語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】汚染大国 ~PM2.5、農薬、重金属まみれの野菜~

2013年10月12日 | 社会
(1)大気
 (a)北京、今年28日。PM2.5が200μg/立米超。住民のほとんどはマスクをしていない。諦め、無知、楽観。

(2)水
 (a)中国では、朝一番の水は使えない。しばらく捨てないと。北京は碁盤の配管ごと古く、一部に鉛など有害物質が含まれている。細部の規制は2004年にやっと出た。
 (b)飲用、料理用の水は、全部スーパーで鉱泉水を買うなど、1人暮らしの水代は日本の3倍。うち17%は税金だ。
 (c)ただし、安全な飲み水を買えるのは人口の3割。しかも、買った水が本当に安全とは限らない。家庭用の本格的な浄水器も、今よく売れている。

(3)野菜
 (a)安い路上で買えば、土地を持たぬ農民(正規の入札資格がない)が、廃棄物の川の横で育てていたものだったりする。
 (b)スーパーで売っている無農薬野菜を本物と信じる北京の住民はいない。農場で検査用に1平米のみ無農薬にしたら、そこの野菜だけネズミが食べた、という話がある。

(4)肉
 (a)北京郊外に検疫所があり、病死した動物はここではねられる。だが、闇業者が捌いて、周辺の出稼ぎ農民向けの食堂や屋台に安く売る。一部は偽の検疫印を押し、市内の市場に売る。
 (b)「レバーは買うな、豚は特にダメ、鶏もホルモン漬け、中国人は何でもする」・・・・肉は回族(イスラム教徒)の店から買うこともできる。宗教的理由で漢族の店より安全なのだ。

(5)魚介類
 (a)経済発展した沿岸がほぼ全域、重金属で汚染されている。ために、スーパーでは生きた貝を見かけない。代わりにサーモンなどが販売される。日本より高いが、よく売れている。ただし、非正規市場では貝もよく売られている。
 (b)魚は、池にピルを放り込んで養殖される。

(6)油
 (a)輸入オリーブ油は、「原装」(原産地で瓶詰め)で買うこと。樽で運び、中国国内で小分け瓶詰めすると、大手メーカーでも100%混ぜものをする。
 (b)地溝油は、原料をドブから浚うものもあるが、高級中華料理店から出た残飯油も多い。農民の2人組が毎日やってきて、重い専用桶をダッシュで運び出したりする。ルートが確立している。丹念に調査していた中国のTV記者が、2011年9月に路上で複数に刺殺された。「屋台のものは絶対食べるな」・・・・地溝油は、主に屋台、小店舗に販売される。それを鉄板の上でたっぷりかけながら、発泡剤で作ったハンペン、病死した動物の肉、高農薬で納品できないニラなどを香ばしく焼き上げる。そういう食品が主食の人もまた多い。安いのだ。

(7)汚染は弱者に集中 
 (a)身の安全を守るには、買い物の場所も重要だ。一般的には、大手スーパーで買えば「比較的」本物が「多い」、とされている。一応、農薬と検疫検査もあり、正規業者から仕入れる。その分、高額の税を国に納め、ワイロを含めて諸経費が乗った商品は高い。スーパーも業者から高い場所代を取る。
 (b)一方、ワーカー用の小店には、地下製造の偽調味料がずらりと並ぶ。偽シャンプー、偽石鹸・・・・何でも安い。不法再生プラスチック食器は、吐き気をもよおす匂いを放つ。

(8)権力的汚染格差
 (a)中国の軍や大国営企業は、1950年代から自給自足のために農場を持っていた。今も、自分たちのためにだけ、市場に流れない安全な農産物や畜産物を作る。
 (b)2011年、北京の税関の秘密無農薬農場が話題になった。北京にいると、時に横流し品が流れてきて、たしかに良質だ。
 (c)PM2.5が700を超えた今年2月、首都空港から続々と、小型プライベートジェットや、護衛機に囲まれた大型機が海南島に脱出した。商人にして官僚、もしくは民間新進企業の若い社長たち、または中国の本当の要人たちだ。
 海南島は、空気が中国一きれいなところだ。プライベートビーチとプールを持つ巨大な5つ星ホテルがずらりと並ぶ。官僚が官費で来ることができるよう会議場も多い。今年2月、海南島の道はベンツや大型BMWなど高級車のみで渋滞していた。
 北京にマンション47室所有、海南島に4室所有、子どもは海外・・・・こういう人は今の中国では珍しくない。
 (d)マンションやオフィスにいる人はまだいい。冬も夏も1日中この大気の中にいるのが、路面の商店員、建築作業員、ネット通販大ブームで1日14時間を自転車やオート三輪で配達に駆け回る宅配便の配達員だ。マスクをしていたら仕事にならない。ストレスで吸う煙草も飲む酒も偽物。屋台の酒は100%問題がある。彼らは寮暮らしが多いが、自分で借りたら中国の安い部屋は壁のペンキの裏がカビだらけだったり、雨が降れば汚水槽になる地下部屋だ。
 ワーカー層は、仕事そのものが汚染(規定が守られていない)にさらされることが多い。複合汚染で本人、家族に病人を抱えている率が非常に高い。治療費は日本より高く、年収の20倍、など。保険はない。都市の中流は、付き合うな、借金を申し込まれる、という。
 (e)パナソニックの空気清浄機と3MのPM2.5対応高機能クーラーフィルターでかろうじて凌げるが、1ヵ月くらいでフィルターはひどく変色し、ランニングコストは月1,000円。中国でこれを支払い続ける人は少数派だ。

