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日テレは「スッキリ」でのアイヌ差別発言を検証し、説明責任を果たせ

2021-03-16 | アイヌ民族関連
論座 2021年03月15日田中駿介 慶應義塾大学法学部4年
日本テレビ系列の情報番組「スッキリ」で3月12日、アイヌ民族に対するヘイトスピーチにあたる発言があった。アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー「Future is Mine―アイヌ、私の声―」を紹介した直後、「この作品とかけまして、動物を見つけた時と解く」と謎かけをし、「あ、犬」と続けたのだ。
 筆者は「近文(ちかぶみ)アイヌ」が多く住んでいる地区として知られている北海道旭川市の北門中学校出身である。かつて拙稿でも指摘したが、同校は、アイヌのみを分離し通学させる「旧土人児童教育規定」に伴い設置された小学校の跡地に建てられた。筆者は同校の生徒会長として、『アイヌ神謡集』の編訳者の知里幸恵の生誕祭に参加した経験もある。
 そうした経験をもつ筆者として、マスメディアで再生産される差別発言に対して強い憤りを覚えている。

筆者の母校・旭川市立北門中学校に展示されていた写真。旭川市豊栄(旧土人)小学校と記されている=筆者撮影
マスメディアで再生産される差別発言
 たしかに、紹介されたドキュメンタリーの内容も照らし合わせると、このコーナー全体に、アイヌを差別しようとする明確な意図はなかったかもしれない。しかし、この言葉がアイヌ差別として使われてきたのは紛れもない歴史的事実である。
 北海道(アイヌモシリ)を「開拓」した和人たちは、アイヌの人々を搾取してきた。さらにいえば、アーロン・スキャブランド『犬の帝国』によると、土着の北海道犬もアイヌと同時に「野蛮」とされ「排除」されており、こうした構造は19世紀アメリカにおける先住民のネイティブ・アメリカンへの抑圧と酷似しているという(注1)。植民者は先住民族を「野蛮」なものとみなすことで、差別/抑圧を正当化してきたのである。
 ちなみに、こうした事実は、アニメ・漫画においても表象されている。たとえば、明治末期の北海道・樺太を舞台にした漫画『ゴールデンカムイ』第6話において、ある和人が、アイヌを別の和人の飼いイヌと見立てからかうシーンが描かれている。
 また、アイヌ初の国会議員として知られる萱野茂は、著書の中で和人に「あア、犬が来た(あ、アイヌが来た)」と呼ばれ、学校に通えなくなった子供の話を紹介している(注2)。実際、筆者自身、北海道の小学校に通学していたとき、無知ゆえのそうしたからかいを目撃したことがある。だが、今回の発言は、マスメディアが、公共の電波を用いて発信したことに鑑みると、「無知ゆえ」ですまされるものではない。
差別は「無知」から生まれる
 昨今、北海道ではアイヌ文化を推し進めようという動きが活発だ。だが「観光資源」として商品化されている印象こそ受けるが、「差別」の歴史についての教育/啓発は不十分である。政府と「開拓者」が、アイヌを差別してしまった歴史を直視せずに、アイヌ文化を理解することなど、到底不可能であるにもかかわらず、である。
 先月帰省で北海道を訪れた際には、JRの電車内で「イランカラプテ」(「こんにちは」の意)という自動放送が流れていたり、札幌市内の「地下歩行空間」ではアイヌ文様の衣服が展示され、またアイヌ文様の商品が陳列されていたりするのをみた。また、北海道白老町に国立アイヌ民族博物館と共に「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開館した昨年の7月、筆者が訪ねた際の展示では、差別問題については十分に扱われていなかった。
 読者の中には、「『かわいそう』で『ネガティブ』な差別の歴史を伝えるより、『未来志向』が重要だ」「何も知らない人にわざわざ問題を知らせる必要はない。そのまま放置しておけば自ずと差別は解消される」と考える方もいるかもしれない。しかし、今回のヘイト発言問題は、こうした「寝た子を起こすな」という議論が根本的に間違っているということを示す証左になるだろう。差別は「無知」から生まれるのである。
「不適切」にとどまらないヘイトスピーチ
 さて、話を日本テレビでの問題発言に戻そう。この発言は、単なる「不適切発言」にとどまらず、ヘイトスピーチである。
 法務省が2017年に成立・施行されたヘイトスピーチ対策法の基本的な解釈をまとめたホームページで提示された、ヘイトスピーチの例は以下の通りである。
 (1)特定の民族や国籍の人々を,合理的な理由なく,一律に排除・排斥することをあおり立てるもの
 (「○○人は出て行け」,「祖国へ帰れ」など)
 (2)特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの
 (「○○人は殺せ」「○○人は海に投げ込め」など)
 (3)特定の国や地域の出身である人を,著しく見下すような内容のもの
 (特定の国の出身者を,差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるものなど)
 などは,それを見聞きした方々に,悲しみや恐怖,絶望感などを抱かせるものであり,決してあってはならないものです。(注3)
 今回の発言は、(3)の「特定の国や地域の出身である人を,著しく見下すような内容」に該当するだろう。
 しかし日本テレビの認識が「ヘイトスピーチ」という言葉を使わず「不適切な表現」にとどめたことは由々しき問題である。北海道新聞の報道によると、12日夕方のニュース番組で、日本テレビは「アイヌの方たちを傷つける不適切な表現だった」と謝罪したという(注4)。
 問題となった放送では、「あ、犬」という発言に「アイヌ」とふりがなを付けたテロップが出されていた。「生放送のハプニング」といった類の問題ではなく、事前に収録したように思われる。しかも、当該発言後も、アナウンサーは戸惑う様子すら見せずに、そのまま番組を継続していた。朝日新聞の報道によれば、日本テレビは取材に対して「当該コーナーの担当者にこの表現が差別に当たるという認識が不足しており、放送前の確認も不十分でした」と説明したという(注5)。
 なぜ、ディレクター、アナウンサーといった複数の過程を経るなかで、誰も指摘することなく、放送されてしまったのか。日本テレビは、ヘイトスピーチが行われてしまった過程を検証し、視聴者に説明責任を果たすべきだ。メディアは、差別やヘイトスピーチを再生産するのではなく、そうした言説を監視し闘う側でなければならないのだから……。
 【注】
 (1)アーロン・ヘーランド・スカベルンド『犬の帝国』岩波書店、2009年。
 (2)萱野茂『アイヌの碑』朝日文庫、67頁、1990年。
 (3)法務省「ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動」
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html 閲覧日:2021年3月14日。
 (4)「日テレ、アイヌ民族差別」『北海道新聞』2021年3月13日朝刊、35面。
 (5)「「スッキリ」でアイヌ民族に不適切表現 日テレ謝罪」『朝日新聞デジタル』https://www.asahi.com/articles/ASP3D6HT9P3DUCVL01D.html
https://webronza.asahi.com/national/articles/2021031500001.html
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