…先住民を激怒させた前時代的な“超格差政策”
MSN産経ニュース 2013.10.20 12:00[大阪から世界を読む]
サッカーの2014年ワールドカップ(W杯)開催まで1年を切ったブラジルで、さまざまな問題が噴出している。6月のサッカー・コンフェデレーションズ杯開催中には汚職や物価高騰などに反発する数万人規模のデモが起き、10月にも先生の待遇改善をめぐる激しいデモが繰り広げられた。さらに、ブラジル国会前には、手に槍(やり)や弓を持った先住民たちが陣取った…。急成長を遂げるブラジルだが、いずれも貧富の格差の拡大に対する不満が噴出した格好だ。(大谷卓)
AP通信やロイター通信などによると、ブラジルの首都ブラジリアで10月1日、アマゾン川流域の先住民たちが抗議活動を行った。場所はブラジル議会前。男性も女性も伝統衣装に身を包み、顔にはペイント。手には槍や弓、斧(おの)を携えていた。そして、こう訴えた。
「わたしたちをないがしろにする法律について話し合いたい。大豆栽培農家や大農場経営者がわれわれの土地を奪っている」
フランス通信(AFP)によると、ブラジル政府は今年6月、アマゾンの森林消失面積は8年前に比べ約84%減少したと発表した。一方で、地元メディアは7月、12年8月~13年6月におけるアマゾンの森林伐採総面積は1838平方キロメートルで、前年同期(907平方キロメートル)と比べ、ほぼ倍増したという非政府組織(NGO)の調査結果を伝えている。
アマゾンでの森林破壊の主な原因としては、火災のほか、農地拡大や牧場拡大、不法な森林伐採などが挙げられており、先住民たちはそれらに怒り、実力行使へと打って出たのだ。
人口2億人のブラジルは世界有数の農業生産国だが、耕作地の半分近くを、わずか1%程度とされる大農場経営者が所有しているとされる。しかも農地は拡大傾向にある。中国向けの大豆やトウモロコシなどの輸出が増えているためだ。
逃げ出したくなる社会
実はアマゾンの先住民たちはここ数年、同じような抗議活動を行っている。
フランス通信(AFP)によると、一昨年には、ブラジル北部パラ州のアマゾン川支流の河川に建設予定だった総工費110億ドル(約1兆1千億円)にのぼる巨大な発電ダム建設に抗議する活動をサンパウロで行った。ダムができれば熱帯雨林500平方キロメートルが水没するとみられている。
広大な未開発の土地は、一握りの人には魅力的に映るが、大部分の人は先住民のように搾取される側の人間だ。先住民の居住面積は国土の約1割を占める。先住民たちの怒りの原因は、こうしたいびつな社会のありようでもある。
ブラジルほどではないかもしれないが、日本でも社会の格差は日増しに拡大している。
厚生労働省は10月2日、7月に生活保護を受けた世帯が全国で前月比5213世帯増の158万8521世帯に上り、過去最多を更新したと発表した。受給者数は5824人増の215万8946人。とくに大阪は貧困率が高いとされ、生活保護をめぐっては不正受給も続いている。
テリー・ギリアム監督による1985年公開のSF映画「未来世紀ブラジル」は、情報統制がなされた「20世紀のどこかの国」を舞台に、統制された人間社会の狂気と、そこから逃げだそうとする人間の本能を描いた。
映画の舞台はブラジルではないし、もちろん日本でもない。状況は全く異なるが、「逃げ出したい」と思えてしまう社会の歪(ゆが)みには共通するものがある気がする。
ブラジルでは1年後のW杯に続き、3年後にはリオデジャネイロで夏季五輪が開かれる。そのとき、社会は少しでも歪みを是正できているだろうか。それは、7年後に東京で夏季五輪を迎える日本にも言えることだ。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131020/waf13102012000008-n1.htm
MSN産経ニュース 2013.10.20 12:00[大阪から世界を読む]
サッカーの2014年ワールドカップ(W杯)開催まで1年を切ったブラジルで、さまざまな問題が噴出している。6月のサッカー・コンフェデレーションズ杯開催中には汚職や物価高騰などに反発する数万人規模のデモが起き、10月にも先生の待遇改善をめぐる激しいデモが繰り広げられた。さらに、ブラジル国会前には、手に槍(やり)や弓を持った先住民たちが陣取った…。急成長を遂げるブラジルだが、いずれも貧富の格差の拡大に対する不満が噴出した格好だ。(大谷卓)
AP通信やロイター通信などによると、ブラジルの首都ブラジリアで10月1日、アマゾン川流域の先住民たちが抗議活動を行った。場所はブラジル議会前。男性も女性も伝統衣装に身を包み、顔にはペイント。手には槍や弓、斧(おの)を携えていた。そして、こう訴えた。
「わたしたちをないがしろにする法律について話し合いたい。大豆栽培農家や大農場経営者がわれわれの土地を奪っている」
フランス通信(AFP)によると、ブラジル政府は今年6月、アマゾンの森林消失面積は8年前に比べ約84%減少したと発表した。一方で、地元メディアは7月、12年8月~13年6月におけるアマゾンの森林伐採総面積は1838平方キロメートルで、前年同期(907平方キロメートル)と比べ、ほぼ倍増したという非政府組織(NGO)の調査結果を伝えている。
アマゾンでの森林破壊の主な原因としては、火災のほか、農地拡大や牧場拡大、不法な森林伐採などが挙げられており、先住民たちはそれらに怒り、実力行使へと打って出たのだ。
人口2億人のブラジルは世界有数の農業生産国だが、耕作地の半分近くを、わずか1%程度とされる大農場経営者が所有しているとされる。しかも農地は拡大傾向にある。中国向けの大豆やトウモロコシなどの輸出が増えているためだ。
逃げ出したくなる社会
実はアマゾンの先住民たちはここ数年、同じような抗議活動を行っている。
フランス通信(AFP)によると、一昨年には、ブラジル北部パラ州のアマゾン川支流の河川に建設予定だった総工費110億ドル(約1兆1千億円)にのぼる巨大な発電ダム建設に抗議する活動をサンパウロで行った。ダムができれば熱帯雨林500平方キロメートルが水没するとみられている。
広大な未開発の土地は、一握りの人には魅力的に映るが、大部分の人は先住民のように搾取される側の人間だ。先住民の居住面積は国土の約1割を占める。先住民たちの怒りの原因は、こうしたいびつな社会のありようでもある。
ブラジルほどではないかもしれないが、日本でも社会の格差は日増しに拡大している。
厚生労働省は10月2日、7月に生活保護を受けた世帯が全国で前月比5213世帯増の158万8521世帯に上り、過去最多を更新したと発表した。受給者数は5824人増の215万8946人。とくに大阪は貧困率が高いとされ、生活保護をめぐっては不正受給も続いている。
テリー・ギリアム監督による1985年公開のSF映画「未来世紀ブラジル」は、情報統制がなされた「20世紀のどこかの国」を舞台に、統制された人間社会の狂気と、そこから逃げだそうとする人間の本能を描いた。
映画の舞台はブラジルではないし、もちろん日本でもない。状況は全く異なるが、「逃げ出したい」と思えてしまう社会の歪(ゆが)みには共通するものがある気がする。
ブラジルでは1年後のW杯に続き、3年後にはリオデジャネイロで夏季五輪が開かれる。そのとき、社会は少しでも歪みを是正できているだろうか。それは、7年後に東京で夏季五輪を迎える日本にも言えることだ。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131020/waf13102012000008-n1.htm