇不倫は起きない

カヤポ族長老ラオーニと(2023年)

 南 それは長年、一緒にいると互いに飽きちゃうこともある(笑)。でもそんなとき、みんなで話し合う場があるんですよ。「男の家」という会議場のような場があります。そこでうちの夫婦は互いに飽きちゃったという話をすると、ほかの家でも同じようなことがあり、じゃあ、ちょっと夫婦を交換しましょうか、というようなことも起こるのです。

 とにかく、基本はうそがない、隠し事がない、ということなんです。これは他のことでも同じで、物事を決めるときすぐに多数決ということはせず、徹底的に話し合う。時には大げんかになることもあります。でも、とことん話し合うので反対意見の人も自分の意見を抑え込まず「全部伝えた」という満足感があるし、賛成意見の人も反対する人がなぜ反対なのかの理由を理解できます。ですから後腐れがない。

 海原 忖度(そんたく)やうそがないというのは素晴らしいですね。日本社会のストレス要因は、嫌でも我慢して自分の気持ちを表現できないことが根底にあります。しかし、互いに飽きたことの解決策は斬新というか、不倫防止策というか、びっくりです。

 ところで、いじめや差別がないというのは理由があるのでしょうか。日本だと、みんなと同じではないということ、孤立したり、いじめられたりすることが問題になっています。

 ◇死のリスクもある過酷な通過儀礼

正装したヤワラピチ族の長老2人と

 南 大きな要因は「通過儀礼」があるからだと思います。アマゾン先住民族の大人になるための通過儀礼は厳しいものがあります。女の子は初潮があると、その後1年間は家の隅に小さな空間をつくり、その中で一人で誰とも話さず、外に出ないで過ごします。家族と話すことも禁止です。食事は家族が囲いの近くに置いておきます。一人で孤独に耐え、ものを考える時間を過ごすのです。1年以上、外に出ないので肌は白くなり髪も伸び放題になります。この期間が終わると「儀式を無事に終えた」として祝福されます。

 海原 それは厳しいですね。男の子も通過儀礼がありますか。

 南 男の子の場合は、13歳くらいで過酷な儀礼があります。強い毒性のある薬草を煎じた飲み物を飲むのです。毒により強い幻覚が出て、場合により死んでしまうこともあるのですが、これを生き延びると大人として認められます。過酷ですが、これを通過したことで表情も変わります。こうした過酷な通過儀礼を生き延びたことで全員に平等感があるのです。誰が上、誰が下、ということではなく全員が同じラインに立っている。

◇それぞれが自分の居場所

 海原 身体的なハンディキャップがある人もいるのでしょうか。

 南 はい。どこの部族にも障がいがある数人がいます。耳が聞こえない、手足が不自由というようなことです。また、人と話をすることができず自分の世界に引きこもるような人もいます。ただ、そういう人はものつくりが上手だったり、子守が素晴らしくうまかったりして周りから頼られています。狩りの才能がある人もいます。ちゃんとそれぞれが自分の居場所を持ち、感謝され尊厳を持って生きています。

 海原 通過儀礼を乗り越えたという事実でみな平等になるのですね。先進国と言われる国の問題をいかに解決していくかのヒントがあるアマゾン先住民の人たちの暮らしですが、アマゾンも熱帯雨林が次第に伐採され畑に変わっていると聞きます。

 南 一番大事なことは他と比べないことです。そこに優劣もつけない。

 あるがままを尊重しているインディオの社会ですが、現在、猛スピードで開発が進み、森が消失の一途をたどっています。酸素供給源のアマゾンの森が残るように支援活動を頑張ります。(了)

南研子さん

 南研子(みなみ・けんこ)特定非営利活動法人 熱帯森林保護団体(Rainforest Foundation Japan: RFJ)代表。70年女子美術大学卒業。大学卒業後、NHKテレビ「ひょっこりひょうたん島」などの美術制作を担当。89年、英国の歌手スティングが行った「アマゾンを守ろう」というワールドツアーにてカヤポ族長老ラオーニと出会い、同年5月に当団体を設立。92年から19年まで34回にわたり、アマゾンのジャングルで先住民と共に暮らし、多岐にわたり支援活動を行っている。延べ滞在日数は2000日を超える。著書に「アマゾン、インディオからの伝言」(ほんの木)、「アマゾン、森の精霊からの声」(同)、「アマゾンの不思議な森へようこそ」(合同出版)がある。

https://news.yahoo.co.jp/articles/492cfa1f7b0428b381b622b27454a138ebe3b581

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