フライデー1/25(水) 14:00配信
札幌市民の約7割は五輪招致に反対
札幌市が2030年冬季五輪・パラリンピック招致を目指すことに、札幌市民の67%が反対している――。北海道新聞が1月8日、同紙が昨年12月16~18日に18歳以上の札幌市民を対象に行った世論調査の結果を報じた。
その調査によると「賛成」は33%。反対派が賛成派の2倍に上った。さらに、同じ日程で実施した全道調査でも、反対派が61%と賛成派の39%を上回っている。
反対理由は「除雪やコロナ対策、福祉など他にもっと大事な施策がある」が48%と最多で、「東京五輪を巡る汚職や談合事件で五輪に不信感が募った」が23%。全道調査も同様の傾向だったという。
札幌市は物価高などを踏まえて昨年10月、大会開催経費を170億円上積みして最大で3170億円と修正。施設整備費770億円のうち、札幌市の負担を40億円増の490億円と試算した。この開催経費について、道新の調査では札幌市民の44%、道民の47%が「お金がかかりすぎる」と回答している。
◆オリンピックより、医療や生活費、住宅、治安などを優先させる方針のBC州政府
2030年冬季五輪招致には、札幌市の他にアメリカのソルトレイクシティーとカナダのバンクーバー市が名乗りを上げていた。ところが昨年10月、バンクーバー市の地元ブリティッシュコロンビア(BC)州が招致を支持しないと表明。財政面の負担がその理由のようだ。
オリンピックの開催には莫大な費用がかかる。2021年東京五輪の開催経費も、会計検査院の報告によると、大会組織委員会の公表額1兆4238億円より2割多い1兆6989億円に上った。
財政上の懸念を理由に招致不支持を表明したBC州政府の判断は賢明と言えるかもしれない。
バンクーバーはこのまま招致から撤退することになるのか。市民の意見はどうなのか。バンクーバーを拠点とする日系コミュニティ向けニュースサイト「日加トゥデイ」編集長の三島直美さんに話を聞いた。
「BC州政府からオリンピック招致不支持の発表があったのは、BC新民主党のデイビッド・イービーさんが新州首相に就任することが決まった数日後です。州政府のスポーツ担当大臣によると、医療や生活費、住宅、治安など州政府の優先事項と、開催費用やリスク、潜在的な利益を検討して決めたとのことでした。
州政府与党のBC新民主党は中道左派で、社会制度の充実を優先する政党です。BC州はホームレスの増加や不動産の高騰などの問題を抱えていますし、州の元司法長官だったイービー州首相はもともとお金があるなら住民に還元する方針の人ですから、不支持の理由が財政的な問題というのも何となく納得できます」
バンクーバー市では2010年に冬季五輪が開催されている。今回の招致活動は自治権を持つ4つのファーストネーション(先住民族)が主導しており、バンクーバー市や同じくBC州のウィスラー市、カナダオリンピック委員会(COC)、パラリンピック委員会(CPC)が参加し、さらにはカナダ連邦政府スポーツ省も招致に前向きとされる。
「カナダ政府は長年にわたり、同化政策の名のもとに先住民族に寄宿学校制度を押しつけてきました。それが2015年に文化的ジェノサイドに相当すると結論づけられ、以降、政府と先住民族は和解の道を模索し続けています。五輪招致活動はその一環で、主導するファーストネーションズには自分たちの地位や文化の確立につながるという思いがあり、州政府や市、連邦政府には招致活動に協力することで和解も進むだろうといった考えがあったと思います。
カナダでの報道によると、ファーストネーションズは五輪招致に向け、開催経費として見積もられている12臆カナダドル(約1200億円)の負担を州政府にお願いしたそうです。それを受けて州政府は、財政的な支援をしないと言ったのかもしれません。
この発表に対して、ファーストネーションズの首長は記者会見で、『BC州政府が最終決定をする前に自分たちと話す機会を設けてほしかった』と語っていました。
今後もし話し合いの場が持たれてファーストネーションズが州政府を説得できれば、招致活動再開の可能性がなきにしもあらずといった報道もあります。2026年にカナダ、アメリカ、メキシコで共同開催されるFIFAワールドカップのバンクーバー招致についても、当初は『開催費用がいくらかかるかわからない』という理由で見送ると発表していましたが、2021年の夏に一転して招致に乗り出し、結局バンクーバーが開催地に決まりました。このような方針転換もあり得るので、五輪招致からの撤退が決定なのかどうかはまだわからないですね」
