NHK 2020年11月6日(金)

今月(11月)14日(土)から道内で上映が始まる映画「アイヌモシㇼ」。
主人公は道東の阿寒湖畔に暮らす14歳の少年。周囲の大人たちと交流しながら次第に父親の死や自分のルーツを受け入れて成長していく様子を描いています。少年を含め、出演しているのは阿寒湖畔に暮らしている住民のひとたちです。実在する町を舞台に、そこに実在するアイヌの人たちが出演して撮影された映画なのです。まるでドキュメンタリーかと思うほどリアルな内容は、今のアイヌの人たちの生活風景や様々な思いを届けてくれます。
作品を手掛けたのは北海道伊達市出身の福永壮志(ふくなが・たけし)監督です。
どうして現代を生きるアイヌをテーマに選んだのか、
作品に込めた思いをうかがいました。
(芳川)
どうして今回の作品を撮影しようと思ったのでしょうか?
(福永監督)
私は高校を卒業するまで伊達市に住んでいました。北海道で生まれ育ちましたがアイヌの事をちゃんと知る機会はなく、アイヌを意識した事もそこまでありませんでした。
それが変わったのは、高校卒業後、留学先に選んだアメリカでの経験です。アメリカには様々な人種の人たちがそれぞれの声を上げ、周りもそれに耳を傾けるという環境がありました。そこで私は先住民のネイティブ・アメリカンについても知り、その時に初めて、自分が生まれ育った北海道に先住民族のアイヌという存在がいたのに、何も知らないでここまで来てしまったとハッとしたのです。そこで、まずはちゃんとアイヌについて知りたいと思ったのが最初のきっかけでした。それからしばらくして、いつかアイヌを題材にした映画を撮りたいと思うようになりました。
(芳川)
実際に作品を形にするにあたって、大切にした事は何ですか?
(福永監督)
繊細な題材なので、どう撮るかという視線=アプローチがすごく大事だと思いました。思い至ったのは、やはりアイヌ役はアイヌの方にお願いするのが意味があるのではないかという事です。役者ではない方々にお願いする中で、自然な姿でカメラの前で演技をしてもらい、それを作品として成り立たせるというのがすごく大事だと思いました。自然といっても当然、スタッフがいてカメラがあって何テイクもやっての自然なので、映画の中での“自然”であって、それは皆さんの演技です。人間味溢れるみなさんの魅力が画面の中に出ているんじゃないかと思います。逆にそれができなければ作品としてこのアプローチは成立しませんから、阿寒のみなさんと作ったからこそできたと思っています。
(芳川)
映画では、主人公の14歳の少年カントが様々な体験を通して次第に成長していく様子が描かれています。私は正直、見ている途中にこれが“アイヌをテーマにした作品である”という事を忘れる瞬間がたくさんありました。
(福永監督)
どうやったら文化とか言葉とか国籍を超えて伝わる作品になるかと言ったら、やっぱり人間としての普遍性でしかないと思っているんですよね。アイヌという題材があってそれが大きなテーマの1つではありますけど、最終的には人間として共感できる話を作る事をすごく意識しました。結局この作品は人間の話だし少年の成長の話なんです。そういう風に作品として共感をもって見られれば身近に感じられるし、感情移入をして物語を体験する事ができると思います。そういった体験は、見る人の心に何かを残すと思っています。
(芳川)
この映画を通して、世の中にどんな影響が広がっていく事を願っていますか?
(福永監督)
ウポポイも開業して、これだけアイヌというワードが公の場で見られるようになっても、実際の意識、理解はまだまだ低くて、アイヌと聞いて何も知らない人もまだたくさんいます。興味があっても、先入観だったり間違った認識を持っている方もたくさんいる中で、この映画を通してそういう偏見や先入観を少しでも取り除く事ができたらすごく嬉しいし、本当に作った甲斐があったと思えますね。
とはいえ、もちろんこれはアイヌの全てではありません。今を生きる、阿寒に生きる皆さんの姿を映画にした1つの形ですが、この映画を通して、もっとアイヌに対する興味関心やさらなる理解につながれば良いなと思います。何かアイヌについてのニュースや記事があった時に、どこか他人事のように捉えている方がたくさんいると思うんですけど、それはもうアイヌだけの問題じゃなくて和人の問題でもあるし、日本全部の問題でもあるし、強いて言えば世界の問題でもあるんです。ですから自分の事だと思ってもっと身近に捉えてもらえたら良いなと思います。ただ、映画を見て面白いと思ってもらえないとそこにも届かないので、まずは気軽に映画を楽しんでほしいです。阿寒の自然や、そこに住んでいる皆さんの魅力が詰まった映画ではないかなと思うので、それを見て欲しいですね。
アイヌをテーマにした作品と聞くと、とかく私たちは“差別”や“偏見”といったワードを入り口に構えようとしがちです。ところが、映画「アイヌモシㇼ」で描かれているのは、日本中どこにでもあるような1人の少年の成長物語。アイヌは大きなテーマではあるものの決してすべてではなく、だからこそ多くの人が共感できる“普遍性”のある作品だと感じました。もちろん、アイヌの人たちが何を大切にして暮らしているのかも知る事ができます。
映画「アイヌモシㇼ」は、今月(11月)14日から札幌市で上映され、その後、旭川や函館など道内各地でも上映が予定されています。
https://www.nhk.or.jp/hokkaido/caster/r_yoshikawa/slug-n75ef1471f841

今月(11月)14日(土)から道内で上映が始まる映画「アイヌモシㇼ」。
主人公は道東の阿寒湖畔に暮らす14歳の少年。周囲の大人たちと交流しながら次第に父親の死や自分のルーツを受け入れて成長していく様子を描いています。少年を含め、出演しているのは阿寒湖畔に暮らしている住民のひとたちです。実在する町を舞台に、そこに実在するアイヌの人たちが出演して撮影された映画なのです。まるでドキュメンタリーかと思うほどリアルな内容は、今のアイヌの人たちの生活風景や様々な思いを届けてくれます。
作品を手掛けたのは北海道伊達市出身の福永壮志(ふくなが・たけし)監督です。
どうして現代を生きるアイヌをテーマに選んだのか、
作品に込めた思いをうかがいました。
(芳川)
どうして今回の作品を撮影しようと思ったのでしょうか?
