インサイド 2020/09/10 19:30
秋ですね。
毎日暑いですが秋なんですよね。暦の上では。
今月から徐々に過ごしやすい気候になってくると、いよいよ「実りの秋」、つまり植物が動物が果実や卵のかたちで次世代を生み落とす季節が始まります。
多くの生物にとって冬を前にして最後の一大イベントとなるわけですね。もちろん我々人間にとってもそのおこぼれを山海の「恵み」として享受できる年中最大の機会と言えます。
『あつまれ どうぶつの森(以下、『あつ森』)』の世界でも北半球では秋の兆しがそこここに顕れてきました。
わかりやすいのはなんといっても9月限定で出現するようになった「サケ(シロザケとも)」でしょう。
現実世界でも食材としておなじみのサケですが、彼らは何かにつけて特殊な魚です。
まず、川魚とも海魚とも断言し難いそのライフサイクル!
サケの仲間は主に8月下旬から9月にかけて海から河川へ遡上し、川底に卵を産み落とします。
▲秋のはじめ、産卵のために川を遡るサケたち
……『あつ森』で今の時期に河口でサケが釣れるのはこの辺りの生態を再現しているわけですね。
▲サケとキングサーモンは河口で釣れます。産卵のため海から川へ遡上する生態を反映しているのでしょう。
そして卵から孵った稚魚は川を降り、海で成魚へと成長。やがて自身が産まれた川へと帰還して産卵します。その際に雌雄ともにあらん限りの生命を使い果たし、力尽きる……。という非常に壮大な一生を送るのです。
▲産卵を終えて力尽きたキングサーモンたち
なお、サケたちが川に託したイクラと亡骸は豊かな北海からの栄養を河川や陸地へ循環させる意味で大きな役割を担います。ヒグマやキタキツネ、その他の川魚などはサケの遡上なしでは冬を生き抜くのが格段に難しくなることでしょう。
▲もちろん、人間もご相伴にあずかるわけですが。
また、サケは海から川へ遡上する過程でその姿を大きく変えます。
海にいる間は全身が銀色に輝いており、オスもメスもやや丸みを帯びた顔立ちをしています。この状態を「銀毛」と呼び、身の味が比較的良い段階とされます。
▲産卵期に沿岸で釣れた「銀毛」のサケ。これがさらに成熟すると「ブナ毛」になる。
しかし、河川への遡上が始まると徐々に体色がくすみ、ブナの樹皮のような模様を纏いはじめます。
これはいわゆる婚姻色で、産卵に備えて完全に成熟した状態を示し、「ブナ毛」「ブナ鮭」あるいは単に「ブナ」などと呼ばれます。
▲「ブナ毛」の雄。
なお、ブナ毛の段階では体色のみならず皮膚も砂利底に身体をこすりつけても怪我をしないよう厚く強く変化します。
さらに雄は口先が伸びて湾曲し、「鼻曲がり」と呼ばれる独特な顔立ちに変身までする始末。
つまり『あつ森』で釣れるサケはすべて「ブナ毛の雄」ということになります。
▲体に模様がある&鼻先が曲がっている=成熟しきった雄(ブナ毛の鼻曲がり)!
なお、ブナ毛のサケは卵巣(すじこ、イクラ)や精巣(白子)に栄養を全振りしている上に遡上や産卵行動で消耗していることが多いのです。
身は脂が少なく、身色も抜けて白っぽく、一般的にあまり美味しくないとされます。
しかし、保存食である荒巻鮭にはむしろ脂の少ないブナ毛の方が向いているという意見もあるようで、いよいよ食材として無駄のない魚です。
さすがアイヌの人々に「カムイ・チェプ(神の魚)」と呼ばれるだけのことはあります。
さらに『あつ森』ではサケと同じポイントでより大型になる「キングサーモン」も釣ることができます。
キングサーモンは最大で1.5メートル近くと、その名の通りサケ・マスの仲間では世界最大級となる魚です。
いかにも外国の魚でございという感があるかもしれませんが、日本の沿岸にも生息しており「マスノスケ」という和名もあるのです。
キングサーモンもサケと同じように川で生まれ、海で育ち、川で次代を残して力尽きるライフサイクルを送ります。
なお、婚姻色は「ブナ毛」ではなく頭より後ろの魚体がくすんだ赤に染まります。巨大さと美しさを兼ね備えた魅力的な魚と言えます。
▲『あつ森』で釣れるキングサーモンも婚姻色の出た雄ばかりですが、サケと並ぶとかなり外見は異なります。
もちろん、美味しさだってぬかりなく備えています。魚体が大きいからといって大味ということはなく、数あるサケ・マスの中でも特に脂が乗っていてたいへん美味。
そういえば、北海道にはキングサーモンの握りを提供している回転寿司屋さんがありました。
東京のデパ地下にある魚屋さんで切り身を買ったこともあります。
みなさんも機会があれば、ぜひ一度味見をしてみてはいかがでしょうか。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
https://news.goo.ne.jp/article/insidegames/trend/insidegames-129501.html
秋ですね。
毎日暑いですが秋なんですよね。暦の上では。
今月から徐々に過ごしやすい気候になってくると、いよいよ「実りの秋」、つまり植物が動物が果実や卵のかたちで次世代を生み落とす季節が始まります。
多くの生物にとって冬を前にして最後の一大イベントとなるわけですね。もちろん我々人間にとってもそのおこぼれを山海の「恵み」として享受できる年中最大の機会と言えます。
『あつまれ どうぶつの森(以下、『あつ森』)』の世界でも北半球では秋の兆しがそこここに顕れてきました。
わかりやすいのはなんといっても9月限定で出現するようになった「サケ(シロザケとも)」でしょう。
現実世界でも食材としておなじみのサケですが、彼らは何かにつけて特殊な魚です。
まず、川魚とも海魚とも断言し難いそのライフサイクル!
