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宣教師を殺害したインドの孤立部族、侵入者を拒んできた歴史

2018-12-02 | 先住民族関連
ナショナルジオグラフィック12/1(土) 10:16配信
最後の手記には「矢が聖書を貫通した」、過去にはナショジオ取材班も
 11月中旬、インド領の孤島で米国人宣教師が殺害された。この事件は、外界と接触せず暮らす孤立部族の権利について、新たな緊急の問題を提起している。
 米国ワシントン州在住のジョン・アレン・チャウ氏は「冒険家」を自称する26歳の青年で、孤島の未接触部族をキリスト教に改宗させるために北センチネル島に侵入した。
 北センチネル島は、周囲をサンゴ礁に囲まれた面積70平方キロほどの島。インドの南東、ベンガル湾に連なるアンダマン・ニコバル諸島の1つで、インド領である。ここには地球上で最も孤立していると言っていい狩猟採集民が暮らしており、部外者の立ち入りを完全に拒んでいる。
 人口の流出入がなく、基本的に外界との接触がないセンチネル族の人々が、いつからこの島に住んでいるのか、正確なところは誰も知らないが、いくつかの研究により、数万年前にアフリカから移住してきた可能性が示唆されている。
 センチネル族の人々は弓の名手で、外の人間が島に接近すると、追い返すために激しく攻撃してくることで知られる。森に覆われたこの島の住人は彼らだけで、人口はおそらく100人程度。過去の接触の試みは、槍と矢の雨で迎えられた。
 1974年には、アンダマン諸島のドキュメンタリー番組の制作のためボートからセンチネル族を撮影していたナショナル ジオグラフィックTVのディレクターが、投げつけられた槍で負傷する事故が起きた。遠征に同行したナショナル ジオグラフィックの写真家ラフバー・シン氏はこのとき、白い砂浜で弓と矢を掲げて小躍りする戦士たちを撮影。この写真は、外界からの接触を拒絶するセンチネル族を象徴する写真となっている。
 彼らの猛々しさを示す事件は、2006年にも起きた。舟で眠っている間に北センチネル島の砂浜に漂着してしまった2人の漁師が、センチネル族によって殺害されたのだ。遺体を回収するためにヘリコプターが着陸を試みたが、島民がヘリコプターに矢を放ってきたため、回収は断念された。
 今回殺害されたチャウ氏は、最初に上陸を試みた11月15日の体験を日誌に記していた。
 彼はまず、防水加工された聖書を高く掲げた。すると、島から矢が飛んできて聖書を貫通したという。さらに2人の男性が弓に矢をつがえるのが見えたので、チャウ氏は慌ててカヤックを漕いで退却した。彼は漁師たちに約350ドルを支払って島の近くまで送ってもらい、海上で待機してもらっていた。
サタンの最後の砦
 チャウ氏は日誌に、北センチネル島の人々は「サタンの最後の砦」なのだろうかと記し、「彼らはなぜ、こんなにも身構え、敵意をむき出しにするのだろう?」と、自分が歓迎されなかったことに失望していた。
 おそろしい思いをしたにもかかわらず、チャウ氏はその夜、再び島に行くことを決めた。そして漁師に、今回は自分を待たず、アンダマン諸島を管轄する行政府があるポートブレアにいる友人に手紙を届けるように指示した。
 11月17日、漁師たちは島の様子を確認しに行った。のちに警察による事情聴取を受けた彼らは、遠くの海上から、センチネル族が浜辺で遺体を引きずり、それを埋葬するのを見たと語った。身につけているものと体形から、彼らはそれがチャウ氏の遺体だろうと思ったという。
 インド政府は、この事件に関連して、漁師たちと地元のエンジニア1名と、チャウ氏の今回の旅の計画を手伝った宣教師「アレキサンダー」の計7名を「過失殺人」により告発した。
「彼は自分がおそらく殺されることを知っていました」と、アンダマン諸島の先住民との交流の経験を『The Land of Naked People(裸の人々の土地)』という本にまとめたマドゥスリー・ムカジー氏は語る。「彼はキリスト教の殉教者になることを望み、その望みを叶えたのです。けれども彼は、自分の行動をきっかけにいろいろなことが起こり、結果的にセンチネル族に害を及ぼすことになる可能性は考えていなかったでしょう」
 ムカジー氏は、チャウ氏の遺体回収が国際的な圧力を受けて強行されるのではないかと危惧している。そのような試みは、予期せぬ破滅的な結果をもたらすかもしれない。「センチネル族の歴史上、大きな転換点となるかもしれません」
 チャウ氏の失踪を受け、インド当局は遺体が埋葬された場所を確認するため、2人の漁師とともに、飛行機で1回、舟で2回、島に向かった。舟で2回目に島を訪れた警察は、弓と矢で武装した5、6人の男性が浜辺で見張りをしているのを目撃した。
 アンダマン警察のディペンドラ・パサック長官は、ポートブレアの自宅でナショナル ジオグラフィックの電話インタビューに答えて、「現時点では、センチネル族と対決したり島に上陸したりすることは計画していません。そんなことをしたら、彼らを追い詰めてしまいますから」と語った。
