goo blog サービス終了のお知らせ 

先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

興行収入200億円! ボリウッド映画『RRR』は現代版インド神話

2023-02-17 | 先住民族関連
NewsCrunch2023.2.16
超高速“ナートゥダンス”も話題のインド映画『RRR』が大ヒット! 主人公たちのモデル、インドがイギリスの植民地になった経緯、インドで展開された独立運動の歴史を紹介。
インド映画『RRR』をご存知でしょうか。超高速の“ナートゥダンス”も話題となっていますが、インド映画史上最大の制作費となった97億円が投じられ、世界各国で上映されており興行収入は200億円以上。『バーフバリ』シリーズで有名なS・S・ラージャマウリ監督が手掛けた歴史超大作になります。昨年(2022年)10月から、日本でも公開がスタート。現在もロングランを続けています(2月10日現在)。
『RRR』の舞台は、イギリスの植民地だった1920年のインドです。今回の記事では、インドがイギリスの植民地になった経緯、インドで展開された独立運動の歴史を紹介します。インドの歴史を踏まえて作品を見ると、より一段と物語を楽しむことができるでしょう。
村の少女を助けたいビームと出世を望むラーム
この映画は、ビームとラームという2人の青年を中心に展開されていきます。
インド植民地経営の責任者であるバクストンは、森の中でひっそりと暮らすゴーンド族の村を訪れ、芸術的な才能を持つ少女マッリを誘拐。嘆き悲しむ村人たちの思いを胸に秘め、ゴーンド族の守護者ビームはマッリを取り戻すため、インドの首都デリーに向かいます。デリーでは「アクタル」という偽名を使いながら、懸命にマッリの行方を捜します。
一方、デリー近郊の警察署に勤務するラーマは、イギリスに対する高い忠誠心を持ち、任務を着実に遂行していました。ある日、マッリを連れ戻すためゴーンド族の守護者(ビーム)がデリーに潜伏している、という情報を植民地事務所が入手します。ビームに関する詳細な情報は何もありませんが「ビームを逮捕すれば、特別捜査官への昇格を約束する」とバクストン夫人は言い、候補者を募集します。そして出世を望むラームは、ビームの調査に名乗りを上げたのです。
デリーの市街地でラームが調査をしていたとき、大規模な列車事故が発生します。このとき偶然、現場に居合わせたビームは事故で逃げ遅れた少年を救うため、ラームと協力して少年の命を助けます。この出来事をきっかけとして、2人は熱い友情を育んでいくのですが……といったストーリーです。
〇映画『RRR』予告
https://www.youtube.com/watch?v=TFX4y62OMAg&t=1s
ビームとラームは実在していた英雄
ラージャマウリ監督は『RRR』を製作するにあたって、クエンティン・タランティーノ監督から影響を受けたとインタビューで答えています。『イングロリアス・バスターズ(2009年)』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019年)』など、最近のタランティーノ監督は「歴史改編」の要素を多く取り入れています。悲惨な死を遂げた歴史的人物を映画上で蘇らせ、歴史のIF(もしも)を描くアプローチです。
『RRR』においてもインド史が大幅に改変されており、主人公であるラームとビームは実在した人物がモデルになっています。
ラームは「アッルーリ・シータラーム・ラージュ(1898〜1924年)」がモデルです。ラージュは先住民を率いてゲリラ戦を展開し、イギリスの植民地支配に対抗しました。イギリスは多額の費用を投じて、特殊部隊まで導入。反乱から約2年後にようやくラージュを捕まえたのです。ラージュはただちに処刑されてしまい、25年の短い生涯を終えます。
ビームは「コムラム・ビーム(1901〜1940年)」がモデルです。ゴーンド族出身の革命家になります。映画冒頭でも、バクストン夫妻がゴーンド族の村落を訪れて、マッリを誘拐するシーンがありました。当時のイギリスはインドの少数民族に対しても、過酷な統治を敷いていたのです。
ビームはゴーンド族と協力しながら小規模な反乱を繰り返し、反イギリス活動を継続的におこないました。しかし1940年、ビームは現地の武装警官に殺害されてしまいます。
ラージュとビームの活躍した時期がそれぞれ異なるため、2人の歴史的な接点はありませんが、インド解放のために命を捧げた2人が、“もし力を合わせたらイギリスを追放できたのでないか?”という歴史改変が含まれています。
さらに映画のストーリーは、インド(ヒンドゥー教)の神話である『ラーマーヤナ』がベースになっています。『ラーマーヤナ』とは、ヴィシュヌ神の化身であるラーマ王子が、羅刹の王(ラーヴァナ)を倒す物語になります。この作品においては、インドを植民地支配するバクストンをラーヴァナに置き換えることで、インド人の琴線に触れる“現代版”『ラーマーヤナ』へと昇華することに成功しているのです。

