月をテーマに3編の物語です。これを書いた著者の創造力、想像力の逞しさに驚きました。
大学の教授に昇進し、著書も版を重ね、関東ローカルながらもコメンテーターも務める高志一家はファミリーレストランで夕食を楽しんでいました。高志がトイレの窓から満月を見上げた時から一気に奇妙な展開になります。トイレに入ってきた背後の男と高志が外見は一緒ながらも入れ代わる。そこからの顛末は本書の「そして月がふりかえる」で。
石を収集していた叔母さんからもらった「風景石」。それは月の風景の石、月景石。この石を枕の下にして眠ると、とてつもない夢を見る。それ以降の夢の奇天烈な流れには、現実と月の世界とのインターフェースが介在し、最後には信じられない月の魔力を感じます。
最後の「残月記」は近未来の小説ですが、その内容は今のコロナを想起させるし、全体主義国家政権下で描かれている市井はとても恐ろしい。月昂(げっこう)という感染に罹患すると徹底的な隔離が行われ、収容所に閉じ込められる。人権なんて全く存在しない中、月昂者の男女の愛の美しさに読者は悪政を忘れて、愛の行く末を心配するでしょう。
本屋大賞にもノミネートされたSFの大作と言って良い本書。読むと月を見るのが怖くなるかもしれません。
『残月記』(小田雅久仁著、双葉社、本体価格1,650円、税込価格1,815円)
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