 パサック氏によると、警察官であっても、島の周囲8km以内に立ち入ることは法律により禁止されているという。彼はまた、今回の出来事がセンチネル族のトラウマになった可能性を考え、その影響を理解するために人類学者や心理学者に相談しているという。ただ、遺体の回収について、パサック氏は「今は考えていない」と言ったものの、その可能性を完全に否定することはなかった。
 パサック氏と米国務省は、現在、今後の対応を協議している。ポートブレアからの情報によると、領事館員がチャウ氏の日誌などの持ち物の返還と死亡診断書の発行を検討しているという。通常、インドの死亡診断書は、身元を特定できる遺体なしでは発行されない。「規則の上ではそうなっています」とパサック氏は言う。「けれどもこのような状況では、現実を考慮する必要があります」
プレゼント投下作戦
 インド当局は、1960、70、80年代には、センチネル族を含めたアンダマン諸島の先住部族の「平定」に積極的に取り組んでいた。いわゆる「プレゼント投下」作戦では、舟で島の近くまで行き、先住民への贈り物として、ココナッツ、バナナ、プラスチック製のおもちゃなどを投下した。1991年には、数十人のセンチネル族が非武装で砂浜に出てきて、プレゼントを受け取るために腰まで水に浸かって侵入者を出迎えるまでになった。
 この取り組みは、地球の裏側の南米アマゾンで20世紀を通じて続けられてきたことと、概念的によく似ている。アマゾンでも、ブラジル人の偵察者と米国人宣教師が工業製品や栽培作物の魅力を利用してジャングルで暮らす未接触部族を誘惑した。
 ブラジルのベレンにあるエミリオ・ゴエルジ博物館の人類学者である米国人のグレン・シェパード氏は、「かつては宣教師が中心となって、アマゾン各地で孤立先住民に接触し、平定、定住を進めましたが、しばしばその結果として部族の消滅や文化的浸食を引き起こしました」と言う。
 こうした南米の部族と同様、アンダマン諸島の先住民は、接触からまもなく伝染病の蔓延に苦しみ、その社会は崩壊した。1990年代末に弓と矢を置いたジャラワ族は、その後、はしかの大流行を2回経験した。
 かつての誇り高き戦士たちは怠け者になって酒に溺れ、その子供たちは、部族を見世物にする観光ガイドから施しを受け、踊りを踊っている始末である。そうしてアンダマン諸島のほかの部族は、人口が激減し、文化も崩壊してしまった。
 ブラジルやその他のアマゾン川流域諸国は、こうした失敗から得た教訓にもとづき、非接触部族に無理に接触することをやめた。インド当局も、1991年の遠征後はセンチネル族へのプレゼントの投下をやめている。
 チャウ氏の死は、センチネル族の運命に対する新たな心配をもたらした。インドの著名な人類学者と活動家のグループは、11月26日にマスコミに公表した公開状で、宣教師の遺体を回収するあらゆる試みを中止することを政府に求めた。公開状には、「センチネル族の権利と要求は尊重されなければならない」と記されている。「衝突と緊張を助長することで得られるものは何もなく、事を構えるようなことになれば、より大きな被害が出るだろう」
 センチネル族は、世界で唯一、自分たちだけの島に住む未接触部族である。アンダマン諸島の部族の専門家で、先住民族の権利保護団体「サバイバル・インターナショナル」のメンバーであるソフィー・グリッグ氏は、このような環境に置かれたセンチネル族は、部外者が持ち込む疾患に対して「極端に脆弱」であると言う。「私たちが彼らの『接触されない権利』を尊重しなければならないのはそのためです。彼らは自分たちの要望をこれ以上ないほど明確に表明しています」
 センチネル族の人々は、自分たちを取り囲む異質な世界の存在を敏感に感じとっているにちがいない。空を見上げれば飛行機が飛んでいるし、水平線に目をやれば船舶が行き来している。彼らの矢じりは、難破船から取ってきたと思われる金属でできている。チャウ氏のように漁師に金を支払って沿岸警備隊のパトロールをかいくぐり、島に接近して双眼鏡で自分たちを覗き見する観光客の姿も見ているだろう。
 グリッグ氏は、インド政府が北センチネル島とセンチネル族を保護するためにいっそう努力することを望んでいる。「パトロールを強化し、島の周辺水域を適切に取り締まり、漁師、観光客、宣教師など、あらゆる部外者から彼らを保護することが重要です」
 センチネル族が外の世界にあれほど強い敵意を抱いている理由は、彼ら自身にしかわからない。もしかすると、1880年代に英国の植民地開拓者がこの島を訪れ、数人の島民を誘拐し、のちに英国で死なせてしまったことと関係があるのかもしれない。あるいは、善意で近づいてくる人々でさえ、外から来る人間が「今そこにある危機」をもたらすことを本能的に知っているのかもしれない。
 どのような理由にせよ、困難だらけの海に囲まれたちっぽけな緑の島で、自分たちの望むように生きるという強い決意をもって抵抗するセンチネル族に感心する人は多い。
文=Scott Wallace/訳=三枝小夜子
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181201-00010000-nknatiogeo-cul
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