北海道新聞 06/04 09:57
コンビニエンスストアで商品を並べる男性オーナー、スーツ姿の若いシステムエンジニア…。札幌市立東苗穂小4年の教室のスクリーンに、アイヌの人々の日常生活が次々と映し出された。そして画面が切り替わり、休日、民族衣装を着た人々が祈りの儀式「カムイノミ」に集まる場面。食い入るように見つめる子どもたちに、北大アイヌ・先住民研究センター准教授の北原モコットゥナシさん(43)は「どちらも同じおじさんだよ」と語りかけた。
■現代の暮らし
「アイヌ民族について、こんなふうに伝える方法があるのか」。同小の社会科教諭伊藤拓真さん(39)は昨年8月、北原さんの授業を初めて見た時の驚きを、今も鮮明に覚えている。
北原さんは2年前から年1回、同小の社会科授業で講師を務める。学校の教科書はアイヌ語由来の地名や歴史、文化の紹介が中心。だが北原さんはアイヌ民族の現代の暮らしも伝える。
「山奥でかやぶきの家に住んでいる」「シカを捕って暮らしている」。アイヌ民族についてまだそんな誤解を持つ人も多い。「伝統的な生活をしていなくても自分の中の『アイヌ性』を大切にする、今のアイヌの姿を知ってほしい」と北原さんは願う。
5月24日施行のアイヌ施策推進法は、アイヌ民族の誇りが尊重される社会を実現することが、「人格と個性を尊重し合える社会」につながるとうたった。法律を読み、伊藤さんははっとした。「まさに、自分が伝えたいことだ」。4月から、アイヌ文化に関する授業内容を考える担当になった。子どもたちと「いろんな人が共に生きる社会」について考えたいと改めて思う。
「アイヌにお会いするのは初めて」「差別されたことはありますか?」。札幌アイヌ協会の光野智子さん(59)はイベントなどの来場者らから、そう言われることがある。「あからさまな差別や誤解も悲しいが、無意識の言葉もつらい」
それでも「現状を知ってほしい」と丁寧に説明する。アイヌ民族の中には差別や偏見を恐れて名乗れない人がいて、もしかしたら身近にそんな人がいたかもしれないこと、悲しい体験を親しい人にも話せず胸にしまっている人がいること。
推進法ができても社会はすぐ変わらないだろう。でも―。「学校にも職場にもアイヌを含め多様なバックグラウンドを持つ人がいる。そんな前提を自然に持てるようになれば」と思う。
■故郷に恩返し
「ヤクン ホシキノ ヌカラ ヤン(まずは、ご覧ください)、どうぞ!」。日高管内平取町出身のアイヌ民族で慶応大2年の関根摩耶さん(19)と、「よーぴん」の愛称で登場する同級生の田原悠平さん(21)が、カメラに呼びかけた。
関根さんたちは、もう1人の同級生と4月から、動画投稿サイト・ユーチューブでアイヌ語講座「しとちゃんねる」を始めた。休日の過ごし方など、友人との何げない会話をアイヌ語で話し、解説を約5分にまとめて毎週水、土曜に配信する。
3人の出会いは中国語の授業。田原さんは、関根さんがアイヌ民族だと、いつどのように聞いたか、覚えていない。「クラスメートとして自然に仲良くなっていた」と田原さん。関根さんは「アイヌのことも含めて、2人は私を私として尊重してくれる」と話す。
しとちゃんねるは「アイヌ語の復興とか大きな目的ではなく、大好きな故郷の家族や友人への恩返しのつもりで始めた」と関根さん。推進法を機に講演や取材の依頼も増えた。でも「『あるアイヌ民族』としてではなく、関根摩耶として、大切だと思うことを伝えていきたい」。よーぴんたちがいれば、きっとできる。
第1条 (前略)アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする
アイヌ民族はかつて北海道や千島列島、樺太(サハリン)、カムチャツカ半島などにすみ、現在は日本など各地で暮らしている。2017年度に道が行ったアイヌ民族の生活実態調査によると、道内のアイヌ民族の人数について把握できたのは約1万3千人。各地のアイヌ協会などが協力し調査しているが、今も根強く残る差別に出自を打ち明けることをためらう人も多く、専門家の間では「民族の血を受け継ぎながら、調査対象から漏れた人は数万人以上」との見方もある。
◆モコットゥナシさんとホシキノのシ、ヌカラのラは小さい文字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/311729
