マグミクス4/15(金) 18:10配信
屈強な軍人でもヒロイン性がある物語

ヒロインでは?との声が多い谷垣源次郎が表紙の『ゴールデンカムイ』5巻(集英社)
2022年4月28日発売の「週刊ヤングジャンプ」22&23合併号で、約8年にも及ぶ連載に幕を下ろすことが発表された『ゴールデンカムイ』(著:野田サトル)。明治の北海道が舞台の同作ではアイヌが遺した金塊をめぐり、帝国軍人、脱獄囚、はたまた元新撰組らによるサバイバルバトルが繰り広げられます。破天荒なキャラクターたちと、史実を巧みに盛り込んだ緻密なストーリー設計が織りなす極上のエンタメ作品です。
さて人気マンガ作品としてこれからも長く読み継がれていくであろう『ゴールデンカムイ』ですが、連載最終回を前にした2022年においても、ネットでは盛んに議論がされている問題があります。それは「『金カム』のヒロインは誰なのか(そもそもいるのか)?」という議題です。この記事では、ネットで「あの人がヒロイン」とそれぞれの推す声を適宜参照にしながら、同問題を掘り下げていきます。
●「アシリパさん」では……いけないのでしょうか?
この議題における「ヒロイン」とは、単に辞書的な意味で「女性主人公」を意味するものではなさそうです。もしそうでなければ、『金カム』には主人公・杉元佐一の相棒であるアイヌの少女アシリパ(リは小文字)がいるのですから。軍人(経験者)と非軍人と目線を切り替えつつ進む同作において、杉元が軍人側の主人公とすればアシリパさんは非軍人側のもうひとりの主人公です。「新しい時代のアイヌの女」である彼女は、類い稀なサバイバル技術と精神力で、新しい時代を生き抜きます。
『金カム』の物語の駆動力は杉元、アシリパの両輪によって生み出されています。つまり、「『金カム』のヒロインは誰?」という問いが生まれるようになったのは、まず「アシリパさんが旧来の意味でのヒロインではない」という認識が共有されたからなのでしょう。さて、そうなると誰がこの物語のヒロインの座にふさわしいのでしょうか?
●谷垣源次郎はすけべ過ぎるヒロインなのか?
アシリパさん以外のヒロインとなると、主要女性キャラクターはだいぶ限られてきます。インカラマッ(ラは小文字)の名が次にあがりそうですが、正ヒロインとしてはやや妖艶すぎるきらいも。むしろ「一体、いつからヒロインが女性となったのか?」という声も聞こえてくるのが、『金カム』の奥深さです。
ネットではインカラマッより、むしろ彼女のパートナーにして「すけべ過ぎるマタギ」でおなじみ、谷垣源次郎を推す声が多数あります。何かにつけて太ったことを指摘されたり、サーカス編ではうまく踊れずしくしくと泣いたり、ときに妙な文脈で「お色気要因」扱いされたりと、なるほど「昭和の少年誌のヒロインっぽさ」として見るなら、ゲンジロちゃんは間違いなくヒロインです。いや、やっぱり違うかもしれません……。
主人公もヒロイン候補?

さまざまな男たちを惚れさせて「ヒロイン」にしてきた鶴見中尉が表紙の『ゴールデンカムイ』4巻(集英社)
●「江渡貝くぅぅん」は立派にヒロインを全うしました
その他にヒロインとして大事な要素、「惚れた男への一途な愛」を全うしたのは若き剥製職人・江渡貝弥作(えどがい・やさく)でしょうか。わずか数話の登場ではありながらも、その癖の強さから読者に強烈な印象を植え付けました。死体の皮を用いた革細工製作に執心する、なんとも業の深い性をもつ江渡貝でしたが、自身を受け入れてくれた鶴見中尉には首ったけ。
「ファッションショー」の場面では華麗なる乙女仕草を見せつけ、また中尉の要望には職人として全力で応じます。炭鉱事故での最期まで、彼は鶴見への「愛と誠」を貫いたのです。一般社会においては到底受け入れられぬ性質の持ち主ですが、一途な愛の男でもありました。
●杉元もまた「ヒロイン」のひとりなのかもしれない
ここまでまとめてきてお気付きの通り、『金カム』は誰の目線から見るかによって「ヒロイン」が決定される、流動的な物語といえるでしょう。杉元の目線に立てば、脱獄王・白石由竹が放っておけないヒロインに。あるいは、鶴見中尉を中心に据えてしまえば、屈強な軍人たちが軒並み彼に想いを寄せるヒロインへと様変わりしてしまうのです。
もちろん主人公・杉元だって例外ではありません。猛り狂う豪雪のなか、アシリパさんに護られるときの杉元が見せる「ヒロイン」らしさも、またなかなかのものです。だったらもう「ヒロイン不在」なのでは、という正論が聞こえてきそうですが、それはすなわち「誰でもヒロインになり得る」ということでもあります。
『金カム』はさまざまなキャラクターのなかに「ヒロイン性」を見出す自由を読者に開いてくれたという点においても、傑作であることは間違いありません。なお2022年4月28日からは、「東京ドームシティ Gallery AaMo」にて『ゴールデンカムイ展』も開催されます。そこで明かされる情報によっては、また『金カム』のヒロイン論争に新たな展開が生まれるかもしれません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ddd713d4db8a5b47ea10c9bff13c6b83ce996a62
屈強な軍人でもヒロイン性がある物語