民意は尊重する」…しかし、“撤退”を口にしない札幌市の秋元市長
バンクーバー市民の意向はどうなのだろう。
「これまで民間のリサーチ会社によるBC州民を対象にした世論調査が何回かあって、コロナ前の2020年1月の調査では60%が賛成、コロナ真っ只中の2021年10月は43%、2022年の6月は54%が賛成でした。2022年11月の調査はBC州政府が招致を支持しないことに対して賛成か反対かを質問していて、州政府の方針に賛成が57%、反対が29%。オリンピック招致への反対派が賛成派の倍という結果になっています。
面白いのは、55歳以上に招致賛成派が多いことです。この年代は金銭的にも安定しているし、2010年のバンクーバーオリンピックの楽しさも覚えています。
カナダではこれまで3回オリンピックが開催されていて、1976年の夏のモントリオール大会と1988年のカルガリー大会ではカナダは金メダルをとることができなかったんです。ところが2010年のバンクーバー大会は金メダルラッシュ。最終日に行われたアイスホッケー男子決勝のカナダ対アメリカ戦は、延長戦の末にカナダが金メダルを獲得し、それは盛り上がりました。
2010年のオリンピックに対して、市民の多くはいいイメージしか持っていないはずです。55歳以上の世代を中心に、あのお祭り騒ぎをもう一度という機運が高まれば、賛成派が多くなるかもしれません」
カルガリー市は2018年に、2026年冬季五輪招致の賛否を問う住民投票を行い、反対票が半数以上を占めたため招致を断念している。今後、BC州かバンクーバー市で、2030年五輪招致の是非を問う住民投票が行われる可能性はあるのだろうか。
「招致活動を再開することが決まれば、やると思いますね。それで反対意見が多かったなら、五輪招致から撤退するのではないでしょうか」
札幌市とJOCは昨年12月、東京五輪を巡る汚職・談合事件や開催地決定時期の延期を受け、大規模な機運醸成活動を当面休止すると発表。「住民投票を行う考えはない」と明言していた札幌市の秋元克広市長は、全国を対象に招致の賛否を問う意向調査を行う考えを示した。ただ、秋元市長は調査で反対意見が上回った場合は「民意を尊重する」と発言しているものの、「撤退」の二文字は口にしていない。
冒頭で紹介した北海道新聞の世論調査はこの発表の数日前に行われており、「招致の賛否を問う住民投票を行うべきか」との問いに札幌市民の61%、道民57%が「行うべき」と回答した。国際オリンピック委員会(IOC)は開催地選びで住民の支持率を重視するとしている。住民投票は必須だろう。
「IOCが住民の支持を重視すると言うなら、住民投票を実施するべきではないでしょうか。
国民や市民の意向を確認せずに、何が何でも招致を押し通そうとする国や自治体の姿勢には、かなり違和感を覚えます」
日本世論調査会が昨年11~12月に行った全国郵送世論調査では、札幌市の五輪招致への賛成は57%、反対は42%だった。東京五輪の汚職と談合事件、開催経費が1兆7000臆円にも膨らんだ事実を知ってもなお、半数を超える国民が五輪招致に賛成していることに驚く。
この調査結果を踏まえた上で、秋元市長が招致の賛否を問う意向調査の対象を全国に広げたかどうかは定かではない。ともかく秋元市長は4月の札幌市長選挙で冬季五輪の「開催意義を訴えていく」らしく、今秋にも全国を対象に意向調査を行う考えのようだ。
その結果によっては、2030年冬季五輪の開催地は札幌に……。意向調査では同時に、日本人の見識も問われる。
三島直美(みしま・なおみ)「日加トゥデイ」編集長。1997年カナダへ。2002年サイモンフレーザー大学卒業。バンクーバー・コミュニティ紙「バンクーバー新報」ではスポーツを担当し、2010年のバンクーバーオリンピック・パラリンピックを取材している。
取材・文:斉藤さゆり
https://news.yahoo.co.jp/articles/09a3a66263166809ab411ca1aa8ac872a7a52b88