(福永監督)
私は高校を卒業するまで伊達市に住んでいました。北海道で生まれ育ちましたがアイヌの事をちゃんと知る機会はなく、アイヌを意識した事もそこまでありませんでした。
それが変わったのは、高校卒業後、留学先に選んだアメリカでの経験です。アメリカには様々な人種の人たちがそれぞれの声を上げ、周りもそれに耳を傾けるという環境がありました。そこで私は先住民のネイティブ・アメリカンについても知り、その時に初めて、自分が生まれ育った北海道に先住民族のアイヌという存在がいたのに、何も知らないでここまで来てしまったとハッとしたのです。そこで、まずはちゃんとアイヌについて知りたいと思ったのが最初のきっかけでした。それからしばらくして、いつかアイヌを題材にした映画を撮りたいと思うようになりました。
(芳川)
実際に作品を形にするにあたって、大切にした事は何ですか?
(福永監督)
繊細な題材なので、どう撮るかという視線=アプローチがすごく大事だと思いました。思い至ったのは、やはりアイヌ役はアイヌの方にお願いするのが意味があるのではないかという事です。役者ではない方々にお願いする中で、自然な姿でカメラの前で演技をしてもらい、それを作品として成り立たせるというのがすごく大事だと思いました。自然といっても当然、スタッフがいてカメラがあって何テイクもやっての自然なので、映画の中での“自然”であって、それは皆さんの演技です。人間味溢れるみなさんの魅力が画面の中に出ているんじゃないかと思います。逆にそれができなければ作品としてこのアプローチは成立しませんから、阿寒のみなさんと作ったからこそできたと思っています。
(芳川)
映画では、主人公の14歳の少年カントが様々な体験を通して次第に成長していく様子が描かれています。私は正直、見ている途中にこれが“アイヌをテーマにした作品である”という事を忘れる瞬間がたくさんありました。
(福永監督)
どうやったら文化とか言葉とか国籍を超えて伝わる作品になるかと言ったら、やっぱり人間としての普遍性でしかないと思っているんですよね。アイヌという題材があってそれが大きなテーマの1つではありますけど、最終的には人間として共感できる話を作る事をすごく意識しました。結局この作品は人間の話だし少年の成長の話なんです。そういう風に作品として共感をもって見られれば身近に感じられるし、感情移入をして物語を体験する事ができると思います。そういった体験は、見る人の心に何かを残すと思っています。
(芳川)
この映画を通して、世の中にどんな影響が広がっていく事を願っていますか?
(福永監督)
ウポポイも開業して、これだけアイヌというワードが公の場で見られるようになっても、実際の意識、理解はまだまだ低くて、アイヌと聞いて何も知らない人もまだたくさんいます。興味があっても、先入観だったり間違った認識を持っている方もたくさんいる中で、この映画を通してそういう偏見や先入観を少しでも取り除く事ができたらすごく嬉しいし、本当に作った甲斐があったと思えますね。
とはいえ、もちろんこれはアイヌの全てではありません。今を生きる、阿寒に生きる皆さんの姿を映画にした1つの形ですが、この映画を通して、もっとアイヌに対する興味関心やさらなる理解につながれば良いなと思います。何かアイヌについてのニュースや記事があった時に、どこか他人事のように捉えている方がたくさんいると思うんですけど、それはもうアイヌだけの問題じゃなくて和人の問題でもあるし、日本全部の問題でもあるし、強いて言えば世界の問題でもあるんです。ですから自分の事だと思ってもっと身近に捉えてもらえたら良いなと思います。ただ、映画を見て面白いと思ってもらえないとそこにも届かないので、まずは気軽に映画を楽しんでほしいです。阿寒の自然や、そこに住んでいる皆さんの魅力が詰まった映画ではないかなと思うので、それを見て欲しいですね。
アイヌをテーマにした作品と聞くと、とかく私たちは“差別”や“偏見”といったワードを入り口に構えようとしがちです。ところが、映画「アイヌモシㇼ」で描かれているのは、日本中どこにでもあるような1人の少年の成長物語。アイヌは大きなテーマではあるものの決してすべてではなく、だからこそ多くの人が共感できる“普遍性”のある作品だと感じました。もちろん、アイヌの人たちが何を大切にして暮らしているのかも知る事ができます。
映画「アイヌモシㇼ」は、今月(11月)14日から札幌市で上映され、その後、旭川や函館など道内各地でも上映が予定されています。
https://www.nhk.or.jp/hokkaido/caster/r_yoshikawa/slug-n75ef1471f841