(10)都市と農村の汚染格差
 (a)中国の大気汚染トップ3は、工業都市だ。北京ではない。つまり、北京以上にひどい。
 内陸もひどい。東北(古くからの工業地域)は、肺癌多発地帯だ。 
 北京近郊の保定は自動車産業が盛んだが、汚染トップ3に入る。今年9月末、PM2.5が500を超えた(「測定外」)。北京から保定に至る道の途中から、酸っぱい匂いが立ちこめてくる。都市から集めたペットボトルの不法再生の家内工業が並ぶ。その隙間に野菜が植えられ、子どもが遊ぶ。その野菜をせっせと食べた騾馬の現場料理店が道路脇に。農村には水道のないところが多い。工場の汚染水が土壌に染み込み、その地下水を飲用にする。
 (b)電池工場からの鉛流出、農薬工場からの水源汚染などで、農村や工業地帯では奇形児出産、肝臓障害多発で暴動が起きている。 
 (c)中国全土で癌村の数は定かではないほど多く、分布は沿岸のみならず内陸にも広く及ぶ。
 (d)日本への輸出野菜や食品は沿岸の農村で作られていることが多い。輸入の水際の全量検査は不可能だし、重金属検査は手薄だ。 

(11)環境汚染が止まらない理由
 (a)経済優先を掲げる汚職があって、見張るべき当地政府が汚染企業と一体化している。 
 (b)取り締まる環境保護部は、地位が低く、誰も言うことを聞かない。
 (c)罰金が安い。汚染水を垂れ流し、罰金を払った方がコストが低い。 
 (d)大気汚染も、北京のPM2.5の2割は排気ガスによる。中国の超低品質なガソリンを品質アップすればPM2.5を減らすことができる。しかし、設備投資に巨額のコストがかかる。対策は立てられたが、中国石油化工・天然ガス集団(東北と内陸に油田を持つ)と中央西部の汚職が深すぎて進まなかった。9月に幹部が拘束・解任され、10月から品質改定の通知が出たが、過去、実行されたためしがない。

(12)不動産バブル
 (a)官僚と商人がセットのチームは、儲けたカネで逃亡準備万全だ。残されたのは汚染大地と病気だけ。
 (b)それだけでも庶民は怒り心頭なのに、いま中国全土を異様な物価高が襲っている。原因は、不動産バブルだ。2002年に新築された100平米の部屋が、当時680万円だったが、2013年現在1億7千万円。中国人たちは、この間、手に入れた1室を担保に銀行ローンやシャドーバンキング(裏の高利貸し)などから資金を調達し、転売を繰り返して、ネズミ算式に100室に増やした。同じことを上から下まで、権力、財力、人脈力ごどに棟単位、開発地単位でやった。政府は、自分たちが設け尽くすまで転売税をかけなかった。彼ら主導のすさまじいバブルの結果が、全人代と政協委員、上位83人の平均資産3,350億円という結果をもたらした。いま、不動産は高値止まりで動かない。下手に下げると国が崩壊する。乗っかって儲けた人も多いが、人口13億人の中では少数だ。
 (c)バブルの実態のなさを庶民に転嫁し、地代、物価の上昇に人件費上昇は追いつかない。企業はまともなものは作れず、店も安全な食事を出せない。庶民は働きは全部高い家賃と必需品(および税)に持って行かれる。ボロ家が年収200年分だ。
 (d)そのカネで、スポーツカーと飛行機を乗りまわす富2代の濃い排気ガスを浴びながら、あらゆる汚染の中で、安全性の非常に不確かなものを食べざるを得ない。
 (e)今、中国人民の多くは、過去のどの時代よりキレる寸前だ。中国共産党は、11月に第3回全体会議を開く。テーマは「経済」。無事、開催できるのか。

□谷崎光(作家/北京在住13年)「現地ルポ PM2.5、農薬、重金属まみれの中国野菜が日本にくる? 汚染大国・中国のすさまじい現実」(「週刊朝日」2013年10月18日号)
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 【参考】
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