札幌市民の約7割は五輪招致に反対
札幌市が2030年冬季五輪・パラリンピック招致を目指すことに、札幌市民の67%が反対している――。北海道新聞が1月8日、同紙が昨年12月16~18日に18歳以上の札幌市民を対象に行った世論調査の結果を報じた。
その調査によると「賛成」は33%。反対派が賛成派の2倍に上った。さらに、同じ日程で実施した全道調査でも、反対派が61%と賛成派の39%を上回っている。
反対理由は「除雪やコロナ対策、福祉など他にもっと大事な施策がある」が48%と最多で、「東京五輪を巡る汚職や談合事件で五輪に不信感が募った」が23%。全道調査も同様の傾向だったという。
札幌市は物価高などを踏まえて昨年10月、大会開催経費を170億円上積みして最大で3170億円と修正。施設整備費770億円のうち、札幌市の負担を40億円増の490億円と試算した。この開催経費について、道新の調査では札幌市民の44%、道民の47%が「お金がかかりすぎる」と回答している。
◆オリンピックより、医療や生活費、住宅、治安などを優先させる方針のBC州政府
2030年冬季五輪招致には、札幌市の他にアメリカのソルトレイクシティーとカナダのバンクーバー市が名乗りを上げていた。ところが昨年10月、バンクーバー市の地元ブリティッシュコロンビア(BC)州が招致を支持しないと表明。財政面の負担がその理由のようだ。
オリンピックの開催には莫大な費用がかかる。2021年東京五輪の開催経費も、会計検査院の報告によると、大会組織委員会の公表額1兆4238億円より2割多い1兆6989億円に上った。
財政上の懸念を理由に招致不支持を表明したBC州政府の判断は賢明と言えるかもしれない。
バンクーバーはこのまま招致から撤退することになるのか。市民の意見はどうなのか。バンクーバーを拠点とする日系コミュニティ向けニュースサイト「日加トゥデイ」編集長の三島直美さんに話を聞いた。
「BC州政府からオリンピック招致不支持の発表があったのは、BC新民主党のデイビッド・イービーさんが新州首相に就任することが決まった数日後です。州政府のスポーツ担当大臣によると、医療や生活費、住宅、治安など州政府の優先事項と、開催費用やリスク、潜在的な利益を検討して決めたとのことでした。
州政府与党のBC新民主党は中道左派で、社会制度の充実を優先する政党です。BC州はホームレスの増加や不動産の高騰などの問題を抱えていますし、州の元司法長官だったイービー州首相はもともとお金があるなら住民に還元する方針の人ですから、不支持の理由が財政的な問題というのも何となく納得できます」
バンクーバー市では2010年に冬季五輪が開催されている。今回の招致活動は自治権を持つ4つのファーストネーション(先住民族)が主導しており、バンクーバー市や同じくBC州のウィスラー市、カナダオリンピック委員会(COC)、パラリンピック委員会(CPC)が参加し、さらにはカナダ連邦政府スポーツ省も招致に前向きとされる。
「カナダ政府は長年にわたり、同化政策の名のもとに先住民族に寄宿学校制度を押しつけてきました。それが2015年に文化的ジェノサイドに相当すると結論づけられ、以降、政府と先住民族は和解の道を模索し続けています。五輪招致活動はその一環で、主導するファーストネーションズには自分たちの地位や文化の確立につながるという思いがあり、州政府や市、連邦政府には招致活動に協力することで和解も進むだろうといった考えがあったと思います。
カナダでの報道によると、ファーストネーションズは五輪招致に向け、開催経費として見積もられている12臆カナダドル(約1200億円)の負担を州政府にお願いしたそうです。それを受けて州政府は、財政的な支援をしないと言ったのかもしれません。
この発表に対して、ファーストネーションズの首長は記者会見で、『BC州政府が最終決定をする前に自分たちと話す機会を設けてほしかった』と語っていました。
今後もし話し合いの場が持たれてファーストネーションズが州政府を説得できれば、招致活動再開の可能性がなきにしもあらずといった報道もあります。2026年にカナダ、アメリカ、メキシコで共同開催されるFIFAワールドカップのバンクーバー招致についても、当初は『開催費用がいくらかかるかわからない』という理由で見送ると発表していましたが、2021年の夏に一転して招致に乗り出し、結局バンクーバーが開催地に決まりました。このような方針転換もあり得るので、五輪招致からの撤退が決定なのかどうかはまだわからないですね」