コンビニエンスストアで商品を並べる男性オーナー、スーツ姿の若いシステムエンジニア…。札幌市立東苗穂小4年の教室のスクリーンに、アイヌの人々の日常生活が次々と映し出された。そして画面が切り替わり、休日、民族衣装を着た人々が祈りの儀式「カムイノミ」に集まる場面。食い入るように見つめる子どもたちに、北大アイヌ・先住民研究センター准教授の北原モコットゥナシさん(43)は「どちらも同じおじさんだよ」と語りかけた。
■現代の暮らし
「アイヌ民族について、こんなふうに伝える方法があるのか」。同小の社会科教諭伊藤拓真さん(39)は昨年8月、北原さんの授業を初めて見た時の驚きを、今も鮮明に覚えている。
北原さんは2年前から年1回、同小の社会科授業で講師を務める。学校の教科書はアイヌ語由来の地名や歴史、文化の紹介が中心。だが北原さんはアイヌ民族の現代の暮らしも伝える。
「山奥でかやぶきの家に住んでいる」「シカを捕って暮らしている」。アイヌ民族についてまだそんな誤解を持つ人も多い。「伝統的な生活をしていなくても自分の中の『アイヌ性』を大切にする、今のアイヌの姿を知ってほしい」と北原さんは願う。
5月24日施行のアイヌ施策推進法は、アイヌ民族の誇りが尊重される社会を実現することが、「人格と個性を尊重し合える社会」につながるとうたった。法律を読み、伊藤さんははっとした。「まさに、自分が伝えたいことだ」。4月から、アイヌ文化に関する授業内容を考える担当になった。子どもたちと「いろんな人が共に生きる社会」について考えたいと改めて思う。
「アイヌにお会いするのは初めて」「差別されたことはありますか?」。札幌アイヌ協会の光野智子さん(59)はイベントなどの来場者らから、そう言われることがある。「あからさまな差別や誤解も悲しいが、無意識の言葉もつらい」
それでも「現状を知ってほしい」と丁寧に説明する。アイヌ民族の中には差別や偏見を恐れて名乗れない人がいて、もしかしたら身近にそんな人がいたかもしれないこと、悲しい体験を親しい人にも話せず胸にしまっている人がいること。
推進法ができても社会はすぐ変わらないだろう。でも―。「学校にも職場にもアイヌを含め多様なバックグラウンドを持つ人がいる。そんな前提を自然に持てるようになれば」と思う。
■故郷に恩返し
「ヤクン ホシキノ ヌカラ ヤン(まずは、ご覧ください)、どうぞ!」。日高管内平取町出身のアイヌ民族で慶応大2年の関根摩耶さん(19)と、「よーぴん」の愛称で登場する同級生の田原悠平さん(21)が、カメラに呼びかけた。
関根さんたちは、もう1人の同級生と4月から、動画投稿サイト・ユーチューブでアイヌ語講座「しとちゃんねる」を始めた。休日の過ごし方など、友人との何げない会話をアイヌ語で話し、解説を約5分にまとめて毎週水、土曜に配信する。
3人の出会いは中国語の授業。田原さんは、関根さんがアイヌ民族だと、いつどのように聞いたか、覚えていない。「クラスメートとして自然に仲良くなっていた」と田原さん。関根さんは「アイヌのことも含めて、2人は私を私として尊重してくれる」と話す。
しとちゃんねるは「アイヌ語の復興とか大きな目的ではなく、大好きな故郷の家族や友人への恩返しのつもりで始めた」と関根さん。推進法を機に講演や取材の依頼も増えた。でも「『あるアイヌ民族』としてではなく、関根摩耶として、大切だと思うことを伝えていきたい」。よーぴんたちがいれば、きっとできる。
第1条 (前略)アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする
アイヌ民族はかつて北海道や千島列島、樺太(サハリン)、カムチャツカ半島などにすみ、現在は日本など各地で暮らしている。2017年度に道が行ったアイヌ民族の生活実態調査によると、道内のアイヌ民族の人数について把握できたのは約1万3千人。各地のアイヌ協会などが協力し調査しているが、今も根強く残る差別に出自を打ち明けることをためらう人も多く、専門家の間では「民族の血を受け継ぎながら、調査対象から漏れた人は数万人以上」との見方もある。
◆モコットゥナシさんとホシキノのシ、ヌカラのラは小さい文字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/311729