江戸の仕事で注目される一つは火消。それもそのはず、年間2千件を超える火事が江戸では発生していました。火消にも、町人が携わる町火消と、武家、大名が従事する侍火消とあり、本書は侍火消の物語です。
旗本の松平隼人家の火消の頭領をやんごとなき理由で辞し、浪人の身であった松永源吾は、奥州戸沢家新庄藩の火消方頭取に召されました。戸沢藩でそのポストが空き、「火喰鳥(ひくいどり)」という異名を持つ源吾の実績に着目され、新庄藩の火消隊の立て直しならびに藩火消の名声を上げることを任されました。但し、藩財政が乏しく、前職での年間1千両に対し、2百両の予算、火消道具も不足、人も足らない上に人材が育っていない。とにかく、源吾は有能な火消人のヘッドハントと人材育成から始めなければならない。
どうしようもない困難なところからのV字回復の話がつまらないわけがありません。数々と起こる火事のたびに、人間模様が紡がれ、涙もこぼれます。また、名セリフがちょいちょい現れ、ジーンとくることしばしば。
「日は人々の暗い今日を消すために沈み、人々の輝く明日を彩るために昇る」
「お前にとって一日は暦の中の単位なのかもしれねぇ。でも人は、その一日にしがみついて必死に生きているんだ!」
「(焼け崩れた家を見て)また建てればいい。人は心さえ決めれば何度でもやり直せる」
消化、鎮火の火消ではなく、あくまで命を守ることを第一義に置く新庄藩火消。金がないので羽織も揃えることが出来ず、みすぼらしいことを逆手にとって、ぼろ鳶組として、実績とともに名をあげる。著者のデビュー作はすでにシリーズ9巻とスピンアウト1巻。著者は源吾の先祖、戦国武将の松永久秀を描いた『じんかん』で今回2度目の直木賞候補。2巻以降にも触手を伸ばします。
『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾著、祥伝社文庫、本体価格740円)
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