北海道新聞2025年1月18日 21:24
映画「馬橇の花嫁」の逢坂芳郎監督からインタビューを受ける生前の有塚利宣さん=2023年10月23日(加藤哲朗撮影)
「農業の先駆者」「生涯現役の人」―。帯広市川西農協組合長の有塚利宣さんが18日に93歳で亡くなった。「ナガイモ組合長」として知られ、農業の発展に力を尽くした。生前に親交があった十勝管内の関係者は、その死を悼んだ。
■若い考え方でリード スマート農業も推進
「年齢を感じさせない若い考え方で農業界をリードしてくれた」。元JA北海道中央会会長の飛田稔章さん(77)は自身が幕別町農協の組合長に就任した1998年から本格的に付き合うように。「前向きに物事をとらえ、十勝農業をどうけん引するか常に考えていた。全道、全国的に活躍してくれた」としのんだ。
「有塚さんがいなかったら、十勝農業の姿は今と違っていた」と話すのは、帯広市川西長いも生産組合の小泉裕亮組合長(49)。スマート農業の推進や十勝産ナガイモの宇宙食への採用などを挙げ、「現状に甘んじることなく、常に革新的な取り組みを続け、十勝農業をつくり上げる姿勢だった」と振り返った。
自ら描く農政を実現するため、政治との距離も縮めた。・・・・・・・
・・・・・・・
活躍の場は農業だけにとどまらなかった。生前、「自然と共生し、共に助け合うアイヌ民族の精神文化は、今の豊かな十勝農業の礎になった」というのが持論。アイヌ文化を伝承する「帯広カムイトウウポポ保存会」の設立に携わった。長年の功績が評価され、24年に北海道アイヌ協会から感謝状も贈られた。
郷土の歴史・文化を後世に引き継ぐことにも熱心だった。昭和30年代の十勝の農村の結婚式を題材にした短編映画「馬橇(ばそり)の花嫁」で、当時の風習を証言して制作に協力。同作品の監督で映像作家の逢坂芳郎さん(44)は「優しい雰囲気の方で、昔話でも正確に記憶していた。次の作品を作ろうという時には、また話を聞かせてもらうつもりだった。残念だ」と悲しんだ。