ナショナルジオグラフィック2024.06.28
クスコ
スピリチュアルなメロディーとアンデスの楽器をヒップホップのビートと融合させるハビエル・クルス。彼のラップネームであるサラ・クタイは「トウモロコシをひく」という意味だ。クルスは少年時代、両親を手伝い、穀物をひいていたという。(PHOTOGRAPH BY VICTOR ZEA DIAZ)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2024年7月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
ケチュア語を話す若いミュージシャンたちが、ヒップホップ音楽を自分たちの言語と文化を表現する手段に変えた。
それは2024年、ある晴れた1月の午後のことだった。ここは、ペルー南部のチチカカ湖畔近くにある都市フリアカ。1年前に政府の治安部隊に虐殺された18人のデモ参加者と見物人を追悼するため、先住民のケチュア族とアイマラ族の人々が何千人も広場に集まっていた。そのなかに、黒い上着、つばの広い黒い帽子、黒と金のブーツに身を包み、黒い馬にまたがった男性がいた。その姿は、スペイン帝国に対する反乱を指揮し、アンデス地方における抵抗の象徴となった先住民の首長、トゥパック・アマル2世を想起させる。ケチュア語の「カイ」(この)とスペイン語の「スール」(南)を合わせたカイ・スールという名で知られる彼は、犠牲者との連帯を表明するため、そしてラップを歌うために、そこに来た。
「わが同胞を殺しても、負かしたことにはならない」。カイ・スールが自身の曲「英雄」をケチュア語で歌うと、ヒップホップのビートが群衆に伝わる。すでにSNSで彼を見て、その歌詞に共感している人も多い。
先住民の言葉でヒップホップの曲を作る若いミュージシャンが増えている。カイ・スールこと、20歳のジェルソン・ランディ・ワンコ・カナサもその一人だ。彼もまた、スペイン語とケチュア語、グローバルとローカル、古代と現代といった、複数の文化と伝統から着想を得て、まったく新しいものを創作している。それはアンデスのルーツと言語を取り戻そうと熱望する、若い先住民のための音楽だ。
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