▲ラージュとビームの像 写真:Rim sim / Praveen Kumar Myakala / Wikimedia Commons
ヒンドゥー教とイスラム教の対立を利用したイギリス
ここからは、イギリスの植民地になったインドの歴史的経緯を見ていきましょう。
16世紀の大航海時代を通じて、アジアに進出したイギリス。18世紀中頃からインドへの進出を始めます。1858年、イギリスはムガル帝国を滅亡させ、イギリス国王がインド皇帝を兼ねる「インド帝国」が成立します。イギリス本国がインドを直接統治する、いわば植民地となりました。
イギリスによる植民地支配の特徴は、道路や水道などのインフラを整え、警察制度の整備と英語教育に重点を置いた点にあります。インド人を教育し、現地の治安はインド人自身に担当させたのです。映画のなかでも、警察官を務めるラームは流暢な英語を話していました。
また、イギリスはインド統治にあたって、ヒンドゥー教とイスラム教(ムスリム)の対立を利用しました。16世紀頃から、イスラム教の「ムガル帝国」がインドを支配していたため、インド国内にはイスラム教徒とヒンドゥー教徒が混在している状態でした。
イギリスは敢えてイスラム教徒とヒンドゥー教徒を対立・分断させます。インド人が協力し合い、独立運動に発展することを防ぐためです。この宗教間のわだかまりは、現在のインド(ヒンドゥー教)とパキスタン(イスラム教)の対立につながっています。
映画において、ビームが偽名として使った「アクタル」は、ムスリムの名前になります。ヒンドゥー教のラームと、イスラム教のアクタル(ビーム)が友情を育む姿は、宗教の共存を訴えるラージャマウリ監督の隠れたメッセージを感じることができます。
19世紀後半、世界は帝国主義時代に突入します。国家として全盛期(パクス・ブリタニカ)を迎えたイギリスは、インドに対する植民地支配をさらに強化したのです。産業革命が起きたイギリスでは綿製品を製造するため、原料となる大量の綿花がインドから運ばれることになります。
もともと優れた綿製品を作っていたインドの綿産業は壊滅し、インド経済は深刻なダメージを受けました。インド側の激しい反発を予想したイギリスは、インド人の出版を禁じて言論の自由を制限した「土着語出版法」、インド人の武器所持を禁じた「武器取締法」を矢継ぎ早に制定していきます。
1883年、インドの独立を掲げる「全インド国民協議会」が結成されるなど、インド人による反イギリス、独立運動が高まりを見せるようになります。この動きに対抗するためイギリスは「インド国民会議」を開催。インド人を懐柔するための組織でしたが、イギリスの思惑を超えて、インド国民会議は反イギリス運動の中心的な組織へと変貌するのです。
その原因は、約束を裏切り続けたイギリスにあります。1914年、第一次世界大戦が始まると、予想以上の苦戦を強いられたイギリスは戦後の独立を約束する代わりとして、インドからの戦争協力を取りつけます。多数のインド兵がヨーロッパ戦線に送られましたが、第一次世界大戦後、独立の約束は守られませんでした。そして、あのガンディーらを中心とした独立運動が本格的に始まることになります。
ボリウッドはインドのアイデンティティ
ガンディーが指導した「非暴力・不服従運動」は、インド全体を巻き込んだ独立運動に発展を遂げます。さまざまな紆余曲折を経験しながらも、ガンディーによる運動は1934年まで続きました。長い独立運動を受けてイギリスは、インド人の自治を徐々に認めますが、完全な独立を望むインド人とのあいだで対立の火種はくすぶり続けました。
そして、インドの独立が実現するのは、1945年に起きた第二次世界大戦がきっかけです。戦争には勝利したものの、イギリスに過去の栄光は残されていませんでした。世界の中心はイギリスからアメリカに移行。イギリスには植民地を管理する余力はすでになかったのです。1947年8月、長い独立運動を経て、ようやくインドは独立を果たすことになります。
ヨーロッパの植民地になった国々は、歴史が断絶してしまう傾向があります。スペインの植民地だったフィリピンはその典型で、現地の人々は「ガルシア」「フェルディナント」などスペイン系の名前が使用されており、スペインが支配する前の歴史は途切れているのです。
イギリスに長く植民地にされながらも、インドは独自の文化を守り、インド人としてのアイデンティティを維持してきました。『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』の叙事詩、『シャクンタラー』の戯曲など、古代から優れた作品が多く生み出され、インドの文化が形成されてきました。インドの歴史をたどっていくと、インド映画にはインドの文化とアイデンティティを守る力強い役割があるのではないかと感じます。
ファンタジー色が強い『RRR』ですが、植民地時代にインド人が感じた痛いほどの苦悩が見事に表現されています。エンターテイメントとしても素晴らしく、迫力満点のシーンが次々と展開されるため3時間があっという間に感じるボリウッド作品となっています。
https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/3979
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イエレン米財務長官の署名が... | トップ | 日本も莫大な資金を投入、グ... »
最新の画像もっと見る

先住民族関連」カテゴリの最新記事