ヒロインでは?との声が多い谷垣源次郎が表紙の『ゴールデンカムイ』5巻(集英社)
2022年4月28日発売の「週刊ヤングジャンプ」22&23合併号で、約8年にも及ぶ連載に幕を下ろすことが発表された『ゴールデンカムイ』(著:野田サトル)。明治の北海道が舞台の同作ではアイヌが遺した金塊をめぐり、帝国軍人、脱獄囚、はたまた元新撰組らによるサバイバルバトルが繰り広げられます。破天荒なキャラクターたちと、史実を巧みに盛り込んだ緻密なストーリー設計が織りなす極上のエンタメ作品です。
さて人気マンガ作品としてこれからも長く読み継がれていくであろう『ゴールデンカムイ』ですが、連載最終回を前にした2022年においても、ネットでは盛んに議論がされている問題があります。それは「『金カム』のヒロインは誰なのか(そもそもいるのか)?」という議題です。この記事では、ネットで「あの人がヒロイン」とそれぞれの推す声を適宜参照にしながら、同問題を掘り下げていきます。
●「アシリパさん」では……いけないのでしょうか?
この議題における「ヒロイン」とは、単に辞書的な意味で「女性主人公」を意味するものではなさそうです。もしそうでなければ、『金カム』には主人公・杉元佐一の相棒であるアイヌの少女アシリパ(リは小文字)がいるのですから。軍人(経験者)と非軍人と目線を切り替えつつ進む同作において、杉元が軍人側の主人公とすればアシリパさんは非軍人側のもうひとりの主人公です。「新しい時代のアイヌの女」である彼女は、類い稀なサバイバル技術と精神力で、新しい時代を生き抜きます。
『金カム』の物語の駆動力は杉元、アシリパの両輪によって生み出されています。つまり、「『金カム』のヒロインは誰?」という問いが生まれるようになったのは、まず「アシリパさんが旧来の意味でのヒロインではない」という認識が共有されたからなのでしょう。さて、そうなると誰がこの物語のヒロインの座にふさわしいのでしょうか?
●谷垣源次郎はすけべ過ぎるヒロインなのか?
アシリパさん以外のヒロインとなると、主要女性キャラクターはだいぶ限られてきます。インカラマッ(ラは小文字)の名が次にあがりそうですが、正ヒロインとしてはやや妖艶すぎるきらいも。むしろ「一体、いつからヒロインが女性となったのか?」という声も聞こえてくるのが、『金カム』の奥深さです。
ネットではインカラマッより、むしろ彼女のパートナーにして「すけべ過ぎるマタギ」でおなじみ、谷垣源次郎を推す声が多数あります。何かにつけて太ったことを指摘されたり、サーカス編ではうまく踊れずしくしくと泣いたり、ときに妙な文脈で「お色気要因」扱いされたりと、なるほど「昭和の少年誌のヒロインっぽさ」として見るなら、ゲンジロちゃんは間違いなくヒロインです。いや、やっぱり違うかもしれません……。
主人公もヒロイン候補?


さまざまな男たちを惚れさせて「ヒロイン」にしてきた鶴見中尉が表紙の『ゴールデンカムイ』4巻(集英社)
●「江渡貝くぅぅん」は立派にヒロインを全うしました
その他にヒロインとして大事な要素、「惚れた男への一途な愛」を全うしたのは若き剥製職人・江渡貝弥作(えどがい・やさく)でしょうか。わずか数話の登場ではありながらも、その癖の強さから読者に強烈な印象を植え付けました。死体の皮を用いた革細工製作に執心する、なんとも業の深い性をもつ江渡貝でしたが、自身を受け入れてくれた鶴見中尉には首ったけ。
「ファッションショー」の場面では華麗なる乙女仕草を見せつけ、また中尉の要望には職人として全力で応じます。炭鉱事故での最期まで、彼は鶴見への「愛と誠」を貫いたのです。一般社会においては到底受け入れられぬ性質の持ち主ですが、一途な愛の男でもありました。
●杉元もまた「ヒロイン」のひとりなのかもしれない
ここまでまとめてきてお気付きの通り、『金カム』は誰の目線から見るかによって「ヒロイン」が決定される、流動的な物語といえるでしょう。杉元の目線に立てば、脱獄王・白石由竹が放っておけないヒロインに。あるいは、鶴見中尉を中心に据えてしまえば、屈強な軍人たちが軒並み彼に想いを寄せるヒロインへと様変わりしてしまうのです。
もちろん主人公・杉元だって例外ではありません。猛り狂う豪雪のなか、アシリパさんに護られるときの杉元が見せる「ヒロイン」らしさも、またなかなかのものです。だったらもう「ヒロイン不在」なのでは、という正論が聞こえてきそうですが、それはすなわち「誰でもヒロインになり得る」ということでもあります。
『金カム』はさまざまなキャラクターのなかに「ヒロイン性」を見出す自由を読者に開いてくれたという点においても、傑作であることは間違いありません。なお2022年4月28日からは、「東京ドームシティ Gallery AaMo」にて『ゴールデンカムイ展』も開催されます。そこで明かされる情報によっては、また『金カム』のヒロイン論争に新たな展開が生まれるかもしれません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ddd713d4db8a5b47ea10c9bff13c6b83ce996a62