ナショナルジオグラフィック 2024.08.04
パリ五輪は公表する選手が過去最多、進化し続ける旗のデザイン
2017年、米ペンシルベニア州フィラデルフィアの市庁舎で、アンバー・ハイクス氏率いるフィラデルフィアLGBT局が作成した「フィラデルフィア・プライドフラッグ」が公開された。ベイカーのフラッグの上に、QTBIPOC(クィアやトランスの黒人と有色人種の先住民族)を表す黒と茶のストライプが加えられている。
QTBIPOCは、クィアまたはトランスジェンダーであり有色人種であるという二重のマイノリティ性にまつわる偏見と暴力にあいながら、クィア運動から排除されてきた人々だ。
従来のレインボーフラッグに黒と茶のストライプを加えた「フィラデルフィア・プライドフラッグ」。(PHOTOGRAPH BY MATT SLOCUM/AP)
「QTBIPOCの関わりは、『ストーンウォールの反乱』(1969年にニューヨークのゲイバーで警察に立ち向かって起こった暴動事件。LGBT運動が高まるきっかけとなった)の中心にありました。これをフラッグに追加するのは、QTBIPOCの人々に敬意を払い、中心に据えるということです」と、米カリフォルニア州立大学サクラメント校の歴史学助教のレベッカ・マルホランド氏は言う。
2018年には、ノンバイナリー(自分の性自認が男女の枠に当てはまらない)のアーティストであるダニエル・クエーサー氏が、トランスジェエンダーのフラッグに使用されていた白、薄いピンク、水色のストライプを加えて、より幅広い受容性への取り組みを表す「プログレス・プライドフラッグ」を考案した。
「一度は削除されたピンクが含まれています。QTBIPOCを運動から排除しようとする動きに対する抵抗の象徴です」と、ユーウィング氏は言う。
6色のレインボーフラッグに黒と茶の帯をVの字で加え、さらにその内側にトランスフラッグの水色、ピンク、白の帯を配置したデザインは、「トランスジェンダーを中心にすることの重要性を示しています。これらの人々はジェンダー規範からの逸脱が目に見えやすいために、しばしば運動の最前線で最も激しい抵抗にあってきました」と、ウールナー氏は指摘する。(参考記事:「トランスジェンダー「救急外来で嫌な思い」、調査」)
2020年には、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動のモチーフを取り入れてクィアと人種平等を訴える新しい「クィア・ピープル・オブ・カラー・フラッグ」が登場した。デザイナーは知られていないが、BLM運動の象徴である突き上げたこぶしが、異なる肌の色を象徴してグラデーションになっている。(参考記事:「人種差別抗議デモ、人種を超えて広がる人々の思いと闘い」)
「1970年代後半にレインボーフラッグ誕生のきっかけとなった政治運動は、QTBIPOCの貢献なしにはあり得ませんでした。その人々を中心に置くことは、LGBTQIA+運動における有色人種の動かしがたい地位を強く主張するものです」と、ユーウィング氏は話す。
そして最新版のプライドフラッグは、インターセックス(男性にも女性にも当てはまらない身体的特徴を持った人)のコラムニストでメディアパーソナリティのバレンティノ・ベッキエッティ氏が2021年に作成した「インターセックス・インクルーシブ・プライドフラッグ」だ。
「プライドフラッグは、私たちを閉じ込めたり区別したりするのではなく、私たちの多様な存在を反映し、インクルージョン(包摂)を可視化するために存在しているのです」とベッキエッティ氏は言う。「インクルージョンは、当然あるものと思い込むべきではありません。目に見えるということが重要なのです」
最新のフラッグはプログレス・プライドのデザインを基にしており、インターセックス・プライドを象徴する黄色地に紫の円が描かれた三角形が加えられている。11色にまで増えたプライドフラッグは、始まりであるベイカーのレインボーフラッグをどことなく彷彿とさせる。
ギャラリー:LGBTQIA+の象徴、レインボーフラッグの進化史 写真7点(写真クリックでギャラリーページへ)
何度も変更が加えられてきたプライドフラッグは、この先もまた新たなデザインが生まれるだろう。
「人のアイデンティティの幅がいかに広いかが明らかになればなるほど、様々なバリエーションのフラッグが生まれるものです。これほど活発で創造的で、積極的に運動に関わろうとする人々が多くいるコミュニティですから、それを象徴するフラッグもまた進化し続けることでしょう」と、ケステン氏は言う。
文=Lola Méndez/訳=荒井ハンナ