サケの仲間は主に8月下旬から9月にかけて海から河川へ遡上し、川底に卵を産み落とします。
▲秋のはじめ、産卵のために川を遡るサケたち
……『あつ森』で今の時期に河口でサケが釣れるのはこの辺りの生態を再現しているわけですね。
▲サケとキングサーモンは河口で釣れます。産卵のため海から川へ遡上する生態を反映しているのでしょう。
そして卵から孵った稚魚は川を降り、海で成魚へと成長。やがて自身が産まれた川へと帰還して産卵します。その際に雌雄ともにあらん限りの生命を使い果たし、力尽きる……。という非常に壮大な一生を送るのです。
▲産卵を終えて力尽きたキングサーモンたち
なお、サケたちが川に託したイクラと亡骸は豊かな北海からの栄養を河川や陸地へ循環させる意味で大きな役割を担います。ヒグマやキタキツネ、その他の川魚などはサケの遡上なしでは冬を生き抜くのが格段に難しくなることでしょう。
▲もちろん、人間もご相伴にあずかるわけですが。
また、サケは海から川へ遡上する過程でその姿を大きく変えます。
海にいる間は全身が銀色に輝いており、オスもメスもやや丸みを帯びた顔立ちをしています。この状態を「銀毛」と呼び、身の味が比較的良い段階とされます。
▲産卵期に沿岸で釣れた「銀毛」のサケ。これがさらに成熟すると「ブナ毛」になる。
しかし、河川への遡上が始まると徐々に体色がくすみ、ブナの樹皮のような模様を纏いはじめます。
これはいわゆる婚姻色で、産卵に備えて完全に成熟した状態を示し、「ブナ毛」「ブナ鮭」あるいは単に「ブナ」などと呼ばれます。
▲「ブナ毛」の雄。
なお、ブナ毛の段階では体色のみならず皮膚も砂利底に身体をこすりつけても怪我をしないよう厚く強く変化します。
さらに雄は口先が伸びて湾曲し、「鼻曲がり」と呼ばれる独特な顔立ちに変身までする始末。
つまり『あつ森』で釣れるサケはすべて「ブナ毛の雄」ということになります。
▲体に模様がある&鼻先が曲がっている=成熟しきった雄(ブナ毛の鼻曲がり)!
なお、ブナ毛のサケは卵巣(すじこ、イクラ)や精巣(白子)に栄養を全振りしている上に遡上や産卵行動で消耗していることが多いのです。
身は脂が少なく、身色も抜けて白っぽく、一般的にあまり美味しくないとされます。
しかし、保存食である荒巻鮭にはむしろ脂の少ないブナ毛の方が向いているという意見もあるようで、いよいよ食材として無駄のない魚です。
さすがアイヌの人々に「カムイ・チェプ(神の魚)」と呼ばれるだけのことはあります。
さらに『あつ森』ではサケと同じポイントでより大型になる「キングサーモン」も釣ることができます。
キングサーモンは最大で1.5メートル近くと、その名の通りサケ・マスの仲間では世界最大級となる魚です。
いかにも外国の魚でございという感があるかもしれませんが、日本の沿岸にも生息しており「マスノスケ」という和名もあるのです。
キングサーモンもサケと同じように川で生まれ、海で育ち、川で次代を残して力尽きるライフサイクルを送ります。
なお、婚姻色は「ブナ毛」ではなく頭より後ろの魚体がくすんだ赤に染まります。巨大さと美しさを兼ね備えた魅力的な魚と言えます。
▲『あつ森』で釣れるキングサーモンも婚姻色の出た雄ばかりですが、サケと並ぶとかなり外見は異なります。
もちろん、美味しさだってぬかりなく備えています。魚体が大きいからといって大味ということはなく、数あるサケ・マスの中でも特に脂が乗っていてたいへん美味。
そういえば、北海道にはキングサーモンの握りを提供している回転寿司屋さんがありました。
東京のデパ地下にある魚屋さんで切り身を買ったこともあります。
みなさんも機会があれば、ぜひ一度味見をしてみてはいかがでしょうか。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
https://news.goo.ne.jp/article/insidegames/trend/insidegames-129501.html