あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

キリの理容室

2022-07-11 15:46:35 | 

 主人公の神野キリは名前の通り、理容専門学校を卒業し、理容師になりました。その志望動機は、父と別れ、キリも捨てた、繁昌していた理容店を営む理容師の母への復讐、仕事で見返すことでした。卒業後に修行として勤めたバーバーチーは母が独立前に働いていた店。そこで一人前への道を歩むキリは理容師として、1人の仕事人としての気概を植えつけられます。

 「自分の仕事に頭を下げる」「誇りを持っている仕事」「自分を知れ!」「お客さまが本来持っている輝きに磨きをかける」「いつも同じ気持ち、同じ仕事振りを心がける」

などを理解し、行動へ移すことで、母の力量を超える階段を昇っていきます。そして、理容師としての母の思いを知り、さらに大きく飛躍するキリの成長は人間の器の大きさを変えていきます。

『キリの理容室』(上野歩著、講談社文庫、本体価格770円、税込価格847円)

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錦繍

2022-07-11 15:26:18 | 

 10年前に離婚した元夫と蔵王のゴンドラ・リフトで偶然にも同乗し、お互いに誰かはわかっていながらも、再会時には言葉を交わさず別れましたが、彼の住所を調べて、そこから手紙の交換が始まり、書簡集としての物語になっています。

 離婚に至る発端の事件が京都嵐山の旅館での元夫と他の女との心中事件でした。命を取り留めた夫とは事件の詳細、そして情死した女のことも聞かずに10年を経て、お互いに過去を手紙で語り合い、今は別々の道を生きるとも、本当は愛し合っていた、ラブレターの応酬になっています。過去を綴る中で、

 「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれへん。」

という思いを共有し、今を懸命に生きています。その姿を理解することこそが過去の誤解を融解し、互いに認め合うんだなぁと感慨深く読了しました。

『錦繍』(宮本輝著、新潮文庫、本体価格550円、税込価格605円)

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