民意は尊重する」…しかし、“撤退”を口にしない札幌市の秋元市長
バンクーバー市民の意向はどうなのだろう。
「これまで民間のリサーチ会社によるBC州民を対象にした世論調査が何回かあって、コロナ前の2020年1月の調査では60%が賛成、コロナ真っ只中の2021年10月は43%、2022年の6月は54%が賛成でした。2022年11月の調査はBC州政府が招致を支持しないことに対して賛成か反対かを質問していて、州政府の方針に賛成が57%、反対が29%。オリンピック招致への反対派が賛成派の倍という結果になっています。
面白いのは、55歳以上に招致賛成派が多いことです。この年代は金銭的にも安定しているし、2010年のバンクーバーオリンピックの楽しさも覚えています。
カナダではこれまで3回オリンピックが開催されていて、1976年の夏のモントリオール大会と1988年のカルガリー大会ではカナダは金メダルをとることができなかったんです。ところが2010年のバンクーバー大会は金メダルラッシュ。最終日に行われたアイスホッケー男子決勝のカナダ対アメリカ戦は、延長戦の末にカナダが金メダルを獲得し、それは盛り上がりました。
2010年のオリンピックに対して、市民の多くはいいイメージしか持っていないはずです。55歳以上の世代を中心に、あのお祭り騒ぎをもう一度という機運が高まれば、賛成派が多くなるかもしれません」
カルガリー市は2018年に、2026年冬季五輪招致の賛否を問う住民投票を行い、反対票が半数以上を占めたため招致を断念している。今後、BC州かバンクーバー市で、2030年五輪招致の是非を問う住民投票が行われる可能性はあるのだろうか。
「招致活動を再開することが決まれば、やると思いますね。それで反対意見が多かったなら、五輪招致から撤退するのではないでしょうか」
札幌市とJOCは昨年12月、東京五輪を巡る汚職・談合事件や開催地決定時期の延期を受け、大規模な機運醸成活動を当面休止すると発表。「住民投票を行う考えはない」と明言していた札幌市の秋元克広市長は、全国を対象に招致の賛否を問う意向調査を行う考えを示した。ただ、秋元市長は調査で反対意見が上回った場合は「民意を尊重する」と発言しているものの、「撤退」の二文字は口にしていない。
冒頭で紹介した北海道新聞の世論調査はこの発表の数日前に行われており、「招致の賛否を問う住民投票を行うべきか」との問いに札幌市民の61%、道民57%が「行うべき」と回答した。国際オリンピック委員会(IOC)は開催地選びで住民の支持率を重視するとしている。住民投票は必須だろう。
「IOCが住民の支持を重視すると言うなら、住民投票を実施するべきではないでしょうか。
国民や市民の意向を確認せずに、何が何でも招致を押し通そうとする国や自治体の姿勢には、かなり違和感を覚えます」
日本世論調査会が昨年11~12月に行った全国郵送世論調査では、札幌市の五輪招致への賛成は57%、反対は42%だった。東京五輪の汚職と談合事件、開催経費が1兆7000臆円にも膨らんだ事実を知ってもなお、半数を超える国民が五輪招致に賛成していることに驚く。
この調査結果を踏まえた上で、秋元市長が招致の賛否を問う意向調査の対象を全国に広げたかどうかは定かではない。ともかく秋元市長は4月の札幌市長選挙で冬季五輪の「開催意義を訴えていく」らしく、今秋にも全国を対象に意向調査を行う考えのようだ。
その結果によっては、2030年冬季五輪の開催地は札幌に……。意向調査では同時に、日本人の見識も問われる。
三島直美(みしま・なおみ)「日加トゥデイ」編集長。1997年カナダへ。2002年サイモンフレーザー大学卒業。バンクーバー・コミュニティ紙「バンクーバー新報」ではスポーツを担当し、2010年のバンクーバーオリンピック・パラリンピックを取材している。
取材・文:斉藤さゆり
https://news.yahoo.co.jp/articles/09a3a66263166809ab411ca1aa8ac872a7a52b88